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「見たことない人見てほしい」阿部寛の出演作の中でも屈指の傑作… 絶妙な演技が生んだ“愛すべきキャラ”の色あせない魅力

  • 2025.5.4
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(C)SANKEI

偏屈男はなぜ愛されるのか?『結婚できない男』シリーズが描く独身男のリアル

『結婚できない男』は、2006年にフジテレビ系列で放送された阿部寛主演の連続ドラマである。全12話で構成され、最高視聴率22.0%を記録。放送当時、“結婚できない男”という言葉が社会的な言葉となったほどの話題作である。

SNSでは「傑作だから見たことない人見てほしい」「つい延々と見てしまう」「大好きなんだよな〜」など根強い人気がうかがえる。また「阿部寛のドラマは結婚できない男やっぱこれがダントツ」「偏屈ぶりが絶妙で、つい笑ってしまいます」という声があがり、阿部寛の代表作のひとつとしても知られている。

主人公は建築家の桑野信介(阿部寛)。高収入・高学歴・高身長の“三高”を満たす理想的な条件を持ちながら、偏屈で皮肉屋な性格ゆえに結婚とは無縁の生活を送っている。そんな彼が、女性たちとの関わりを通じて少しずつ変化していく様子を、コミカルかつ温かい視点で描いた作品である。

2019年には続編『まだ結婚できない男』が放送され、53歳になった桑野のその後が描かれた。SNS社会、婚活アプリ、ネットの誹謗中傷など、時代の空気を取り込みながら、令和版“独身のリアル”を表現した点でも注目を集めた。

大ヒットドラマ『結婚できない男』~13年後の続編へ

第1シリーズでは、桑野信介が激しい腹痛に襲われ、内科医の早坂夏美(夏川結衣)と出会うことから物語が始まる。最初は反発しあう2人だったが、互いの価値観や孤独を知るにつれ、次第に距離を縮めていく。

隣人の田村みちる(国仲涼子)や、妹・中川圭子(三浦理恵子)、その夫・中川良雄(尾美としのり)、アシスタントの村上英治(塚本高史)など、仕事仲間や家族とのやり取りを通して、桑野の人間性が浮き彫りになっていく。特に、みちるの愛犬ケンをきっかけに見せる桑野の優しさや、夏美との微妙な関係性が物語の軸となっている。

続編『まだ結婚できない男』では、桑野は13年たっても独身のまま。今度はネット上の中傷ブログ「やっくんのブログ」に悩まされる中で、弁護士・吉山まどか(吉田羊)と出会う。さらに、カフェ店長の田中有希江(稲森いずみ)、女優志望の隣人・戸波早紀(深川麻衣)など、個性豊かな女性たちと出会い、再び恋や人間関係に翻弄されていく。

偏屈すぎる主人公・桑野信介のキャラクター

このドラマ最大の魅力は、何と言っても阿部寛演じる主人公・桑野信介のキャラクターだ。完璧主義で独善的。他人に厳しく自分にも厳しいが、その一方で極度の小心者でもある。目が合った赤ん坊に微笑みかけたが泣かれて、その場を立ち去ったり、休日は一人で手巻き寿司を楽しんだりなど、偏屈ながらどこか共感を誘う言動が満載だ。

阿部寛の絶妙な演技も、桑野という人物を愛すべき存在に仕上げている。感情を表に出さずとも、視線や間、セリフのトーンで細やかな心理を描写しており、それが視聴者に「なぜか憎めない」と思わせているのだ。

結婚という価値観への問いかけ

タイトル通り、本作では「結婚」に対する価値観が中心テーマである。桑野は「結婚は三大不良債務(妻・子・ローン)だ」と公言し、自分は結婚できないのではなく“しない”だけだと主張する。しかし物語が進むにつれ、彼の強がりや孤独が滲み出てくる。

一方、早坂夏美も独身で、恋愛や結婚に対して慎重な姿勢を見せる。2人は似て非なる存在として対峙し、視聴者に「結婚とは何か?」を問いかけてくる。

このように、“結婚=幸せ”というステレオタイプに疑問を投げかけ、結婚を選ばない人生もまた肯定されるべき選択肢であることを提示している。

時代とともに変わる“独身者”の描き方

第2シリーズでは、現代社会の変化が物語にも反映されている。婚活アプリ、SNS、ブログでの誹謗中傷など、現代ならではの悩みや孤独が丁寧に描かれている。

桑野を中傷するブログ「やっくんのブログ」の存在がストーリーを動かす大きな要素となり、それをきっかけに出会うのが弁護士・吉山まどかである。まどかは自立した大人の女性であり、桑野とは違った角度から独身の生き方を示している。

さらに、田中有希江や戸波早紀といったキャラクターたちも、それぞれの理由で独身生活を送っており、結婚がすべてではないという多様な価値観を体現している。

誰かと生きることの、心地よい“わずらわしさ”

『結婚できない男』シリーズは、偏屈な男の恋愛模様というユニークな切り口でありながら、現代社会に生きる“誰かとつながることの難しさと温かさ”を丁寧に描いている。

一人を好みながら、ふとしたときに誰かを求めてしまう。そんな不器用な人間の姿を、笑いと優しさで包み込んでくれる作品だ。結婚する・しないに正解はなく、自分の生き方をどう受け入れるか。そのヒントが、この物語の中にはある。


ライター:山田あゆみ
Web媒体を中心に映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand