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建物のコンクリートに電気をためる「セメント蓄電器」を開発

  • 2026.10.4
建物のコンクリートに電気をためる「セメント蓄電器」を開発
建物のコンクリートに電気をためる「セメント蓄電器」を開発 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

スマホの電池が残りわずかになると、私たちはつい部屋の壁を見回してコンセントを探してしまいます。

ところが、その壁や床をつくるセメントそのものに、電気をためさせようという研究があります。

論文の責任著者であるZhong氏らの研究チームは、3Dプリンターを使って、セメントでできた「スーパーキャパシタ」という蓄電器を作りました。

ただし、建物の材料として使う以上、電気をためられるだけでは足りません。

では、このセメントの蓄電器は、建物を支える強さと電気をためる働きを両立できたのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年8月17日に『ACS Nano』にて発表されました。

目次

  • なぜ「建物の中」に電気をためたいのか
  • セメントの蓄電器は、電気と建物を両方支えられたのか?
  • 寒さという課題と、「スマートな建物」への道

なぜ「建物の中」に電気をためたいのか

なぜ「建物の中」に電気をためたいのか
なぜ「建物の中」に電気をためたいのか / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームが思い描いているのは、建物の近くで太陽光パネルなどがつくった電気を、その建物の中にためておく未来です。

そうした電気をためる場所としてまず思い浮かぶのは、屋上や機械室に置かれたかさばる電池でしょう。

もし建物をつくるセメントそのものが電気をためられれば、電気をつくる場所とためる場所と使う場所が、すべて同じ建物の中におさまります。

そこで使われたのが「スーパーキャパシタ」と呼ばれる蓄電器です。

スーパーキャパシタがためられるエネルギーは比較的少ないものの、電気をすばやく取り込み、すばやく放出できるのが特徴です。

しかも種類によっては、充電と放電を数百万回もくり返せるとされています。

Zhong氏は「再生可能エネルギーで十分ひんぱんに充電できれば、充電と放電のくり返しによって、エネルギー需要の一部をまかなえるかもしれない」と述べています。

とはいえ、セメントで蓄電器をつくるのは簡単ではありません。

論文によると、形を工夫したセメントの蓄電器を大きな規模で作ることは、これまで難しいとされてきました。

壁となっていたのは主に2つの問題です。

1つ目は、電気をためる「電極」と、電極どうしを隔てる「セパレーター」のつなぎ目が、力に弱いことでした。

2つ目は、電気を運ぶイオンが材料の厚みの方向に長い距離を移動しなければならず、効率が悪いことでした。

つまり、厚みが増すほどイオンの道のりが長くなり、蓄電器としての性能が落ちやすくなるのです。

建物の材料としての強さを持たせつつ、イオンをすばやく行き来させるには、どうすればよいのでしょうか。

以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(【木のように生きる建物】CO2を吸収・貯蔵する「建築材料」を開発)

セメントの蓄電器は、電気と建物を両方支えられたのか?

セメントの蓄電器は、電気と建物を両方支えられたのか?
セメントの蓄電器は、電気と建物を両方支えられたのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームはまず、カーボンナノチューブ(炭素原子が筒の形につながった極細の素材)とカーボンブラック(すすのような細かい炭素の粉)、そしてセメントを混ぜ合わせ、3Dプリンターで印刷できる電極用の「インク」を作りました。

そしてこのインクを、小さなコンクリートの板の上に、両手の指を互い違いに組み合わせたような模様で描いていきました。

この「くし形」の模様では、隣り合う電極どうしが横に並んで向き合う形になります。

電極は、セメントモルタル(セメントに砂と水を混ぜたもの)でできたセパレーターの中にすき間なく埋め込まれ、全体がひとつながりの塊になっています。

そのため、電極とセパレーターのつなぎ目がはがれる心配がなくなりました。

では、イオンはどこを通るのでしょうか。

コンクリートの板の中ではセメントが水と反応して固まっていき、そのすき間には水とイオンが満たされます。

このイオンが、隣り合う電極のあいだを楽に行き来できるようになっていました。

くし形にしたことで、イオンは厚みの方向に長く旅する代わりに、隣の電極までの短い距離を横に移動すれば済むようになったのです。

さらにこの形は、電極と電解質(イオンを含み、電気を運ぶ役目をする物質)が触れ合う面積も広げてくれます。

例えるなら、坂の上の遠い家まで毎回登っていたのが、すぐ隣の家へ縁側から渡れるようになったようなものです。

その結果、最適化した蓄電器は、電流密度(面積あたりに流す電流の大きさ)0.46mA/cm²の条件で、1平方センチメートルあたり162.14ミリファラドの静電容量(電気をためられる量の目安)を示しました。

動作させた電圧の幅は1.0Vで、エネルギー密度(ためられるエネルギーの量)は1平方センチメートルあたり22.52マイクロワット時、出力密度(一度に取り出せる電力の大きさ)は1平方センチメートルあたり0.49ミリワットでした。

プレスリリースによれば、イオンの移動距離を短くしたこの設計によって、蓄電器全体の効率は以前のものより高くなったといいます。

では、肝心の強さはどうだったのでしょうか。

このセメントの蓄電器は、23.00メガパスカルの圧縮強度(押しつぶす力にどれだけ耐えられるか)を保っていました。

これは、床の板や階段に使われる市販のコンクリートに匹敵する強さだと報告されています。

つまり、建物の材料としての強さと、電気をためる働きを同時に持てることが示されたのです。

さらに研究チームは、同じコンクリートの板に印刷した3つの蓄電器をつなぎ、小さなLEDの列を光らせることにも成功しました。

灰色のセメントの板が、明かりをともす電源の役目を果たしたわけです。

寒さという課題と、「スマートな建物」への道

寒さという課題と、「スマートな建物」への道
寒さという課題と、「スマートな建物」への道 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

一方で、課題も見つかっています。

短時間の温度試験では、ほどよく温めたり冷やしたりした条件なら、蓄電器は安定して動きました。

ところが、マイナス18℃では性能が大きく落ちてしまったのです。

論文は、電解質の凍結と水分の管理が、今後の大きな課題だとしています。

研究チームは今後、寒い環境でも働けるように蓄電器を強くしていく予定です。

将来的には、非常用の照明から、自分で電気をまかなうセンサーまで、さまざまなものに電気を送れるかもしれないと期待されています。

論文でも、今回の成果は、電気をためる仕組みと荷重を支えるセメントの部材をひとつにまとめられる見込みを示したものだとしています。

Zhong氏は「建材が建物を支えるだけでなく、エネルギーをため、周囲を感じ取り、さらには人とやりとりできるようになれば、建物はただの受け身の雨宿りの場ではなくなり、本当の意味でスマートな環境になりうる」と語っています。

私たちが毎日踏んでいる床や寄りかかっている壁も、いつか黙って電気をため込む「見えない蓄電庫」として働く日が来るのかもしれません。

そうなったら、停電の夜には壁に向かって「少しだけ分けてもらえますか」と頭を下げることになりそうです。

参考文献

Cement-based supercapacitors could power next-generation 'smart' buildings (Phys.org)
https://techxplore.com/news/2026-10-cement-based-supercapacitors-power-generation.html

元論文

Monolithic 3D-Printed Interdigitated Cement-Based Supercapacitors for Structural Energy Storage
https://doi.org/10.1021/acsnano.6c09927

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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