1. トップ
  2. エンタメ
  3. 実写映画『ルックバック』是枝裕和監督が再発見した映画館で観る価値「実写でできることってなんだろう、と考えた時に“音”だなって思ったんです」【連載「I’m a moviegoer」】

実写映画『ルックバック』是枝裕和監督が再発見した映画館で観る価値「実写でできることってなんだろう、と考えた時に“音”だなって思ったんです」【連載「I’m a moviegoer」】

  • 2026.9.19

映画館に行くという行為から生まれた「moviegoer(ムービーゴーアー)」という単語は、「よく映画を観に行く人、映画ファン」という意味で、海外では広く使われている。この言葉をキーワードに、“映画ファンの皆さんに、もっと映画館で映画を観てほしい”という想いから「グランドシネマサンシャイン 池袋」が劇場オリジナルグッズとして展開している企画が、「I’m a moviegoer」だ。

【写真を見る】是枝監督が丁寧に書いてくれた「I’m a moviegoer」メッセージ

Tシャツやトートバッグなどのオリジナルグッズを展開している「I’m a moviegoer」 [c]Cinema Sunshine Co., Ltd. All Right Reserved.
Tシャツやトートバッグなどのオリジナルグッズを展開している「I’m a moviegoer」 [c]Cinema Sunshine Co., Ltd. All Right Reserved.

この企画では、映画館で観ることのすばらしさをより伝えていくべく、自他ともに認める「moviegoer」な映画監督に「I’m a moviegoer」という直筆メッセージをもらい、そのオリジナルグッズをグランドシネマサンシャイン 池袋とMOVIE WALKER STORE限定で販売する。

仕事場のデスクでメッセージを書く是枝監督
仕事場のデスクでメッセージを書く是枝監督

今回は、満を持して『ルックバック』が公開されたばかりの是枝裕和監督が登場!映画祭に出席するため、ヴェネチアを訪れていた監督に、“moviegoer”としての思い出や映画体験、さらに映画作りへのこだわりを語ってもらった。

「ACTミニ・シアターについては、観た映画だけでなく、空間ごと覚えていますね」

――是枝監督の人生の中で、映画館でご覧になった映画で一番印象に残っていること、これを観て映画にのめり込んだという体験はありますか?

「うーん、1本って難しいですよね…。いろいろなところでしゃべっていますが、(フェデリコ・)フェリーニですね。19、20歳くらいの大学に入ってすぐ、早稲田大学の近くのACTミニ・シアターっていう会員制のシネクラブで見た『道』(54)と『カビリアの夜』(57)の2本立てで、それがまあ、映画にハマるきっかけでした。毎日、大学に行かずにそこに通ったりしていて。そこは30人くらい入るとすぐにいっぱいになっちゃうような、お座敷の映画館だったんです。入り口で靴を脱いで、下足札をもらって入ると、受付でみかんとか1個もらって(笑)。いわゆる座椅子が並んでいて、寝転んだりもできるので、つまらないと寝ちゃうんですよ。ACTミニ・シアターについては、観た映画だけでなく、空間ごと覚えていますね。あとは銀座の並木通りにあった、並木座という半地下のすごく狭い映画館。そこもなぜか、スクリーンの正面やや右に柱があって、その後ろに座らざるを得なくなると、柱が邪魔でスクリーンがよく見えない。劇場自体もすごく小さくて汚かったけど、その空間で覚えてるんです」

是枝監督が感銘を受けたというフェデリコ・フェリーニの『道』 [c]Everett Collection / AFLO
是枝監督が感銘を受けたというフェデリコ・フェリーニの『道』 [c]Everett Collection / AFLO

――グランドシネマサンシャイン 池袋のIMAXレーザーGTで映画をご覧になったことはありますか?

「あります。作り手として個人的にはラージフォーマットへのこだわりはないのですが、『ルックバック』を作ってみて、Dolby Atmosだとこんなに音が違うんだって思いましたね。だから、音響環境って大事だなって、ようやく思い始めたところです。もともとは、そんなにあっちこっちから音が聞こえてくるのは好きじゃなかったんです。シンプルに画面の方に集中したいから、後ろから音が聞こえてくると振り向いちゃうタイプなんで、嫌だったんだけど。でも、Dolby Atmosはそれぞれの音をちゃんと粒立てられるから、『ルックバック』みたいな作品に関して言うと、音楽が鳴っててもペン先の音がちゃんと聞こえてくる、それがボリュームだけでのみ込まれないっていうのはすばらしいんだなと改めて思いました」

「週刊少年ジャンプ」での連載を目指す藤野と京本 [c]藤本タツキ/集英社 [c]2026 K2 Pictures・集英社
「週刊少年ジャンプ」での連載を目指す藤野と京本 [c]藤本タツキ/集英社 [c]2026 K2 Pictures・集英社

「原作の漫画に何を足して、何を削るかっていうことを考えた時に、『音だな』って思ったんです」

『ルックバック』上映終了後にスタンディングオベーションを浴びる是枝監督 [c]Kazuko Wakayama
『ルックバック』上映終了後にスタンディングオベーションを浴びる是枝監督 [c]Kazuko Wakayama

――『ルックバック』は、第83回ヴェネチア映画祭のコンペティション部門に出品され、パラッツォ・デル・シネマ(映画の殿堂)で上映が行われました。この会場も、音響設計がすばらしかったですね。

「ただ、僕らが座っていた席(バルコニー席)から、スクリーンがちょっと遠くて。なかなか難しいな、と思いながら観ていました。難しいんだけど、逆にあの席に音はすごく届くんですよ。前のほうに座ると、逆に音が頭の上を通過しちゃう。なのでスクリーンは小さいんだけど、音はしっかり届いていました」

――上映中もですが、上映後もスタンディング・オベーションでとても暖かい拍手が長く続いたのが印象的でした。

「“音”を大切に録った作品なので、にもかかわらずというか、だからこそ実は音を消している沈黙の時間がとても大事な映画だと思っていました。(主人公の藤野と京本の)2人の気持ちが1つになる、コンビニの夜のシーンなどはあえて音を絞っていて、そのシーンでは劇場の中から音が消えて、観客が集中してくれてるのが伝わる瞬間でした。そのシーンで、ざわつかないといいなと思いながら上映に立ち会っていたので、そこがとてもお客さんも集中してくれてるなと感じました」

――『ルックバック』では、漫画を描くペンの音や生活音、それからあえて無音のところにすごくこだわって作られたということですが、音に着目してこの映画を作ろうと思われた理由は何だったんでしょうか。

「実写でできることってなんだろう、原作の漫画に何を足して、何を削るかっていうことを考えた時に、『音だな』って思ったんです。そこにたどり着かなかったら、多分実写版を撮ってないと思うんですけど。音の変化があの背中に加わっていくことで映画になるなって思いました。(原作者の)藤本タツキさんに最初に会った時に、具体的に漫画の映画化の話という流れではなく、ベテランのアシスタントさんが描く線がかっこよくて、自分には出せない迷いのない線を引くペンの音がすごく心地いいっていう話をお聞きして、なるほどなと思ったんです。それが最初でした」

藤野に憧れ、家にひきこもりながら絵を描き続けていた京本 [c]藤本タツキ/集英社 [c]2026 K2 Pictures・集英社
藤野に憧れ、家にひきこもりながら絵を描き続けていた京本 [c]藤本タツキ/集英社 [c]2026 K2 Pictures・集英社

――ヴェネチア映画祭の記者会見で、キャストの方々4人全員が、「漫画の練習が大変だった」とおっしゃっていましたが、是枝監督の目から見て、彼らがこの映画で得たもの、この映画で達成したことってなんだと思いますか。

「それは本人たちに聞くのが一番だと思うけど(笑)。演技は、耳を使うんだよっていう話は最初にしましたね。お芝居は耳が大事だから、相手のセリフも含めて、その場の音をちゃんと聞いてごらんっていう話をしました。子供時代の京本を演じた岡田六花さんは、その一言でちゃんと意識を持てるようになったから、すごいなと思いましたね。『役者だな、この子は』って。他に何か、こうしてとか、こう動いてみたいな指示はしてないと思います。そのままの動きがおもしろかったです。なんか不思議な動きするんですよ。スケッチブックを持って扉を開けて出てきてそれを下に置いて、僕が『ああずいぶん描いてきたな』と思いながらスケッチブックを見てって言うと、崩れそうになったスケッチブックを足で支えながら動く動き方がおもしろくて。

主人公2人の子ども時代を演じた七瀬ふうりと岡田六花 [c]藤本タツキ/集英社 [c]2026 K2 Pictures・集英社
主人公2人の子ども時代を演じた七瀬ふうりと岡田六花 [c]藤本タツキ/集英社 [c]2026 K2 Pictures・集英社

なんかこの子、ずっと見てられるなっていう感じでした。ふうりさんは多分、撮影も楽しかったと思います。撮影って楽しいんだなっていうことが発見できれば、あの役は成立するだろうなと。あの場にいることが楽しいという気持ちを発見してくれたら。一生懸命走ってもらって、一生懸命描いてくれればと思ってたけど、意外とちゃんと自分でアレンジしてセリフのニュアンスとか変えてきていました。藤野役の七瀬ふうりさんとのバランスも良かったです」

「映画を観ている観客の意識が、スクリーンの中の2人に集中しているんだなっていうのが、如実にわかる」

ヴェネチア国際映画祭では「Cinema & Arts(シネマ&アーツ賞)」など5つの賞に輝いた是枝監督
ヴェネチア国際映画祭では「Cinema & Arts(シネマ&アーツ賞)」など5つの賞に輝いた是枝監督

――ヴェネチア映画祭には、デビュー作の『幻の光』(95)、『三度目の殺人』(17)、『真実』(19)と、コンペティション参加も4度目となりました。

「正直に話してもいいと思いますが、僕は、『ルックバック』はコンペ部門に入るタイプの作品ではないなと思ってたんですよ。アルベルト(・バルベラ/ヴェネチア映画祭ディレクター)からいただいたメールに、『とても気に入った』というコメントがあって、選んでいただけるのであればということで参加しました。ヴェネチアに来て公式上映前のレッドカーペットで『こんな小さな作品に光を当てていただいてありがとうございました』とご挨拶したんですが、彼が『全然小さくないよ』って言ってくれました。『全然小さくない、描いてるものは小さくない』と。そう言っていただいて、すごくうれしかった。アルベルトは、いつも僕がやろうとしていることを作り手の目線で見てくれていて、監督と映画祭ディレクターというよりも、僕は信頼できる友人のような相手だと思っているので、うれしかったですね」

主演を務めた出口夏樹と蒔田彩珠 [c]Kazuko Wakayama
主演を務めた出口夏樹と蒔田彩珠 [c]Kazuko Wakayama

――是枝監督ご自身も「moviegoer(映画館で映画を観るひと)」の一人として、どんな想いで観客に作品を届けていらっしゃいますか?劇場で見てほしいという気持ちで映画を作られていると、是枝監督のお言葉から常々感じています。

「間違いなく、そうですね。今回ヴェネチアで上映して、観客が無言になる瞬間、すごいドキドキしたんですよ。逆に音がないものだから、客席が動かなくなるんです。お客さんの頭が動かなくなる。それを体感すると、映画を観ているみんなの意識が、スクリーンの中の2人に集中しているんだなっていうのが、如実にわかるんですよ。それをあの人数(パラッツォ・デル・シネマのSala Grandeの収容人数は1,032席)で共有しているのが、やはりすごいことだなぁと感じました。上映でのお客さんの反応もそうだし、上映翌日に取材に来たイタリアのメディアの方々が、ジャーナリストとか評論家ではなくて、いち映画ファンとして良かったって言ってくれてる感じが、今作には強く含まれている気がしました」

【写真を見る】是枝監督が丁寧に書いてくれた「I’m a moviegoer」メッセージ
【写真を見る】是枝監督が丁寧に書いてくれた「I’m a moviegoer」メッセージ

――この度、「I'm a moviegoer」で直筆サインが入ったTシャツが発売されますが、どんな気分でしょうか?

「恥ずかしいですよ(笑)。絵が描けるならば絵を描きますけど、僕は絵も描けないので。買っていただけて、何らかのお役に立てるのであればという感じですね」

取材・文/平井伊都子

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ