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初回放送から9年経っても色褪せない名作…シーズン3まで続いた“医療ドラマ”の傑作 

  • 2025.5.2
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(C)SBS

2016年に韓国でスタートし、2023年にはシーズン3まで制作された超ロングラン医療ドラマ『浪漫ドクター キム・サブ』。初回放送から9年を経た現在でも、名作の呼び声が高く、レビューサイトやSNSでは高評価を得ている、韓ドラファンなら通っておくべき一本と言えるだろう。本作は、医療ドラマでありながらも、"生き方"や"信念"に深く踏み込んだヒューマンストーリーでもある。息をのむようなオペシーンの緻密さ。キャラクターたちが抱えるトラウマや過去の罪。そのどれもが、ただのエンタメに留まらず観る者の胸に刺さる。視聴者の多くが「医療ものにハマるなんて思ってもみなかった」という感想を残すのも納得だ。現在も熱狂的なファンを生み続ける理由を、あらためて紐解いてみたい。

「キム・サブ」という男のカリスマ性

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(C)SBS

トルダム病院の名医キム・サブ(演:ハン・ソッキュ)は、もとは有名大学病院の外科部長だったが、何らかの理由で一線を退き、地方病院で再起を図っている人物だ。卓越した技術と知識を持ち、時に神のようなスピードと精度で患者の命を救う姿は、まさに“浪漫ドクター”そのもの。

しかし、キム・サブの魅力は「ただの天才医師」に留まらない。ぶっきらぼうで皮肉屋、そして頑固。患者を診る前に人間を診ることを大切にし、院内政治には徹底して背を向ける。彼のたった一つのルールは、目の前の患者の命を救うこと。たとえ、とある経緯から院内での医療行為が禁止されたとしても、そんなルールに従う理由はキム・サブにはない。

彼の言葉は医療という枠を超え「どう生きるべきか」という問いを突きつけてくる。

「勝ちたければ、必要な医師になれ」

「働き方を知っていても、働く意味を知らなければ医師とは言えない」

こうしたセリフに重みを与えているのが、主演ハン・ソッキュの存在感だ。韓国の“演技派スター”として長く支持されてきた彼が、キム・サブという一筋縄ではいかない人物をリアリティと深みをもって演じきっている。視聴者の多くが「とにかくキム・サブに惚れる」と語るのも頷ける。

傷だらけの医師たち、再生の物語

物語を彩るのは、キム・サブを取り巻く若い医師たちの成長と葛藤だ。

主人公の一人、カン・ドンジュ(ユ・ヨンソク)は、幼少期に医療ミスによって父を亡くしたという過去を持ち、その復讐心にも似た強い思いを胸に医師の道を志す。もう一人の主人公、ユン・ソジョン(ソ・ヒョンジン)は、婚約者の突然の死や自身が遭遇した交通事故によるPTSDに苦しみながらも、医師としての使命感に燃えている。

彼らは、私たちと同じように過去の傷を抱え、ときに立ち止まりながらも、懸命に患者と向き合おうとする。“医師である前に人間である”という当たり前の事実に改めて気づかされる彼らの姿は、観る者の胸に深く突き刺さる。

ドンジュとソジョンの再会、そして心の交流は、単なる恋愛模様としてではなく「傷を抱える者同士が互いを理解し、支え合う」という、より普遍的な人間関係の美しさを描き出している。

彼らの再生の物語は、医療ドラマという枠を超え、人生における希望の光を示唆していると言えるだろう。

“命を救う”だけでは終わらない人間ドラマ

『キム・サブ』の本質は、オペ室の緊張感や手術の成否にとどまらない。キム・サブが時折口にするような哲学的な問いや、病院というコミュニティのなかで起きる人間模様が、視聴者の心を揺さぶるのである。

看護師長のオ・ミョンシム(チン・ギョン)は、温かくも芯のある人物で、理不尽には一歩も引かない。行政室長のチャン・ギテ(イム・ウォニ)はどこか憎めない調整役。彼らのような名バイプレイヤーの存在が、医療現場を単なる“職場”ではなく、“生きる場所”として立体的に描いている。

さらに、シーズンを重ねるごとに描かれるテーマの深度も増していく。出世競争に敗れた者、失敗に打ちひしがれた者、過去の罪を背負った者。そんな人々がキム・サブの元に集まり、再び命と向き合う意味を見出していく。これは医療ドラマではなく、“人生そのもの”を描いた群像劇なのだ。

“いまからでも遅くない”『キム・サブ』という名作に触れるタイミング

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(C)SBS

『キム・サブ』の魅力は、初回から発揮される。目まぐるしいテンポで展開されるエピソード、突き抜けたキャラクターたち、心に刺さるセリフの数々。気づけば視聴者はその世界に引き込まれてしまう。

2016年に放送されたシーズン1は、いつ観てもまったく古びた印象を与えない。むしろ、過剰な演出ではなく、地に足のついた人間描写が視聴者に安心感と没入感を与える。

シーズン2、シーズン3と続くに従い、新たな登場人物たちも加わり、物語はさらに広がっていく。「シーズンものって長いから……」と躊躇する人にこそ伝えたい。『キム・サブ』は1話から心を掴まれ、最後まで走り抜けたくなる中毒性を持ったドラマだ

キム・サブという一人の不器用ながらも情熱に溢れた医師を中心に描かれる『キム・サブ』は、高度な医療技術や専門知識をひけらかすドラマではない。そこで描かれているのは、患者の命と真摯に向き合う“姿勢”そのものの尊さだ。

感情過多に陥ることなく、かといって淡々と事実を述べるだけでもない。絶妙なリアリズムと温かいヒューマニズムが織りなす物語は、観る者の心に静かに、しかし確実に、人生における大切な問いを投げかけてくる。これは、単なる医療の現場を描いたドラマではなく、そこで生きる人々の情熱と葛藤を描いた、感動のヒューマンドラマだ。



『浪漫ドクター キム・サブ』
ABEMAにて5月15日まで全話無料配信中
番組URL:https://abema.tv/video/title/472-31

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_