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『ひつじのショーン』美術監督が語るセットデザインの裏側

  • 2026.10.26
Shaun the Sheep: The Beast of Mossy Bottom
Rediat Abayneh

イギリスのアードマン・スタジオが製作するアニメーション「ひつじのショーン」。のどかなイギリスの田舎町で暮らす牧場主と、いたずら好きなショーンや牧場主の飼い犬ビッツァ―たちのドタバタコメディーは、今や世界170カ国で愛されるストップモーション・アニメーションだ。

Richard Davies

温もりを宿すストップモーション・アニメーション

実写でさえCGを使うのが当たり前の現代において、アードマンスタジオでは創設時から人形とセットを手作りし、それらを一コマずつ動かして撮影するストップモーション・アニメーションを追求。粘土の質感や指紋のあと、毛の揺れなど、アニメーションでありながらフィジカルな痕跡が、CGにはない特有の温もりと愛着を生み出しているのだ。アニメーター1人あたりが週に撮影できるのはわずか8秒ほど。アードマン・スタジオの50周年を記念してつくられた最新作「映画 ひつじのショーン かぼちゃ畑の怪物!」では、30人のアニメーターが47のセットを使い、映像を完成させた。

Richard Davies

最新作は、ハロウィーンを楽しみにするショーンたちと牧場主の小さな恋の物語が思わぬ大事件を引き起こしてしまう…というストーリー。事件解決に奮闘するキャラクターたちの魅力を際立たせているのが、精巧な美術セットの存在だ。世界観をつくる上で欠かせないこのセットデザインは、この温かくもリアルな世界観は、どのようにして生まれているのか。本作の美術監督を務めたマット・ペリーに話を聞いた。

©Lions Gate/Courtesy Everett Collection

「『ひつじのショーン』の世界には、どこか時代を問わない普遍的な空気感があります」とペリー。ショーンたちと生活を共にする牧場主のレンガ造りの住まいにもこだわりがある。「農場というものは、代々受け継がれていくものですよね。牧場主自身もまた、時代に取り残され、ちょっぴり孤独で、自分の土地や仕事、受け継いできたものに縛られているような、ある意味でタイムレスな存在なのです」

Shaun the Sheep: The Beast of Mossy Bottom

時代に取り残された牧場主と、「グランマシック」な住まい

牧場主が暮らす家は、近年インテリア界では「グランマシック」と呼ばれるおばあちゃん家のような素朴なインテリアスタイルを体現しているが、そこにも本編では語られない牧場主のバックグラウンドを感じさせるセットデザインへの思いがある。

「牧場主の住まいを見ると、ひいおばあちゃんが貼ったかもしれない壁紙の上には、とうの昔に亡くなった親戚たちの写真が飾られ、おじいちゃんやおばあちゃん、ご両親が使っていた家具が今も家を彩っています。彼のとても実用的な暮らしには、現代の消費社会によくあるような見栄や飾り気は必要ないんです。こうした空間は、観客の皆さんにとって、子どもの頃の温かい記憶を呼び起こすものになると思います。また、イギリスのカラー・シットコム(昔のコメディ番組)へのオマージュも込めていて、それがノスタルジーをさらに深めてくれています。優れたコメディ作品がどれもそうであるように、いつの時代、どこの場所にもスッと馴染んでくれるような、そんな物語の舞台になっています」

〈写真〉牧場主の暮らす住まい。壁の色や置かれている小物、ファブリックの絵柄など、どこか懐かしさを感じさせるインテリアには、代々受け継がれてきた家族の歴史が反映されている。

Richard Davies

ミニチュアのセットに「時間」を刻むテクニック

どこかノスタルジックな雰囲気が漂うこの住まいを演出するため、美術チームは気の遠くなるような手作業を重ねている。

「全体的に、牧場主のお家には、少し日に焼けて使い込まれたような哀愁が漂っていますよね。私たちはこの空気感を引き立たせるために、いろんなテクニックを使っています」

〈写真〉本作で撮影されたカット数は1261カット。全283体のパペットと47のセットを使って撮影された。

Shaun the Sheep: The Beast of Mossy Bottom

「例えば木材なら、ワイヤーブラシでこすり、バーナーで焦がして、もう一度ブラシをかけます。そのあと色を塗り、たっぷりと汚し加工を施して、年月を経て古びたような風合いに仕上げていきます。また壁紙は印刷した後に軽くヤスリをかけ、セットの隅々に特殊なパウダーを擦り込むことで、室内に年月と温かみをプラスしています」

〈写真〉とある理由で牧場主の家のバスルームに隠れる羊たち。壁紙や木のほか、バスルームのタイルの質感も忠実に再現。

Shaun the Sheep: The Beast of Mossy Bottom

「さらに金属製の農機具は、まるで忘れ去られたかのようにサビつかせています。こうした細部の積み重ねが、「ずっと変わらないままなのに、確かな時の流れを感じさせる」というこの世界観をより強く印象づけているのです」とペリー。


〈写真〉農機具を手にもつビッツァ-とショーンたち。視線の先にあるものは…

Shaun the Sheep: The Beast of Mossy Bottom

過去作へのオマージュも。新作で挑んだ全く新しい空間とは

映画はハロウィーンを楽しみに待つショーンたちの小さなアイデアが大問題へと発展し、牧場主も行方不明…!?とスリリングな展開が待ち受ける。最後に本作ならではのセットの見どころをペリーに尋ねた。

「私たちがとても楽しく制作できて、観客の皆さんにもぜひ気づいていただきたい、これまでとは全く違う新しい空間があります。特に「船」とその船内のセットは、先ほどお話ししたようなテクニックをふんだんに使いながら、とても楽しくデザインし、組み立てることができました。船橋の内部には、過去のアードマン作品、特に『ザ・パイレーツ! バンド・オブ・ミスフィッツ』の船長の部屋へのちょっとした遊び心(オマージュ)をいくつか散りばめています。例えば、船長のマグカップやカスタードクリーム・ビスケットなどがそうです。ダッシュボードの上にあるフラガールの人形も、映画のラストに登場しますよ」

ユニークなストーリーの裏に隠された、果てしない手作業とクリエイターの思い。キャラクターたちの活躍はもちろん、その背景に息づくセットのこだわりにもぜひ注目してほしい。

〈写真〉新たな挑戦となった船のセット。細かな小物のセレクトにもぜひ目を向けてみて。

Richard Davies

『映画 ひつじのショーン かぼちゃ畑の怪物!』

監督:スティーブ・コックス、マシュー・ウォーカー 脚本:マーク・バートン、ジャイルズ・ピルブロウ2026年/イギリス・フランス/カラー/ビスタ/5.1ch/81分/アニメーション/原題 Shaun the Sheep: The Beast of Mossy Bottom/配給:松竹© 2026 / AARDMAN ANIMATIONS Ltd – All Rights Reserved
© 2025 Aardman and STUDIOCANAL SAS. All Rights




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