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「とても聞けなくて…」隣家の火事で車が全損…火元の30代隣人に賠償を求められなかった“意外なワケ”

  • 2026.10.29
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「隣人には直接言い出しづらくて…。本来は請求できるものなんでしょうか?」

契約者のAさん(40代・男性)から相談が入ったのは、隣のBさん(30代・男性)の家で起きた火事の後でした。火はAさんのガレージに燃え移り、中に停めていたAさんの車にも延焼しました。

隣の家の火事で自分の車が燃えたのなら、火元の隣人に弁償してもらえる。そう考える人もいるのではないでしょうか。

しかし、Aさんの車の損害を負担したのは、火元のBさんではありませんでした。

今回は、損害保険会社で事故対応を担当していた私が、実際に相談を受けた“もらい火”のお話です。

ガレージに燃え移った火

Aさんと隣に住むBさんは、子ども同士が同級生ということもあり、家族ぐるみで付き合いのある間柄です。

ある日、Bさん宅で火事が起きました。火は隣にあるAさんのガレージまで燃え移り、中に停めていたAさんの車は全損(修理費が車の時価額を上回る状態)の判断です。

Aさんは、エコノミー型(車対車+A)の車両保険に加入していたため、私は車両保険の担当として対応にあたることになりました。

切り出せなかった賠償の話

「仮の話なんですが…」

車両保険の手続きを進めるなかで、Aさんは私に尋ねます。

「Bさんに請求することはできるんでしょうか?」

相手に落ち度があって自分の物が壊れたなら、その相手に賠償を求める。交通事故であれば、そうした流れは珍しくありません。

Aさんによると、隣家の火事で車が損害を受けた以上、Bさんに請求できるのではないかと思ったそうです。しかし、家族ぐるみの付き合いがある相手に、自分から賠償の話を切り出すことには抵抗があったといいます。

そこで、そもそもBさんに賠償を求められるのかを、まず私に確認しておきたかったとのことでした。

「家が燃えてしまって大変なときに『車の弁償はできますか?』なんて、私からはとても聞けなくて…」

火元に求められない賠償

通常、過失によって他人に損害を与えた人は、その損害を賠償する責任を負います(民法第709条)。

しかし、失火(過失によって火事を起こすこと)によって周囲に燃え広がった損害には、特別な決まりがあります。明治32年(1899年)に定められた失火責任法では、失火の場合、原則として民法第709条を適用しないのです。

ただし、火元に重大な過失があった場合は別です。重大な過失とは、通常求められる注意を著しく欠いた状態を指します。

つまり、火元に重大な過失がなければ、火元の人は燃え移った先の損害について原則として賠償責任を負いません。

今回の火事では、Bさんに重大な過失があったとはいえない状況でした。そのため、BさんにはAさんの車の損害を賠償する法律上の責任はありません。

「隣の家から燃え移ったのに、相手に賠償責任がないんですか…? 正直、弁償してもらえるものだと思っていました」

Aさんはそう話しました。

エコノミー型でも対象だった火災

Bさんに賠償を求められない場合、Aさん自身の保険で損害をカバーすることになります。

一般に、火災保険の補償対象は建物と家財で、自動車は含まれません。そのため今回は、Aさんが加入していた車両保険で対応することになりました。

エコノミー型は補償範囲を限定したタイプですが、Aさんの契約では火災による損害も補償対象です。車は全損として扱われ、車両保険金額(契約時に設定した車の補償額)が支払われました。

なお、火災による車両保険の使用は「1等級ダウン事故」にあたります。Aさんも車両保険を使ったため、翌年の等級は1つ下がっています。

説明を聞いたAさんは、こう話しました。

「隣人には言い出しづらかったので…。賠償されないと聞いて、ある意味、自分の保険を使う決心がつきました」

相手がいても請求できない損害

事故や災害で車が損傷しても、必ずしも相手に賠償を求められるとは限りません。今回のように、隣家の火事が燃え広がって損害を受けるケースもその一つです。

一方で、法律上は賠償責任がなくても、「隣人に損害を与えたのだから、何かできないだろうか」と考える人もいるかもしれません。

火災保険には、失火によって隣家の建物や家財などに損害を与えた場合に、自分の保険から補償する類焼損害補償特約などもあります。自分が火元になった場合に備えて、こうした補償の有無も把握しておくとよいでしょう。

ただし、類焼損害補償特約でも自動車は補償対象外となる場合があります。今回のAさんのように、隣家からの延焼で車が損害を受けても相手に賠償を求められないケースでは、自分の車両保険が重要です。

エコノミー型でも火災を補償する商品はありますが、補償範囲は契約によって異なります。車両保険を見直すときは、交交通事故だけでなく、火災などによる損害がどこまで補償されるのかも確認しておきたいところです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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