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世界(EXILE/FANTASTICS)が読む中野独人『電車男』「匿名性があったからこそ生まれた物語」【n人のブックウォッチャー】

  • 2026.10.9

作家やクリエイター、お笑い芸人、音楽アーティストなど、多彩なジャンルで活躍する人たちが、心に残る一冊をセレクトして、自身の言葉で紹介! 本を選んだ理由やそれぞれならではの視点を通して、本との新しい出会いや、読書の楽しみを届けます。

『電車男』 (中野独人/新潮社)
『電車男』 (中野独人/新潮社)

今回は『電車男』(中野独人/新潮社)です。

当時を知ってる方からすると社会的にムーブメントになった作品ですよね。

僕は小学生の頃から、「2ちゃんねる」をかなり見ていました。

基本的には書き込まずに見る、いわゆる「ROM専」です。よく見ていたのは「洒落怖」。名前も顔も分からない誰かの怖い体験を、「これ本当なのかな」と思いながら延々と読んでいました。一応スレッドを立てたこともあるんですが、何のスレだったかはもう忘れてしまいました。

そんな僕ですが、『電車男』のスレッドをリアルタイムで追っていたわけではありません。知ったのは少し後になってからでした。

なので最初の感想はシンプルに、「2ちゃんにこんな凄いスレあったんだ」でした。

『電車男』は、電車内で酔っ払いに絡まれていた女性を助けた男性が、その出来事を匿名掲示板に書き込んだことから始まります。女性からお礼として贈られてきたのが、エルメスのティーカップ。恋愛経験の少ない彼は、掲示板の「名無しさん」たちに相談しながら彼女との距離を縮めていきます。その書き込みのやり取りを書籍としてまとめたのが『電車男』です。

改めて考えると、「電車男」という名前からして面白い。本名でもなければ、自分で考えたカッコいいハンドルネームでもない。そして彼を応援している側も「名無しさん」です。

応援する人もいれば、茶化す人もいる。「そんなにうまくいくのか?」と疑う人もいれば、自作自演なんじゃないかという声もある。

でも、そのごちゃごちゃした感じまで含めて、僕が見ていた「2ちゃんねる」の空気なんです。

『電車男』って、匿名性があったからこそ生まれた物語だと思います。

匿名だから残酷になれる。でも、匿名だからこそ、肩書きも損得も関係なく、顔も知らない誰かを本気で応援できる瞬間もあった。

これはあくまで僕個人の感覚ですが、今とは「匿名」の質が少し違ったように感じます。

今も匿名アカウントはたくさんあります。でも、過去の発言や趣味、フォローしている人が積み重なって、名前がなくても「その人」が見えてくる。当時の「名無しさん」は、もっとその場限りでした。

そして、あの頃のインターネットって、「見る」というより「潜る」感覚だった気がします。

ゲーム、アニメ、漫画、フィギュア。好きなものがあれば自分で検索して、リンクを辿って、掲示板に入って、また知らないものを見つける。当時の秋葉原にも、知っている人がさらに奥へ入っていくような、良い意味での「地下臭」がありました。

面白いのは、その感覚が今の僕にも全く消えずに残っていることです。

人でも物でも、気になったら表面だけじゃなく、その奥まで知りたくなる。僕はあの頃のインターネットから、情報そのものより「物事の知り方」を教えてもらったのかもしれません。

そして『電車男』は、そんな地下にあった文化が地上へ出てきた作品でもあったと思います。

書籍、映画、ドラマと広がっていき、ドラマ版ではElectric Light Orchestraの「Twilight」がオープニングテーマ曲として使われていました。インターネットにそこまで詳しくなかったクラスメイトから「この曲知ってる?」と聞かれたのが「Twilight」だったのも、当時の僕にはすごく面白かった。

『電車男』をきっかけに「HERMÈSってエルメスって読むんだ」と知った人もいたと思います。ブランドのエルメスが出てきた途端、ガンダムのララァが乗る同名の機体を連想するようなレスが返ってくる。ああいう突然オタクの横道に入っていく感じも含めて、当時の空気でした。

昔のインターネットのほうが良かった、と言いたいわけではありません。

残酷な言葉もたくさんあったし、今のほうが便利になったこともたくさんあります。

それでも、あの空気をリアルタイムで体感できたことは、僕にとって今でも宝物です。

怖さも、くだらなさも、悪意もあった。でも同じくらい、知らない誰かを本気で応援する温かさもあった。

今も昔も、画面の向こうにいるのは結局、人間という事に変わりはないのかなと思います。

そこに生まれる感情や熱量というのは時代が変わっても変わらないものがある。

だからネットがどれだけ変わっても、そこにある言葉の「温度」は忘れられないのかなと思います。

『電車男』を今読むと、そんな自分の原点まで一緒に思い出します。

◆世界さんが紹介した本

『電車男』(中野独人 / 新潮社)

【プロフィール】

世界(EXILE / FANTASTICS)

2月21日生まれ、神奈川県出身。2014年、EXILEに新パフォーマーとして加入。2017年、FANTASTICSとしても活動を開始。現在はEXILEとFANTASTICSのパフォーマーを兼任し、活躍の場を拡げている。漫画・アニメ・ゲームなどエンタメに造詣が深く、2025年4月から上演された『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage《MAD TRIGGER CREW&どついたれ本舗 feat. 道頓堀ダイバーズ》に、寶井灯依里役で出演。2025年7月公開の映画『仮面ライダーガヴ お菓子の家の侵略者』では、謎の組織・ミューターの王・カリエス役を熱演し、話題に。

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