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自分を成功へと導くことはできる? 脳を老けさせない「ニューロプラスティシティ」と3つのキーワード

  • 2026.9.29

脳は、大人になれば変わらない。老化するのみ──。しかし今、その定説は覆っている。何歳からでも、経験と習慣で脳は書き換わっていく。

話を伺った人...
毛内 拡(HIROMU MONAI)
:脳科学者、神経科学者、生物学者。お茶の水女子大学ヒューマンライフサイエンス研究所助教。理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て現職。専門は神経生理学・生物物理学。ニューロンやグリア細胞、細胞外環境も含めた研究を進める。著書に『脳を司る「脳」』(講談社ブルーバックス)など。

トップアスリートも実践。未知の積み重ねで脳の配線を書き換える?

<strong>21世紀の新アイコン、アイリーン・グー。北京2022、ミラノ・コルティナ2026の両五輪で計6個のメダルを獲得。脳の可塑性を信じ、恐怖やプレッシャーをコントロールして勝利を引き寄せる思考法は世界中で話題に。</strong> Getty Images

2026年冬季五輪、フリースタイルスキー・女子ハーフパイプで連覇を果たしたアイリーン・グー。スタンフォード大学に在籍しながら、アスリートとして、モデルとして、世界のトップに立ち続ける22歳が口にしたのが、ニューロプラスティシティ、「脳の可塑性」を意味する言葉。SNSなどでも話題になり、記憶している人もいるだろう。

「プラスティシティは、プラスチックと似た語源をもち、『柔らかく、自由に形を変えられる』という意味。かつては、成人した脳は変化しにくいと考えられてきましたが、脳科学の発展により、成人した後でも、経験や生活習慣によって脳の回路が変化することがわかってきたのです」

文字通り、脳は柔らかな臓器ということ。「脳の配線は、よく使うものは強化され、使われないものは淘汰されて、自分の経験や生活習慣に最適化されていきます。たとえば、バイオリン奏者の手指に関わる脳領域や、複雑な道を覚えるロンドンのタクシー運転手の海馬には、『経験』と関連した違いが報告されています」。一方、使われない回路は、回路自体が変化していくという。「ただし、これは『退化』ではなく『適応』。脳は、どんどん省エネ化したい臓器なので、よく使うものを残して、こう来たらこうするとショートカットしていきたい。アタマが固い、いわゆる“石頭”のような状態も、使い慣れた考え方や行動に頼る傾向が強くなった状態と捉えることができるでしょう。そして逆にいえば、新しいことを学び、経験を重ねれば、脳の回路は生涯にわたって変化し得ます」

ここで2つのことに注意したい。一つ目は、脳疲労の軽減だ。前記事で見たとおり、情報過多の現代は、脳に入れる情報をコントロールし、脳を休ませ、そのコンディションを整えることが大前提となる。そして二つ目は、体の動きを伴い、それを繰り返すこと。「なりたい自分を思い描くだけで十分とは限りません。実際に行動し、繰り返し経験することが、脳の変化を定着させます」。自分にとって未知なことをやったか。その積み重ねが、脳の配線を書き換えていく可能性につながるのだ。

脳は「新しい刺激」を待っている。今日から始めたい脳メンテナンス術

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「脳が変化し続ける力、ニューロプラスティシティ。その背景には、ニューロンだけでなくグリア細胞も関わっています」と毛内先生。そう、脳疲労の鍵を握る、メンテナンスを担当する細胞だ。「グリア細胞は、ニューロンにエネルギーを供給したり、老廃物を取り除くほかに、ニューロン同士をつなぐシナプスの活動を支える働きも。なかでも、アストロサイトは、シナプスの伝達効率や神経回路の調整に深く関係します。脳疲労との関係も指摘されており、アストロサイトは、シナプスの働きや脳内環境の調整に関わり、学習や可塑性を支える条件の一つと考えられています」

では、どうすればよいのだろうか。「例えば、60代で始めた趣味に夢中になり、大会に出るような人。えいっと挑戦してみたら、思いがけない世界が広がることもある。思考の習慣で、現状維持が一番いいと思いがちですが、そこを乗り越えると脳は成長します。年齢を理由に諦めるのは、あまりにももったいない」。なぜなら脳は、新しい経験によって刺激を受け、回路を組み替えていくのだから。「大切なのは、今あるグリア細胞が十分に働ける環境を整えること」。その具体策として、毛内先生は3つのキーワードを挙げる。

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【新奇体験】「いつもと違う」を選ぶ

「自分にとって目新しい体験をすること。ポイントは、『普段の自分なら選ばないこと』をやってみることです。初めてのカフェに入る、イメージチェンジをする、いつもと違う駅で降りて道に迷ってみる、一人旅をする、映画や読書を通じて“作者”に出会うことも立派な新奇体験。新しい体験や心が動く状況では、注意や動機づけに関わるドーパミンやノルアドレナリンなどが働きます。こうした神経調節はアストロサイトにも影響し、学習や可塑性に関わる可能性があります」

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【情動喚起】心が動く瞬間をつくる

「情動とは、単なる喜怒哀楽ではなく、体の反応を伴うドキドキやワクワクのこと。大自然に触れて息をのむ、ボルダリングでスリルと緊張感を味わう。そうした“脳がちょっとびっくりするような体験”が、脳に新しい神経回路を作るきっかけとなるのです」。情動を伴う体験は、記憶にも残りやすい。脳が活性化して、学習効率が高まることも知られている。「計算ドリルやパズルの反復も役立ちますが、それだけで幅広い能力が鍛えられるとは限りません」

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【社会的つながり】誰かのために行動する

「人とのつながりには、“愛情ホルモン”の名で知られるオキシトシン系が関わると考えられています。近年の研究では、アストロサイトにオキシトシン受容体があり、社会行動に関与する可能性が示されています。人に親切にすればオキシトシンが分泌され、脳が整うというほど単純ではないものの、自分のランチは簡単に済ませても、パートナーのためなら手をかける。そういった誰かの役に立てたという実感は、自己有用感や自分の役割を感じることにもつながります」

【脳を老けさせない、脳メンテナンス】

Vol.1 物忘れは脳の省エネ? 脳科学者が解説する加齢と老化の違いと脳の可能性

Vol.2 ネガティブ思考は「脳疲労」のサイン? 情報過多時代の正しい脳の休ませ方を専門家がガイド

From Harper's BAZAAR October 2026

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