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永野が観た『本当にあった話(の話)』は観客を刺激し続ける“変な映画”「『ドパガキ the movie』ってタイトルのほうがいい!(笑)」

  • 2026.9.29

実際に起きた殺人事件を題材にした舞台劇の制作現場で、演じる役と現実の境界を見失っていく男を中心に、虚実が混ざり合いながら毒気たっぷりのユーモアを含んで展開していく武井佑吏監督の商業映画デビュー作『本当にあった話(の話)』(10月2日公開)。

【写真を見る】永野が命名!『本当にあった話(の話)』改め『ドパガキTHE MOVIE』

物語の舞台は1999年に起きた配偶者入れ替え連続殺人事件から数十年経った現在。事件を基にした舞台が作られることになり、演技経験のない素人の夛田(水上恒司)が主演に抜擢される。本番が近づくにつれ、夛田はだんだんと役に囚われていき、共演者の米良(黒木華)、脚本家の垣内(小池栄子)、演出家の加藤(佐々木蔵之介)を巻き込んで暴走していく…。

【写真を見る】永野が命名!『本当にあった話(の話)』改め『ドパガキTHE MOVIE』 撮影/興梠真穂
【写真を見る】永野が命名!『本当にあった話(の話)』改め『ドパガキTHE MOVIE』 撮影/興梠真穂

映画公開に先立ち、MOVIE WALKER PRESSでは芸人・永野に本作をひと足早く鑑賞してもらい、インタビューを敢行!およそ90分に及んだ取材の終盤、彼は思わずこうこぼした。「1本の映画でこんなに喋れるって、すごいことですよね」と。その言葉どおり、永野は絶賛する一方で“変な映画”と評する本作について、キャストの芝居から武井監督の作家性、さらには「自分だったらどう撮るか」まで、次々と話を広げていった。

※本記事は、一部ストーリーのネタバレに該当する要素を含みます

「『この場面でこう思ってほしい』という監督の意図がはっきりある気がする」

――ご覧になって、率直にどう思われましたか?

永野「変な興奮がありましたね。“変な映画”というところで。いろんな気持ちになる映画で、率直に…っていうのが一番難しい映画かなと思いました。最近は、いろんな映画アプリの評価を事前にチェックしてから観る人が多いと思うんですけど、この映画に関してはなにも見ないで観てほしいなと。観た人によって感じ方が違うと思うんですよ。サスペンスにも、サイコスリラーにも、ブラックコメディにも見える。ジャンル分けできない映画ですね」

原作は芥川賞候補作家の鴻池留衣による中篇小説『本当にあった話(の話)』(初出タイトル『フェミニストのままじゃいられない』から改題) [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
原作は芥川賞候補作家の鴻池留衣による中篇小説『本当にあった話(の話)』(初出タイトル『フェミニストのままじゃいられない』から改題) [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

――特に印象に残ったシーンを挙げるなら?

永野「稽古前にみんなで飲むシーンのあと、黒木華さん演じる売れない役者役の米良が、水上さん扮する夛田の家に行って、『さあ、やろうか』って言うんですよ。てっきり濡れ場が始まるのかと思って集中して観ていたら、始まったのは本読みで…。まんまと裏切られました(笑)。濡れ場を期待した自分が情けなくて。監督のテクニックというか、随所随所で観客を試してくるんですよね。『お前はどう思う?』みたいな感じで。あと、米良が舞台の稽古で夫の役を演じている夛田の指を舐めるシーン。演出家役の佐々木蔵之介さんが、黒木さんを夛田役に据えて同じことをやってみせるシーンも、生々しくて気持ち悪かったです」

――あの一連のやりとりは、かなり観客の心を揺さぶってきますよね。

永野「はい。本当に気持ち悪いです(笑)。あとは、後半、米良が喫煙所でいきなり踊り出すシーンがあるんですけど、あれも笑っていいのかわからなくて…(笑)。『ブラックコメディです』って宣伝されたら、きっと最後まで安心して笑って観られると思うし、『サイコスリラーです』って言われたら、結構、怖いと感じて終わると思うんです。最近は『どう捉えてもらっても構いません』っていう映画が多いですけど、本作の武井監督の場合は多分、『この場面でこう思ってほしい』という意図がはっきりある気がする。監督は観客にどう観てほしいのか。逆に聞いてみたい映画でしたね」

俳優として伸び悩んでいる米良 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
俳優として伸び悩んでいる米良 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

「僕自身にも確かに夛田っぽいところがある」

 「怖いのか、笑っていいのかわからない」と語る永野 撮影/興梠真穂
「怖いのか、笑っていいのかわからない」と語る永野 撮影/興梠真穂

――俳優陣の芝居については、どのように感じましたか?

永野「水上さんは、あんなイケメンなのにすごいですよね。定型文みたいな芝居じゃなく、ちゃんと気持ち悪かった(笑)。夛田に『お前らなんて疑似フェミニストだ!』と糾弾される脚本家の垣内役を演じた小池栄子さんも、本当に芝居が上手くて度肝を抜かれましたし、佐々木蔵之介さんが演じた、小さな世界を掌握してる演出家の感じも、見ていてちゃんと不快になった(笑)。それって、映画としては大成功なんですよね」

――現実と虚構の境目がなくなっていく夛田、俳優としての活路を見出せずにいる米良、念願だった事件の舞台化に執念を燃やす垣内、威圧的な指導で稽古場を支配する加藤など、登場人物の一人ひとりがかなり強烈ですよね。

永野「全員変だし、誰もいい人がいない。だから、最初はてっきり水上さん演じるキャラクターが暴走するだけの映画なのかと思いきや…それだけでは全然収まらないっていう。そのわかりにくさがおもしろいですよね」

本業はITプログラマーである夛田 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
本業はITプログラマーである夛田 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

――では、夛田という人物を、永野さんはどう見ましたか?

永野「僕は、タイトル以外なにも情報を入れずに観たんですけど、正直、最初観始めた時は、8頭身の美男美女がモデルルームみたいな生活感が微塵もない部屋で会話してて、『なんで自分に(この映画のインタビューの)依頼が来たんだろう…?』って、ちょっと不思議に思いながら観てたんですよ。でも夛田が、小池さん演じる脚本家の垣内に向かって『この疑似フェミニストが~!』ってブチ切れるシーンで、『ああ、このキレ方がテレビでやってる俺っぽいのかな』と、なんとなく思えて。実際、スカッとしましたしね」

――そこから徐々に、ご自身を夛田に重ねながら観ていかれたんですか?

永野「そうそう。そうやって観ているうちに、僕自身にも確かに夛田っぽいところがあるなと。熱くなってる夛田の気持ちはわかるし、なんか可愛かったですしね(笑)。『人間なんて、所詮こんなもんだよね…』っていうのをいまの言葉で言うと、“冷笑的”だと思うんですけど、もし僕が冷笑的な人間だったら、芸人なんて目指さずに就職してると思うんですよ。でも、売れない時代も自分を信じて『いつか売れてやる!』って夢を持ってやってきたから、いまがあるわけで…。そう考えると、自分も夛田側の人間だと言えるのかもしれない。夛田って、ちょっと潔癖なところがあるじゃないですか。あれ、自分にもあるんですよ」

妻の不貞が原因で離婚を経験した夛田 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
妻の不貞が原因で離婚を経験した夛田 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

――そうなんですね!

永野「だから後半は結構、『もっとやれ~!』って、夛田を応援してました(笑)。ドミノ倒しみたいに、周りの人間のイヤ~な部分がどんどん露呈していくので、『実は夛田が一番純粋なんじゃないか?』っていうふうにも見えてくるんですよね」

「ちょっとズレてるような人たちが、そのまま出てくる感じが“怖い”」

永野いわくキャラクターたちは「全員変だし、誰もいい人がいない」 撮影/興梠真穂
永野いわくキャラクターたちは「全員変だし、誰もいい人がいない」 撮影/興梠真穂

――武井監督の作家性については、永野さんはどのような印象を持たれましたか?

永野「監督の思想とか性癖がダダ漏れしてるような映画で、なんか頼もしかったですね。(キャストもスタッフも)みんな、よく付き合ったなと思うんですけど(笑)。それってつまり、『付き合ってやってもいい』と思えるくらい『おもしろい』ってことじゃないですか。この監督は、自分が撮りたいものをちゃんと撮ってるんだろうなというのが伝わってくる」

――確かに。余すことなく出しきった感がありますよね。

永野「はい。こういったインタビューの場では、武井監督も『夛田はこういう人間で…』とか、俯瞰的な感じで語るかもしれないですけど、僕は勝手に、主人公の夛田って、武井監督自身の中にある人格なんだろうなって思って観てましたね。そこまで冷静な映画じゃないというか。監督が自分のやりたいことを、そのまま出している感じがするんですよ。あと僕、最初まんまとこのタイトルにつられて、『自分が知らないだけで、本当にあった話をもとにしてる映画なんだ…!』って思いながら観てたんですよ。綺麗に騙されました(笑)。『本当にあった話(の話)』という題材を使って、『な?俺ってすごいだろ?』っていうのを、監督が自分の細胞レベルで出したかった感じが伝わってきたのが、個人的にめちゃくちゃよかったです」

演じる役そのものになってしまった夛田の妄想が暴走! [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
演じる役そのものになってしまった夛田の妄想が暴走! [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

――監督が、作品に自分自身を乗せて観客にぶつけてくる感じでしょうか。

永野「はい。この映画って、もちろん言いたいことは明確にあるとは思うんですが、『伝えたいメッセージ』みたいなものは、そんなにないような気がしていて…。いい意味で、ものすごく自分勝手というか。最近の映画って悪人を描く時とかも『この人にもこういう正義があるんですよ』とか、全部ちゃんと説明するじゃないですか。でも、この映画は、そういう感じじゃないんですよね。『この人、変な人だな』で終わる。いまの世の中の基準で見たら、ちょっとズレてるように感じるアップデートされてない人たちが、言い訳せず、そのまま出てくる感じが“怖い”につながっているような気がするんです」

――確かに、そうかもしれません。

永野「昔の映画って、もっとそういうのが許されてた気がするんですよ。『なんでこんなことするの?』っていう人が、悪役として特別に描かれるわけでもなく、普通に『そういう人』としていたりする。で、最後になぜかみんなと一緒になってワーワーやって終わる、みたいな(笑)。『あれ?お前、途中、結構悪かったよね?』っていう。あのユルさが懐かしくて、僕は昔の映画をよく観ているのかなと思うことがあります」

演出家の権力を使って米良を家に誘う加藤 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
演出家の権力を使って米良を家に誘う加藤 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

「ずっと変な違和感を観客に与え続けてくれるのがこの映画の特徴」

――永野さんは最近、ジャッキー・チェンの映画ばかりご覧になってるそうですね。

永野「ジャッキーはもうショック療法で、なんか現代(の映画)がきつすぎて現実逃避で観ているんです(笑)。もちろんジャッキーも大好きですけど、昔の映画って、いまだったら『これはどういう意味なんだ』とか『この人にもこういう事情があって…』とか、いちいち説明しないじゃないですか。だからと言って、昔のほうがユルくてよかったと言いたいわけではないんですよ。いまの世の中がアップデートされていくこと自体はいいと思うんですけど、感動させるとか、なにかメッセージを訴えるとかじゃなくて、観客の興味をずっと惹き続ける映画を撮るのって、本当に難しいと思うんですよね」

脚本家の垣内を「疑似フェミニスト!」とののしる夛田 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
脚本家の垣内を「疑似フェミニスト!」とののしる夛田 [c]鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

――表現においても、昔と比べるとはるかにいろいろな規制があるなかで、観客の予想を最後まで裏切り続けなければ飽きられてしまう、といったハードルの高さがあると。

永野「はい。その点で言うと、この映画って、ずっと刺激があるじゃないですか。『ええ…?』って、ずっとビックリする。いい意味で、ずっと変な違和感を観客に与え続けてくれる。そこがこの映画の特徴なんじゃないかなと思います」

――いまはTikTokのような短い尺の映像も溢れていて、絶大な人気を集めています。

永野「そうなんですよ!だから僕、強いて言うならこの映画のタイトルも、『ドパガキ the movie』のほうがいいんじゃないですか?って思うんです(笑)。“刺激物映画”ですよね。“ドパガキ”っていうタイトルにつられて観た人たちが、『全然違うじゃん!』って言いつつも、『でも、なんかちょっとわかる(笑)』みたいな映画なので。ほかの映画でそういう宣伝をやられたら『金返せ!』ってなるけど、この映画なら“なんでもアリ”が許される気がするんですよ」

武井佑吏監督を絶賛する永野 撮影/興梠真穂
武井佑吏監督を絶賛する永野 撮影/興梠真穂

――最後に、武井監督の次回作には、永野さんとしてはどんな映画を期待しますか?

永野「これだけ人の嫌なところを細かく描ける人だから、逆に日本人の機微を活かした“いい話”も撮れるんじゃないかなと思います。意外と“紡ぐ”ような話も撮れる気がしていて」

――なるほど…。この感じを“反転”させればいいと。

「そう。反転させるだけで真逆の映画になるから。僕、歳を取ったせいもあると思いますけど、今は仲間とか、人の体温とか、そういうものにすごく興味があるんですよね。アキ・カウリスマキの映画みたいに、なにも起きないけど、すごくほっこりする映画とか。この監督がそういうものを撮ったら、おもしろいんじゃないかなと思います」

取材・文/渡邊玲子

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