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就活連敗の大学生が…!? マンモス美術館の裏側で奮闘する学芸員のお仕事マンガ『白眉の司』【書評】

  • 2026.10.22
白眉の司 ササキエンジュ/講談社
白眉の司 ササキエンジュ/講談社

【漫画】本編を読む

美術館の学芸員というと、どんな仕事を思い浮かべるだろう。

静かな展示室で作品を見守り、古い文献をめくって研究に没頭する――。そんな光景を想像する人が多いのではないだろうか。

もちろんそれも大切な仕事の一部。だけど『白眉の司』(ササキエンジュ/講談社)を読むと、学芸員の仕事はいかに多彩なものであるかが分かってくる。彼らは美術品を調べ、守り、その魅力を伝える。そのために人と会い、人と交渉し、ときには人の心を動かす。

就活に苦戦中の主人公が、マンモス美術館のインターンに

主人公の波多棗は、アルビノの大学生。就活中、面接で「教養が足りない」と何度も指摘され、内定もなかなか取れない。そこで履歴書を埋めるくらいの気持ちで学芸員課程を取ろうとしたところ、国内屈指のマンモス美術館、国立東洋美術館のインターンに選ばれる。

体質のため目と皮膚が弱く、光過敏である棗。彼がそれまで思い描いていた美術館とは、明るい光が展示物をくまなく照らす、眩しすぎる場所だった。ところが“東美”の展示室はちがった。暗がりを生かした会場に身を置いたとき、美術品に注がれる「幽かな光」を棗は見つける。

明るく照らさなければ見えないものばかりではない。暗さのなかでこそ見えてくる美というものもある。

それに気づいた瞬間(とき)、棗の心に学芸員になりたい思いが芽生える。

とはいえ、けっして甘い仕事ではない。

文化財を風に当てる「曝涼」や展示替え、作品についての調査など、覚えなければならないことは山のようにある。そんな棗を鍛える先輩学芸員たちも、なかなかに濃い方ぞろい。収蔵庫の作品が日の目を見ることに涙するほど、美術への愛がほとばしる村上志永那。仏教美術を専門とし、その複雑な世界を「中2心くすぐられる」と楽しげに語る八十島慧。ほかにも一癖も二癖もある専門家たちに揉まれながら、棗は少しずつ成長する。

学芸員になりたい主人公は、ギャラリートークに挑むもダメ出しの嵐!?

また、作品を見るだけではなく、目の前にいる人を見ることも学芸員には必要だ。それがよく分かるのが、小学生を相手にしたギャラリートークのエピソード。

仏教美術について棗は猛勉強し、いざリハーサルへ。ところが先輩学芸員から、客に背中を向けている、姿勢が安定しない、身振りが無意味……とダメ出しの嵐を浴びる。知っている。説明もできる。なのに、伝わらない。

考えてみれば、知識のない相手に自分の専門分野の話をするのは難しい。「こんなに面白いのに、なぜ分からないんだ」と思ってしまったら、そこでおしまい。必要なのは、相手がいま立っている場所まで迎えに行くことなのだ。

いざギャラリートーク本番で棗は、仏像の手の形「印相」に注目する。

子どもたちにポーズを真似してもらい、自分の「推し印相」を探してもらう。人気マンガやアニメにも似たポーズがあることに気づいたら、遠い存在だった仏像が、にわかに身近になる。

難しいことを簡単に言い換えるだけではない。「なんだろう」「もっと見たい」「知りたい」と思わせる入り口をつくること。そう、専門家とは、たくさん知っている人であるのと同時に、自分が知っている面白さをまだ知らない誰かのところまで届けられる人なのだ。

本作の題名にある「白眉」とは、数あるもののなかでも傑出したものを指す言葉だ。これは暗がりのなかにある「見えざる灯」を見つけた棗が、いつか「白眉を司る者」になるまでの物語。その道のりは、まだはじまったばかりだ。

文=皆川ちか

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