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2面性の初恋ストーリーの展開に、視聴者騒然…人と対照的に映し出される“素直で純粋な犬の感情” 『初恋DOGs』

  • 2025.7.15

この夏のテレビドラマの中で、その製作体制でひときわ注目を集めているのが、火曜日22時から放送中の『初恋DOGs』だ。本作は、TBSと『愛の不時着』などの世界的ヒットドラマで知られる監督のスタジオ・ドラゴンとの共同制作だ。

犬同士の“一目惚れ”から始まるというユニークな設定と、国境を越えた三角関係が描かれる本作は、素直になれない人間の大人たちと、素直な愛情表現を振りまく犬たちの恋愛を対比的に描きながらも、ハートフルかつサスペンスフルな連載模様が展開していく作品だ。

こじらせた大人たちを繋ぐ、犬たちの“初恋”

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火曜ドラマ『初恋DOGs』第1話より(C)TBS

物語の中心にいるのは、三者三様の価値観を持つ、少々こじらせた大人たちだ。

離婚専門の弁護士・花村愛子(清原果耶)は、両親の不仲と自らの職業が原因で愛を信じられず、「恋は錯覚」と断じる現代的な女性だ。一人で生きる決意を固めている彼女の心の拠り所は、愛犬のサクラだけ。一方、動物病院の院長・白崎快(成田凌)は、腕もルックスも良く人当たりもいいのだが、どこか飄々として心の奥底の感情を他人には見せまいとしているような人物。彼は「恋は動物の本能」だと語り、愛子とは正反対の価値観を持つ。

この二人の出会いは、それぞれの愛犬サクラと白崎が保護した犬の将軍が一目惚れするという、微笑ましいアクシデントから始まる。しかし、飼い主たちの関係はそう簡単には進まない。犬のために何度か会うことになるが、2人の間に簡単に恋愛感情は芽生えそうにない。なんなら、白崎は犬だけ預かろうという勢いだ。

そんな二人の間をかき乱す存在が現れる。日本ドラマ初出演となるナ・イヌが演じる、韓国の財閥御曹司ウ・ソハだ。彼は白崎が1年前に保護した将軍を“ロッキー”と呼び、取り戻しに来たと主張し、物語に大きな謎を投げかける。

50億円の犬と、三者三様の恋愛観

本作の面白さが加速するのは第2話からだ。ソハは、将軍が祖母の遺産500億ウォン(約50億円)の相続が絡む犬であるという衝撃の事実を明かす。これにより、物語は単なる所有権争いから、金と愛情、法と人情が絡み合う複雑な様相を呈していく。元々、祖母の犬なのだから引き取るのは当然とソハは主張するが、愛子は弁護士らしく法の知識を活かして、日本の法律上、犬を3ヶ月以上保護した場合、所有権は保護者に移ると告げる。そして、動物の幸せを第一に考える白崎は、きなくさい相続争いに将軍を巻き込みたくないと考え、「金の問題ではない。将軍にとって何が一番いいかを考えたい」とソハに突きつける。犬の相続問題と三角関係が絶妙に絡み合い、事態は複雑な方へと流れていきそうな気配が第2話にして漂っている。

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火曜ドラマ『初恋DOGs』第1話より(C)TBS

この相続問題を通して、3人の恋愛観をも浮き彫りにしていく。「恋愛は錯覚」だという愛子、「本能」だとする白崎、そしてソハは「娯楽」だと言い切る。この対照的な価値観が、今後の三角関係をより面白くさせていくのだろう。

また、本作はラブストーリーと並行して、サスペンスの考察要素もふんだんに盛り込まれている。ソハはなぜ祖母の死を隠してまで犬を手に入れようとするのか。そして第2話のラスト、白崎の家から将軍が何者かに連れ去られてしまう。500億ウォンを巡る問題だけあって、将軍を狙う勢力はソハ以外にもいるのだろう。誘拐事件の犯人は誰なのか、ソハの背後にある家族との確執も、事件にどう関わってくるのかが気になるところだ。

蘇る“初恋”の記憶が、心の氷を溶かすか

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火曜ドラマ『初恋DOGs』第2話より(C)TBS

そんな緊迫した展開の中で、愛子と白崎の関係に進展の兆しも見えてくるのも注目だ。第2話で、ソハへの不信感から感情的になる白崎を愛子が追いかけた際、彼女のしゃっくりを白崎が不意に止めるシーンがある。その瞬間、愛子は忘れていた記憶を思い出す。子供の頃、同じように野良犬を助けようとしていた少年(白崎)のしゃっくりを、自分が止めてあげたこと。彼の動物を想う優しさが、遠い日の“初恋”だったのかもしれないと、ソハに指摘されるのだ。

人間たちが法律や金、プライドでがんじがらめになっているのとは対照的に、犬たちの愛情表現はどこまでも素直で純粋だ(将軍とサクラが寄り添って座っているシーンは何よりの癒やしだ)。本作の根底には、人間も犬たちのように素直になれたらいいのに、という思いが流れている。愛を信じていない愛子が、白崎との再会とソハとの出会いで、どのように心を開いていくのか、そして白崎の心の奥底に抱えるものはなにか、大企業グループの権謀術数に巻き込まれ、マスコミにも追い回される日々をおくるソハのまた、孤独を抱えている。そんな3人の心がほぐれる日は訪れるのか。

清原果耶、成田凌、ナ・イヌという実力派俳優陣の安定した演技が、この複雑な物語に説得力を与えている。恋と事件が複雑に絡み合い、毎週目が離せない展開が続きそうだ。こじらせた大人たちが、犬たちに導かれて本当の自分と愛を見つけていく物語の行方を、じっくりと見届けたい。


TBS系 火曜ドラマ『初恋DOGs』毎週火曜よる10時

ライター:杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi