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❝ちゃんとした親❞って、なんだろう──。作家・山崎ナオコーラが問い直す、性別で縛られない子育てのあり方

  • 2026.10.30
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「こういうふうに育ってほしい」と思っても、子どもは思い描いたとおりにはならない。「自分が思っていたのとは違うストーリーが勝手に紡がれていくんです。映画を見ているみたいで、面白いエンタメに参加させてもらっているような気持ちです」。

そう親としての日々を表現するのは、作家の山崎ナオコーラ。『母ではなくて、親になる』の刊行後に第二子を迎え、現在は2人の小学生を育てる。同じように接しても、まったく違うふうに育つ子どもたちを見ながら、親であることへの考えが少しずつ変わってきたという。

山崎ナオコーラおすすめの作品:<strong>『夏の約束』藤野千夜著</strong>▶ゲイのカップルを中心に、トランスジェンダーの美容師や友人たちの日常を温かな視線で描く芥川賞受賞作。当時紡がれた言葉から、社会が一歩ずつ変わってきた軌跡をたどれる一冊。(講談社文庫) 講談社文庫

「子どもが将来困らないよう、以前は教科書を学年ごとにきちんと追い、仕事につながる経験をさせなければ、という思いがありました。集団行動を難しく感じている姿を見ると、絵を描いていれば、『これが仕事になったらいいのでは』と考えることもありました」。けれど、職業も働き方も時代とともに変わっていく。親が子どもの未来を先回りして考えた将来に当てはめることを手放すことにした。

「子ども時代に仕事の種がある人はもちろんいると思います。でも私自身、子どもの頃に文章を書いて、『作家になるためにがんばりなさい』と親から言われていたら、作家になっていなかった気もするんです。学びは教科書から外れたところにもあり、今、面白いと思うことに時間をかけていい。教科書と職業のことを考えないようにしたら、私の場合はすごく楽になりました」

また、親自身も、社会が思い描く“像”に収まる必要はない。「料理をがんばらなくても、お母さんは笑っているだけでいい」という励ましの言葉にも、母親はいつも笑顔で、優しく明るい存在であってほしい、という期待が見え隠れする。性別によって振り分けられてきた親の役割について、山崎はこう話す。

山崎ナオコーラおすすめの作品:『<strong>マウス』村田沙耶香著</strong>▶少女たちの日常を子どもの目線で描き、同調圧力の中で「自分はこの役割を担えばいい」と気づき、生きるすべを身につけていく。身近な感覚を通して、村田作品らしさの原点に触れられる。(講談社文庫) 講談社文庫

「父親について“仕事をする背中を見せることも教育だ”と捉えられることが、少しうらやましいと思っていたんです。だったら、私も書いている姿や本を読んでいる姿を見せればいい。こういう大人もいるよ、と社会を垣間見せる時間も含めて、“母親”ということにしていきたい」。

山崎の数々の著作は、日々の暮らしから立ち上がる言葉で、社会に根づいた固定観念を粘り強く問い直していく。短編集『肉体のジェンダーを笑うな』では、父親から“父乳”が出る未来や、性別にかかわらずPMSや生理を経験する人々など、「まだない社会」を描く。それは、目の前の現実が唯一の完成形ではないと確かめるためでもある。「現実は頑丈だから、ここにうまくはまれないと、この先もどこにもはまれないような気持ちになります。でも社会は流動的で、たくさんの人の小さな気持ちで変わっていくと思うんです」。

<strong>映画『リトル・ミス・サンシャイン』</strong>監督:ジョナサン・デイトン、バレリー・ファリス▶それぞれに悩みや挫折を抱える家族が、バスで旅へ。世間の物差しから外れようが互いを応援する姿に、誰かの基準に合わせなくてもいいと思わせてくれる。 Hearst Owned

その関心は社会の仕組みだけでなく、関係のあり方にも向かう。「年齢を重ねるにつれ、恋愛や家族と名づけられないつながりに惹かれるようになりました。スーパーで言葉を交わす人、身近なカエル、推しの存在、ともに暮らす猫。人生をかける対象は、恋愛や家族だけでなくていい」。

『陽ちゃんからのそよ風』では、そうした名づけられない関係を、性別や人間、生き物、自然の境界がほどけていく物語として描く。そして、子どもたちの未来に願うのは「本人のことは、本人に聞く」社会だ。「性別も、どう育ちたいかも本人が決める。成長の目標は本人のなかにあると、徹底して考えていきたい」

山崎ナオコーラ

作家。親。性別非公表。『人のセックスを笑うな』(河出文庫)で第41回文藝賞を受賞。著書に主夫の時給をテーマにした経済小説『リボンの男』、『かわいい夫』(ともに河出書房新社)など。目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。

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『肉体のジェンダーを笑うな』▶父親も授乳ができる医療技術があったら、ロボット技術で妻が怪力になったら、PMSを体験できるサーフボードがあったら。性差が小さくなった未来を、豊かな想像力とユーモアで描く。(集英社)

『陽ちゃんからのそよ風』▶友達がいない小学5年生のアマネは、人気者の陽ちゃんから「女子みんなで遊ぼう」と誘われる。子ども時代から大人になるまでをたどり、名づけられないつながりと友情を描く。(河出書房新社)

『母ではなくて、親になる』▶37歳で第一子を出産した著者が、妊活や健診、仕事や保育園への入園準備など、子どもが1歳になるまでの日々をつづる。性別役割から離れ、親になることについて考える。(河出文庫)

Illustration: HiromiI Chikai, Editor: Mina Oba From Harper's BAZAAR November 2026 Issue

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