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量子コンピューターを「宇宙」で初めて動かすことに成功

  • 2026.10.1
量子コンピューターを「宇宙」で初めて動かすことに成功
量子コンピューターを「宇宙」で初めて動かすことに成功 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

スマホで撮りためた写真をまとめて送ろうとしたら、送信中のバーがなかなか進まず、画面の前でじっと待たされてしまいました。

実は、地球のまわりを回る人工衛星も、これとよく似た悩みを長年抱えてきました。

そこでウィーン大学のフィリップ・ヴァルター氏が率いる物理学者のチームは、光の粒を使って計算する小さな量子コンピューターを作り、小型の人工衛星に載せて宇宙へ送り出しました。

しかし量子の計算に使う光はとても繊細で、宇宙にはそれを乱すものがあふれています。

果たして、量子コンピューターは宇宙でも動いたのでしょうか。

研究内容の詳細は2026年9月21日に『arXiv (Cornell University)』にて発表されました。

目次

  • 人工衛星を悩ませる「データの渋滞」
  • 宇宙に出た光の計算機は、本当に動いたのか?
  • 宇宙で「考える」衛星へ、残された課題

人工衛星を悩ませる「データの渋滞」

人工衛星を悩ませる「データの渋滞」
人工衛星を悩ませる「データの渋滞」 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

地球観測などを行う人工衛星は、機体の中で大量のデータを扱っています。

ところが、その生のデータを地上へ送ろうとすると、通信の混雑や帯域(一度に送れるデータの量)の限界がボトルネックとなり、何もかもが遅くなってしまいます。

これを乗り越える方法の1つが、データを送る前に、衛星の上でその場で処理してしまうことです。

ただし衛星に積むコンピューターには、大きさ、重さ、電力について厳しい制約があります。

そこで期待されているのが、光の粒である「光子(こうし)」を使う量子技術です。

光子どうしの干渉(波が重なって強め合ったり弱め合ったりする現象)を利用すると、ハードウェアの規模を増やさずに、大量のデータ処理に必要な機械学習のモデルを強化できるとされています。

ヴァルター氏らは、1つ1つの光子を使って複雑な操作を行う「量子フォトニック・プロセッサ」を、小さな光学部品で組み上げることにしました。

しかし、このアイデアを設計図から宇宙へ持ち出すのは、簡単なことではありません。

光子の干渉をうまく使うには、ただ光子を作るだけでは足りず、光子どうしを互いに「見分けがつかない」状態に保たなければならないからです。

たとえるなら、どこからどう見ても区別できない双子のように、2つの光子をぴったりそろえておく必要があるのです。

この条件はとても壊れやすく、ロケットの打ち上げや激しい温度の変化、放射線、真空にさらされる宇宙では、保つのが難しいとされてきました。

実際、光の量子状態はこれまでにも宇宙で作られ、安全な通信や物理の基礎的な検証に使われてきましたが、計算の資源として使われたことは一度もありませんでした。

宇宙に出た光の計算機は、本当に動いたのか?

宇宙に出た光の計算機は、本当に動いたのか?
宇宙に出た光の計算機は、本当に動いたのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

宇宙へ向かった装置は、光子のペアを作る光源、6つの通り道(モード)を持つガラスの集積回路チップ、1つ1つの光子を捉える検出器、そして制御用の電子機器でできていました。

実際の量子コンピューターの中身の画像はこちら(画像1)。

装置はSpaceXのファルコン9ロケットに載せられ、地球低軌道へと打ち上げられました。

その仕組みを簡単に見ていきましょう。

まず、レーザー光を結晶に通して、光子のペアを生み出します。

次に、その光子たちを小さなガラスの回路に送り込み、ごく小さなヒーターを使って、光子の進み方や干渉の仕方を操ります。

最後に、回路の反対側に置かれた高感度の検出器が光子を捉え、光子がどこから出てきたかを測ります。

回路の設定を変えれば光子に施す操作を切り替えられるので、この装置は「プログラムできる」量子の計算機になっているのです。

ところが、打ち上げのあとに思わぬトラブルが見つかります。

6つあった光子の検出器のうち半分が動かなくなり、使えるのは3つだけになってしまったのです。

それでもミッションは、中心となる目標を果たしました。

軌道に乗ってから最初の8か月の間に、装置は光子のペアを作り、操り、検出することに成功し、プログラムした複数の異なる操作を実行したのです。

さらに研究チームはチップの設定を変えながら光子を注意深く調整し、2つの光子が見分けのつかない状態になるようにしました。

そのうえで探したのが、「2光子干渉」と呼ばれる現象です。

この干渉が見えれば、装置が宇宙の中で「非古典的な光」、つまり量子ならではの性質を持つ光を作り、操り、捉えられていることの証拠になります。

その結果、研究チームは宇宙の過酷な環境の中でも、光子どうしの量子干渉を観測することに成功しました。

これは、量子コンピューターが宇宙で使われた初めての例とされています。

検出器の半分を失いながらも、繊細な光子の干渉は宇宙でも保たれていたのです。

宇宙で「考える」衛星へ、残された課題

宇宙で「考える」衛星へ、残された課題
宇宙で「考える」衛星へ、残された課題 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

とはいえ、この成果はまだ最初の一歩にすぎません。

人工衛星が軌道上で、量子の力を借りたデータ処理を実際にこなせるようになるまでには、まだ多くの作業が残っています。

研究チームは論文の中で、次の段階を「センサーとプロセッサの間の輪を閉じ、地球観測のデータを回路にプログラムする操作へ直接書き込むこと」だと説明しています。

つまり、衛星のセンサーが集めたデータを、その場で光の計算機に流し込めるようにしたいというわけです。

そのためには、装置が宇宙の極端なストレスに耐え続けられることも欠かせません。

研究チームは、推論(学習したモデルを使って答えを出す処理)のような処理では長い時間をかけてデータを集める必要があると述べています。その間に部品が少しずつ劣化すると、2つの光子を同時に検出できる頻度が下がってしまうと指摘しています。

長い時間にわたって装置を安定させることが、残された課題なのです。

研究チームが挙げる使い道の1つは、地球観測のデータを衛星の上でその場で符号化(計算に使える形に置き換えること)することです。

また、分散型の量子ネットワークの「ノード(結節点)」として衛星を働かせることも考えられています。

これまで宇宙での光の量子技術は、主に安全な通信や基礎的な検証に使われてきました。

今回の実証によって、その役割に「計算」が加わる道が開けたと言えるでしょう。

量子コンピューターといえば、研究所の奥で大切に守られている機械を思い浮かべる人も多いかもしれません。

以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(「時間の逆転」を量子コンピュータで実現!)

しかし光の計算機はすでに、ロケットの打ち上げを乗り越え、地球の上空で働き始めているのです。

今夜、夜空を横切る光を見つけても、それが流れ星なのか計算中の衛星なのか分からないので、願いごとは念のため手短にしておきましょう。

参考文献

Quantum computer boldly goes where no quantum computer has gone before: Space (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-09-quantum-boldly-space.html

元論文

In-orbit operation of a programmable quantum photonic processor
https://doi.org/10.48550/arxiv.2609.25248

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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