1. トップ
  2. エピソード
  3. 「俺の給料で満足しろ」と言った彼→私が昇進祝いの次の週に連れて行きたかった場所

「俺の給料で満足しろ」と言った彼→私が昇進祝いの次の週に連れて行きたかった場所

  • 2026.11.6
ハウコレ

試験勉強の間、ラップのかかった皿を、私は毎回スマホで撮っていました。個室で彼が頭を下げたとき、思い出したのはその写真のことでした。

彼が作る料理の中でも、豚の角煮は特別でした。付き合い始めたころ、いつか小さな食堂をやってみたかったと、彼が一度だけ話してくれたことがあります。調理師学校の資料まで取り寄せたものの、仕事を辞めて通う余裕はないと諦めたそうです。無理だと笑って、それきりその話はしなくなりました。

試験を受けると決めたわけ

昇進すれば、私の収入は今より増えます。これまでの貯金と合わせれば、彼が仕事を辞めて学校に通う間も、2人で暮らしていける計算でした。
ただ、それを先に話せば、彼はきっと遠慮します。受かって、本当に彼を支えられると分かってから話そうと決めていました。食卓で、私は箸を置いて切り出しました。
「受かったら、帰りはもっと遅くなると思う」
「俺の給料で満足しろ」
食器を片づけながら、正直かなり腹が立っていました。それでも、問題集を開くことだけはやめなかったのです。

ラップのかかった皿

帰りが遅くなっても、テーブルにはいつも私の分の食事が置いてありました。反対していたはずの彼が、毎回ラップをかけてくれていたのです。角煮の日は、ラップの内側が湯気で白くくもっていました。
その皿を、私は彼に見られないように、毎回スマホで撮っていました。反対してたくせに。撮るたびにそう思いながらも、遅く帰る私の食事を作り続けてくれたことを、忘れたくなかったのです。
合格の知らせが届いたとき、写真はもう40枚を超えていました。
「部署のみんなが、お祝いしてくれるって。家族やパートナーも呼んでいいらしいから、一緒に来てほしい」
彼が来てくれるかどうかは、半分賭けでした。

個室で頭を下げた彼

居酒屋の個室で、同僚たちは私の試験前の話をたくさんしてくれました。彼は、その話を黙って聞いていました。
「では、本人から一言」
上司に言われて立ち上がり、彼のほうを見たのです。
「家で待っていてくれた人に、ありがとうと言いたいです」
「ずっと反対していました。すみませんでした」
彼がいきなり立ち上がって頭を下げたので、驚いてしまいました。頭を下げる彼を見ながら浮かんだのは、スマホに残っている40枚以上の食事の写真でした。反対されたことと、毎晩食事を用意してくれたことは、私の中ではどちらも消えていませんでした。上司の拍手に合わせるように、少し遅れて席に座りました。

そして...

帰りの電車で、膝の上の花束を見ながら切り出しました。
「来週、一緒に行ってほしいところがある」
どこに行くのか聞かれても、こう返しました。
「行けば分かる」
連れて行きたいのは、駅の向こうにある調理師学校の説明会です。予約は、もう2人分取ってありました。
彼が行くと言うかどうかは、まだ分かりません。あの言葉を、許したわけでもないのです。
「俺の給料で満足しろ」と言った彼に、私は自分の給料で、彼がしまいこんだ夢の続きを渡したかったのです。

(30代女性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ