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『ヒメアノ〜ル』から『mentor』まで…“人間の業”を描く、吉田恵輔ワールドを一気に振り返る!

  • 2026.10.2

『月』(23)で第47回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した磯村勇斗と、「Aぇ! group」の末澤誠也がダブル主演を務める『mentor』(10月16日公開)。過去に囚われたまま大人になった2人の青年と、彼らにすべてを奪われた男の再会を描く本作を生みだしたのは、“人間描写の鬼”と称される吉田恵輔監督。本作の公開に備え、これまで吉田監督が手掛けた、観る者の心を深く揺さぶる傑作たちを振り返っていこう。

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『mentor』は10月16日(金)より公開 [c]2026「mentor」製作委員会
『mentor』は10月16日(金)より公開 [c]2026「mentor」製作委員会

森田剛が怪演!トラウマ必至の『ヒメアノ〜ル』

現在の吉田監督作品のイメージを確立したのは、「行け!稲中卓球部」や「ヒミズ」などで知られる古谷実の同名コミックを実写映画化した『ヒメアノ〜ル』(16)だろう。清掃員の岡田(濱田岳)と先輩の安藤(ムロツヨシ)、カフェ店員のユカ(佐津川愛美)の平凡な日常が、森田正一(森田剛)という男の登場によって惨劇へと変化していく様が描かれる。

それまでのパブリックイメージやアイドルとしての枠を完全に脱ぎ捨てた森田剛の、感情を失った瞳と虚無的な佇まい。そして過酷な過去によって心を破壊された彼が、凶行の合間にふと見せる「フツーの日常」への儚い憧れ。逃れられない惨めさと歪んだ人間の哀愁によって、森田の俳優としての才能を解き放つと同時に、観客の心に決して消えない爪痕を残した。

狂気と欲望がうごめく愛憎劇『愛しのアイリーン』

吉田監督が独立系映画製作・配給会社の「スターサンズ」とタッグを組み、「ワールド・イズ・マイン」の新井英樹による同名コミックを映画化した『愛しのアイリーン』(18)も、吉田のポテンシャルが発揮された“劇薬”のような一本。

40歳まで恋愛経験のない岩男(安田顕)がフィリピンで出会った貧しい少女アイリーン(ナッツ・シトイ)を連れて極寒の農村に帰省したことから、人間の欲望と愛執が暴走する過激な狂騒劇が幕を開ける。性欲と孤独に翻弄される男の惨めさを生々しく体現した安田はもちろんのこと、彼の母親役を演じた木野花の狂気が炸裂した壮絶な怪演は大きな話題を集めた。

“正義”を振りかざして傷つけあう壮絶な人間ドラマ『空白』

スーパーでの万引きを疑われた中学生の少女が車にはねられて亡くなった事故をめぐり、その真相を追うべく怒りを狂暴化させる父親(古田新太)と、猛烈なバッシングに追い詰められていく店長(松坂桃李)の姿を通し、社会の不寛容さを浮き彫りにしていく『空白』(21)は、吉田監督自らが書き下ろしたオリジナル脚本作だ。

娘の死を受け入れられずに暴走する父親を演じた古田は、威圧感の裏に「娘に向き合わなかった深い公開」をにじませ、その悲しみの深さを圧倒的な迫力で叩きつける。対する松坂も、気弱で逃避的な店員の追い詰められた心情をリアルに表現。吉田監督の脚本力と演出力の両面から存分に味わえると同時に、観客もまた“当事者”としての自問を迫られることになるだろう。

母親の泥臭い執着と狂奔を描きだした『ミッシング』

石原さとみが、それまで培ってきたイメージを完全に封印し、第49回報知映画賞主演女優賞や第48回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞するなど新境地を開拓した『ミッシング』(24)。愛する娘の失踪に直面した紗織里(石原)が、SNSでの誹謗中傷や夫(青木崇高)とのすれ違い、薄れていく世間の関心に対する焦りから“壊れていく”姿が描かれていく。

同作が鋭く照射するのは、悲劇に群がる世間の無慈悲さと、正気を失うほど追い詰められて誰かを激しく責め立てずにいられない主人公自身の身勝手さと醜さ。それでも決して消えない、愛ゆえの葛藤と、暗闇の底でかすかに差し込む光。人間の弱さを包み隠さずに描くことで、切実なドラマと主人公の感情の揺らぎが際立ち、観客の胸を強く締め付ける一本に昇華していった。

キーワードは“赦し”…3人の男の歪な関係を描く『mentor』

そして最新作『mentor』もまた、吉田監督の唯一無二の感性が観る者の感情をかき乱す作品だ。少年2人が起こした無邪気な花火遊びが原因の火事で、アパートが全焼。15年後、拓海(末澤)は過去の自分が引き起こした火事で妻子を失った埜本(綾野剛)と偶然の再会。埜本を“メンター”として慕い、急速に距離を縮めていく。一方もうひとりの少年、龍之介(磯村)はアーチェリー選手の夢を追い、過去の罪の意識に蓋をして生きてきた。拓海が埜本に触発されて謝罪にのめり込むなか、龍之介は不気味なほどに優しすぎる埜本に違和感を覚えていくことに。

本作で個人としての本格映画デビューを飾った末澤が生々しく体現する、“赦し”にすがり“謝罪”に魅入られていく純粋無垢な青年の危うさと儚さ。アイドルとしてのオーラを消し去り、泥臭く追い詰められていく熱の入った演技で鮮烈な印象を植え付ける。また、磯村も冷徹さの裏に隠した、じわじわと忍び寄る脅威に対する焦燥を繊細かつ大胆に表現。観客を得体の知れない緊迫感で呑み込んでいく。

磯村は「表現方法というのは自由なもので、どんな形でも成立するのだと、芝居の可能性も教えていただきました」と吉田監督の初タッグで、俳優としてのさらなる進化のきっかけを得たことを告白。末澤も「お芝居の方向性の伝え方が的確で、わかりやすくニュアンスでも言ってくださる。監督自身にも拓海っぽいところを感じる瞬間もあり、子ども心を持った方なんだなというのを思いました」と振り返り、「やっぱり天才です」と吉田監督の手腕を絶賛。

【写真を見る】末澤誠也が「子ども心を持った方」「天才」と大絶賛!沼落ち必至、吉田恵輔監督の必見作は? [c]2026「mentor」製作委員会
【写真を見る】末澤誠也が「子ども心を持った方」「天才」と大絶賛!沼落ち必至、吉田恵輔監督の必見作は? [c]2026「mentor」製作委員会

人間の愚かさや弱さ、哀愁を容赦なく炙りだし、日本映画界に衝撃を与えつづけてきた吉田監督が新たに送りだす『mentor』。主演2人の凄まじい熱演と、吉田監督の卓越したストーリーテリングと演出力に注目しながら、この静かな衝撃を受け止めてほしい。

文/久保田 和馬

※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記

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