1. トップ
  2. 暮らし
  3. 指導員「次を右に曲がってください」に無反応…高齢者講習で直面した“静かな車内”に潜む落とし穴

指導員「次を右に曲がってください」に無反応…高齢者講習で直面した“静かな車内”に潜む落とし穴

  • 2026.10.29
undefined
出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さんは日常生活でどれくらい「音」を意識していますか?スマホの着信音や周囲の雑音、道路なら救急車のサイレンや踏切の警報音、自転車のベルなど、さまざまな音があります。私たちは目で見る情報だけでなく、耳からも多くの手がかりを受け取りながら生きているのです。

私は教習所の指導員として、70歳以上の方が免許更新の前に受ける高齢者講習も担当していました。その実車指導(教習所のコースを実際に走る指導)では、聴覚の大切さに気づかされることがよくあったものです。

今回は講習でのエピソードを通して、音と安全運転の関係をお伝えします。

「次を右に曲がってください」が届かない

ある日の実車指導で担当したのは、補聴器を付けた受講者のBさん。助手席から「次を右に曲がってください」と伝えましたが、Bさんからの反応はありません。

補聴器を付けていても、走行中の車内では聞き取りづらい場合があるようです。私は声を大きくし、手振りを交えて進路を伝え直すことに。

無事に交差点を曲がり終えると、Bさんは申し訳なさそうに、こう話してくれました。

「すみません。ちょっと聞き取りづらいです」

「大丈夫ですよ、遠慮なく聞き返してくださいね」とお伝えし、講習を続けました。

聞こえにくさのある方にも安心して受講してもらえるよう、伝え方を工夫するのも指導員の役目です。走り出す前にコースの順路を確認し、大きめの手振りで進路を示すこともあります。

音を頼りに運転していた時代

走行後、Bさんとの会話は昔の運転の話題になりました。平成3年までは、AT限定免許(AT車だけを運転できる免許)はまだなく、MT車(マニュアル車)での教習が必須でした。エンジン音を聞きながら、ギアチェンジのタイミングを判断するのが当たり前。当時免許を取った方は、受講者の中にも多くいらっしゃいます。

現在は、市販車のほとんどがAT車(オートマチック車)で変速は車任せです。音を過度に意識しなくても走れるため、運転における聴覚の役割は薄れたように感じる人もいるでしょう。

視覚に頼る運転だからこそ大切な聴覚

人が五感から得る外部の情報は、視覚が約83%、聴覚が約11%といわれています。運転でも、判断に必要な情報の大半は目から入ってくるもの。

とはいえ、聴覚は視覚に次いで多くの情報を受け取る感覚です。建物の陰や車の後方など、目に見えない場所の出来事を音で知らせてくれるのは、耳ならではの役割といえます。

静かな車内に潜む落とし穴

最近の車は密閉性や遮音性が高く、車内はとても静かです。窓を閉め切ってエアコンをかけていれば、外の音はなおさら届きにくくなります。一見快適そのものですが、そこには落とし穴もあるのです。

それは、近づいてくる救急車のサイレンや踏切の警報音に気づくのが遅れるおそれがあること。さらに音楽やラジオの音量を上げすぎていたらどうでしょうか?窓を少し開けていない限り、ほとんど聞こえないこともあり得ます。

緊急自動車が近づいてきたら、原則として道路の左側に寄って進路を譲るのがルールです。交差点やその付近では、交差点を避けて道路の左側に寄り、一時停止しなければなりません。サイレンが聞こえたら、音の方向や赤色の警光灯を確かめ、落ち着いて左へ寄るのが基本です。(一方通行などで左に寄ると妨げになる場合は右側に寄ります)

聴覚を生かした安全運転のポイント

車内の音量は控えめに

カーステレオやラジオの音量は、周りの音が聞こえる程度に抑えておきましょう。

目だけでなく耳でも危険を感じ取る

見通しの悪い交差点や路地では、目に見える情報だけでなく、音も状況をつかむ大切な手がかりになります。場合によっては窓を少し開けて、周囲の音に直接耳を傾けてみるのも一つの方法です。

踏切の手前では必ず一時停止し、目だけでなく耳でも電車の接近を確かめてください。

「聞こえているはず」と過信しない

音の聞き取りやすさは、疲れや体調、周りの環境によって変わることもあるでしょう。緊急自動車や踏切などは、「聞こえないから大丈夫」と思い込んではいけません。ミラーや直接目視での安全確認を丁寧に行いましょう。

さまざまな感覚で安全運転を

静かで快適になった今の車だからこそ、外の音に気づく工夫が大切です。音は、まだ姿の見えない危険を知らせてくれる手がかりでもあります。さまざまな感覚を使って周りを確かめることが、事故を未然に防ぐ力になるはずです。


参考:
安全「見える化」とっとり(鳥取労働局)


ライター:ちだてつし
自動車教習所の指導員・技能検定員として、23年間にわたり現場で安全運転の指導・検定を担当。現在はその専門知識と現場での実務経験を活かし、安全運転やドライブテクニックに関するWebライターとして活動中。また、ペーパードライバーや外免切り替えの事業を展開し、運転に自信のないライダーを対象に、実践的なツーリングを通して運転技術を身につける「日本ツーリングサポート協会」を設立・運営。「安全で楽しいカー&バイクライフ」を伝える発信を行っている。日本二輪車普及安全協会の二輪安全運転指導員として活躍中。バイクのライディングに関する質問も受け付け中。


【エピソード募集】運転中、駐車場で…「えっ!」と思った体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】

の記事をもっとみる

注目コンテンツ