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有村架純の“お仕事現場”を密着レポート! 最新作『さとこはいつも』沖田修一監督と共に振り返る制作の裏側

  • 2026.9.19

『南極料理人』(09)をはじめ、『横道世之介』(12)や『さかなのこ』(22)など映画ファンのみならず業界内からも愛される作品を数々手掛けてきた沖田修一監督。長編デビュー20周年という節目となる今年、沖田監督が贈るオリジナル最新作『さとこはいつも』が9月18日より公開中だ。これまでユニークな登場人物たちを、あたたかい眼差しで捉えてきた沖田監督が本作で描きだすのは、“3人のさとこ”たちの物語だ。初めての恋を経験し、妄想が止まらない中学3年生の中井聡子(姫野花春)。6年に及ぶ不倫に終わりが見え始め、仕事もスランプに陥っている映画配給会社勤務の西田沙都子(有村架純)。20年に及ぶお弁当作りを卒業し、忘れかけていた夢に目覚める飯島里子(石田ひかり)。年齢も悩みも違う“さとこ”たちが「自分の物語」を書き始めた時、彼女たちの人生が少しずつ交わっていく。

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2025年6月、MOVIE WALKER PRESS編集部が銀座にある某ビルで行われた撮影現場へ足を運ぶと、そこには作品の世界観そのものを思わせるような、あたたかく遊び心の詰まった空間が広がっていた。細部にまでこだわりが宿ったセットや、現場の和やかな空気感が伝わるやり取りの様子を、主人公の一人を演じた有村と沖田監督によるインタビューとあわせてお届けする。

映画配給会社を再現した“本物感”あふれるセットがお出迎え!

この日撮影されたのは、有村扮する沙都子が働く映画配給会社「PHOENIX(フェニックス)」で、新作映画の宣伝会議が行われるシーン。指定されたビルの5階でエレベーターを降りると、そこにはごく自然なかたちでオフィスが存在していた。知らずに訪れたら、本物の会社だと勘違いしてしまいそうなエントランスだが、どうやらもうここから映画のセットは始まっているらしい。

輝く銀色のプレートに「PHOENIX」という社名が掲げられ、棚にはいくつもの映画賞のトロフィーが飾られている。壁にずらりと並ぶのは外国映画のポスターの数々。1970年代風のアメリカン・ロードムービー、アンニュイでお洒落な空気のフレンチ・シネマ、ジャッロ風のイタリアン・ホラーなどがある。おそらく過去に配給してきた作品という設定なのだろう。思わず「これ観たことあるかも?」と記憶を辿りそうになるが、もちろんどれも架空の映画だ(ただし、本作の配給会社であるハピネットファントム・スタジオの過去作もいくつか紛れ込んでいる!)。ミニシアター系の雰囲気満点で、本当に老舗の配給会社を訪れたかのようなワクワク感がこみあげてくる。

沙都子と村本が出会うのが、映画配給会社「PHOENIX」のエントランス [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会
沙都子と村本が出会うのが、映画配給会社「PHOENIX」のエントランス [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会

執務室の中に足を踏み入れると、ますますリアルなオフィスが広がっていた。社員数は30人くらいだろうか、整然と業務机や椅子が配置されている。それぞれのデスクには、まるでついさっきまで誰かが仕事をしていたかのようにファイルや事務用品が置かれ、ふせんが貼ってあったりする。窓際のほうに目をやると、ラックに映画のロゴTシャツがかかっているのを発見。これはさっき玄関に貼ってあったイタリアン・ホラー『テラーナイト』のグッズらしい。キャップやミニうちわ、映画館の物販コーナーなどでよく見かけるポップなども置いてある。足元には、茶紙で梱包されたB5サイズのチラシが所狭しと積んである。さらに、机に置かれた備品の封筒に「PHOENIX」というロゴが入っていることにも驚いた。細かいところまで映画会社らしい風景が再現されている。

その後、宣伝スタッフから「実はもともと映像制作会社だったオフィスを借りて、美術部が撮影用に作り込んでいったんです」と聞いて、この“本物感”にも納得がいった。それなら、本棚に映画雑誌やDVDのパッケージが並んでいたりするのは実際の備品だったりする?と眺めてみたところ、よく見ると一番目立つ場所にはしっかり沖田監督の作品が置かれていて、やはり美術部の意図とこだわりが細部にまで行き届いているのがわかる。いやはや、すごいお仕事だ。遊び心たっぷりで、完成した作品に映り込んでいる小道具に注目して観るのも楽しそう!

そうしているうちに撮影クルーの準備が整ったようで、キャストたちが続々とオフィスに入ってくる。これからのシーンの撮影は奥にある会議室で行われるようだ。部屋の中には、コの字型に長机が並べられ、社員のノートパソコンやタンブラーなどがセットされている。薄暗い照明のもと、プロジェクターから投影された企画書がスクリーンに浮かび上がっている。

全員揃ったところで、リハーサルがスタート。まずは沖田監督から俳優たちへ、今回のシーンについてざっとおさらいが行われた。このシーンでは、社長や社員あわせて10名が参加し、新作映画『2万ウォンのプレイボール』の宣伝会議が行われる。宣伝プロデューサーとしてプレゼンを務めるのが、有村演じる沙都子だ。

映画配給会社に勤める沙都子を演じた有村架純 [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会
映画配給会社に勤める沙都子を演じた有村架純 [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会

この日で撮影5日目となる有村は、沖田監督の説明を受けながら、プレゼンを進めていく流れを確認する。30代の中堅社員ということで落ち着きはありつつも、意志の強さや確かな情熱を感じる口調だ。一通りプレゼンが終わると、次に川瀬陽太演じる松永社長の声かけでポスターデザインのラフを少し離れた場所から眺める展開に移り、全員立ち上がって部屋の端に移動する。最初は遠目に見て、それから近づいて見る。こういった俳優たちの動きや表情を、沖田監督は色々な位置へ歩き回りながらその目で確かめ、カメラポジションを探っていく。腰をかがめてみたり、横にずれて膝をついてみたり。口元には笑みが浮かんでおり、もしかするとこのコメディライクなシーンを誰よりも楽しんでいるのかもしれないと思える。

沖田監督、芹澤撮影監督らによる細やかな微調整

今作の撮影を務めるのは、第79回カンヌ国際映画祭でピエール・アンジェニュー・トリビュート賞を受賞したことも記憶に新しい名撮影監督の芦澤明子である。沖田監督と芹澤はこれまでも『南極料理人』、『モヒカン故郷に帰る』(16)、『子供はわかってあげない』(21)などで何度もタッグを組んできた。俳優たちが動きながらあれこれと演技を提案する傍ら、沖田監督と芹澤、スタッフたちはカメラを覗きながら「この画はいい」「意外とこの角度もありだね」「この時3人が微妙ないい表情してましたねえ」「ヨリも撮っておきましょうか」「なんか映したいものいっぱいあるなあ」と話し合い、手早く本番で撮影するショットを決定していく。

さて、このシーンで一つの見どころとなるのは、沙都子の出したキャッチコピー案に対して若手の後輩である北島(中井友望)が意見する場面。沙都子は映画を目標の興行収入に届かせるべく、わかりやすいエンタメ感動作のトーンでコピーを書いたが、後輩は「なんか普通になっちゃったっていうか…。わざとダサくしてるっていうか…」と反対意見をぶつけてくる。表情が固くなり、北島に厳しい言葉をかける沙都子。場には気まずい空気が流れる。

不倫相手の村本に、仕事について意見を求める沙都子 [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会
不倫相手の村本に、仕事について意見を求める沙都子 [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会

これらの台詞のニュアンスを探るため、何度も沖田監督による微調整が行われる。「これはお洒落な人たちの戦争だと思ってるんです。興行と直結するから全員本気なんです」「あ、戦争は言い過ぎたかもしれない。もうちょっと和やかにやってもらって…(笑)」「社長って、若い人の意見を聞きたくて話を振る時があるというか」「もう少し強気っていうか反抗的でもいいかなって」と様々なニュアンスを伝えながら、幾度もパターンを試していく。また、同席していた本物の宣伝プロデューサーに「どうですか、もっと強く言ったりするものですか?」と質問する一幕も。聞けば、この作品のリサーチのために、配給・宣伝を務めるハピネットファントム・スタジオの宣伝会議に立ち合って見学もしたのだとか。最終的に、この台詞にはやや弱気なトーンが採用されることになったようだ。

沖田作品のもつ雰囲気に通ずるような、温かな現場

リハーサル中、社員を演じるキャストたちには細かく設定も伝えられていく。「この2人は親友なんで。同じ映画を観に行ったりね」「わー、俺らそうなんだ!」「(劇中に登場する映画の)主演俳優が出ているドラマは、この女子社員は観てるけど、〇〇さんは観てないだろうね」「それわかるなあ、アハハ」といった和気あいあいとした会話が交わされ、キャスト間の雰囲気も、次第に長年一緒に働く同僚のように馴染んでいくのが伝わってくる。

ちなみに、この時使われた『2万ウォンのプレイボール』の宣伝企画書は、本作の宣伝プロデューサーが作ったものだそう。ターゲットやコピー案などが細かく書き込まれていて、どうりで本物感がある。また、ポスタービジュアルは『さとこはいつも』の宣伝デザインを手掛けるデザイナーが監修し、宣材写真を1日がかりで撮影したとのこと。本編で映った時はぜひチェックしたいポイントだ。

そしていよいよ本番。会議室が狭いため必要なスタッフ以外は室外へ出て、取材班は隣室のモニターを後方から見学する。室内の緊張感はモニター越しにもありありと伝わってきて、誰もが固唾を飲んで見守る。何度もテイクを重ね、10カット目まで進んでいく。会議室には熱気がこもるなか、決して笑顔は絶やさない沖田監督。最終的にこのシーンは12~13カットまで撮影されたようだ。最終カットを撮り終えて出てきた監督やキャスト陣は、興奮交じりの楽しそうな表情で、このような現場の雰囲気づくりこそが沖田作品の人間味あふれるコメディを生み出す秘訣なのかもしれない、とじんわり感動が胸に広がった。

この日の撮影がすべて終了したあと、有村と沖田監督が取材に応じてくれた。沖田監督の作品に出演するのは本作が初となる有村は、どのような想いで撮影に臨んでいるのか。そして、単独脚本によるオリジナル作品となる『さとこはいつも』を手掛けた沖田監督は、どんなこだわりをもって作品と向き合ったのか。作品誕生の経緯やキャラクター設定の意図、役柄へのアプローチにいたるまで、たっぷりと語ってくれた。

「登場人物たちのことをすごく好きになるんです」(有村)

―― 有村さんは沖田監督と今回初めての仕事だと思いますが、オファーを受けた時の気持ちや、元々沖田監督へ持っていたイメージを教えてください。

有村「沖田監督の作品は以前から拝見していて、『キツツキと雨』や『横道世之介』、『さかなのこ』など、おもしろくて大好きでした。登場人物たちを魅力的によりよく映し出してくれている印象があって、みんなのことをすごく好きになるんです。沖田さんご自身は、心が非常に丸っこいというか…小さい頃に泥団子をピッカピカに磨くことにロマンを感じていそうな少年心や、好奇心をお持ちな方という印象があります。まさか自分が沖田組に参加できるとは思っていなかったので、すごくうれしかったです」

―― 実際に撮影が始まって、イメージとの違いはありましたか?

有村「沖田さんが持つあたたかさ、楽しむ気持ちが現場を前に進めてくれているのを感じます。監督自身がとても物腰柔らかく、現場を包み込んでくれるような雰囲気があるので、スタッフさんたちもとても和やかで、ピリピリした空気が一切ない。監督が毎日楽しんで現場に立っている空気がみんなに伝わっているのかなと思いました」

―― それは沖田監督流の演出方法の一つだったりもするのでしょうか?

有村「そうですね、クスクス笑いながらリハーサルを見てくださったりとか。それぞれのキャラクターについて『こういう風に演じてください』ということは一切おっしゃらないんですけど、自分たち俳優部が持ってくる考えや案を快く受け取って、楽しんでくださるんです。だからこちらもとても心地よく、テストの段階からいろんなことを試しながら、楽しんで表現していけたらいいなと思って参加していますね」

「宣伝の方々の、“言葉に対する敏感さ”や独特の世界観みたいなものがおもしろい」(沖田)

―― 沖田監督に伺います。本作はなにかを生み出すきっかけの話であり、3人の女性の話ですが、大元のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

沖田「昔すぎていろいろ忘れちゃったんですけど(笑)。物語を書こうとする女性の話をやりたいなと、ずっと模索していました。三世代の話にしたのは、高校生くらいの時に観た『ビフォア・ザ・レイン』という映画の影響です。映画のラストでまた冒頭に戻ったりして、脈絡があるようでない、みたいな構成がおもしろくて。それで、三世代なんだけれども一人の女性に見えてくるというのはどうだろう、と発想しました。そこに『昔書いて、どこかにいってしまった物語を探す』という、誰にでもありそうなモチーフを加えて映画にしたらどうかな、とイメージを膨らませていきました。プロデューサーの方に長い間話を聞いてもらって、やっとこの形になったので、こうして映画化できてよかったです」

沖田監督が影響を受けたミルチョ・マンチェフスキー監督作『ビフォア・ザ・レイン』 [c]Everett Collection/AFLO
沖田監督が影響を受けたミルチョ・マンチェフスキー監督作『ビフォア・ザ・レイン』 [c]Everett Collection/AFLO

―― 有村さん演じる沙都子を映画配給会社で働いている設定にした理由は?

沖田「言葉にまつわる話にはしたかったのですが、ライターだと、ちょっと直接的すぎるなと思って。周りで宣伝の方々の話を聞いたりするなかで、彼らの“言葉に対する敏感さ”や独特の世界観みたいなものがおもしろいと思ったんです。自分で映画の話をするのはどうかとも思ったんですが…近くてもまあいいや、と開き直って(笑)。自分が実際に会ったことのある人たちの話なので、それも魅力的だなと思いました」

「沙都子が成長し、新しいスタートラインに立つ物語」(有村)

―― 有村さんが沙都子という人物について観客に説明するとしたら、どういう女性ですか?

沙都子は、村本との不倫の日々を物語として綴り始める [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会
沙都子は、村本との不倫の日々を物語として綴り始める [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会

有村「私なりの解釈ですが、30代半ばでいわゆる中堅どころになり、責任も覚悟もしっかり持ちながら、仕事も難なくこなせるという年齢。社会人になりたてでがむしゃらに働いていた20代を経て、自分なりの回避術やマニュアルも身につけたことで落ち着きを得た一方で、『環境に慣れてきて、日常がなあなあになってきた』と感じる部分もあるんじゃないかと思います。

そんななか、6年続けている不倫が、自分にとって一つの新しい刺激になっていて。踏み込んではいけない扉を開けたら、仕事においてもなにか新しい景色が見えるかもしれない。そう思って踏み出した結果、ずるずると進んですべてが曖昧な状態になっている。今作は、そんな沙都子が心やプライドをポキッと折られるような出来事に出会うことで成長し、新しいスタートラインに立つ物語だと思っています」

―― 配給会社の宣伝部という内幕ものは、映画ファンも楽しく観られる題材だなと思いました。リサーチや役作りは、身の回りの人に聞いたり、実際にお会いした方をイメージしながら準備されたのでしょうか?

沖田「身近な宣伝の方に、台本を書くなかでわからないことがあったら『ちょっと悩んでいて…こういう時ってどうなんですか?』と聞いたりしました。だけど、人によって違ったりするので、半分くらい参考にしつつ(笑)。でも、“韓国ドラマ好き”とか、働いてる30代女性の“あるある”みたいなものはある気がして、そういう方の話を聞くと結構おもしろいなと思いました」

劇中の韓国ドラマ「あの日、私たちが夢見たものは」にはまさかの青木柚が出演! [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会
劇中の韓国ドラマ「あの日、私たちが夢見たものは」にはまさかの青木柚が出演! [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会

有村「沙都子の葛藤を掘り下げていきつつ 、短い物語の中で、 どれだけ説得力を持たせられるかはしっかり考えていました。宣伝の方々に関しては、仕事柄普段からお会いする機会も多いですし、取材日に朝イチで現場に入ると、宣伝部のみなさんが机を囲んでパソコンを前に会議をしているような姿も見てきました。取材初日には、『こういうことを宣伝文句として伝えていきたい。でもこのワードはまだ言わないでほしい』といった感じで、段取りをご説明いただいたうえで、取材を受けることがあって。その裏には綿密な会議や話し合いがあると思うので、その苦労や大変さをひしひしと感じながら演じています」

「オリジナルは周りの人たちを押しのけてでもやってやろう、という強い気持ちがありました」(沖田)

――『2万ウォンのプレイボール』のコピー「あの人が教えてくれたこと」は、本作にとっても重要な言葉のように思われます。

沖田「僕は、吉田羊さんが演じている寺尾先生という役が多分ずっとこの映画で尾を引いているんじゃないかと思っていて。というのも、14、15歳くらいの時にちょっとした人生のきっかけみたいなものを得る、という経験は誰しもある気がしていて。誰かが書いたものを読んで自分も書いてみる。今度はほかの誰かが自分が書いたものを読んで…と繰り返されていくので、『ビフォア・ザ・レイン』が堂々巡りしていたのと同じような意味合いで、そういうニュアンスを表すコピーがあったらいいなと思ってつけました」

ミステリアスな国語教師、寺尾先生を演じた吉田羊 [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会
ミステリアスな国語教師、寺尾先生を演じた吉田羊 [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会

―― 沖田監督の作品は、原作があったり、実在のモデルがいることも多いですが、今回は単独脚本のオリジナル作品ということで、特別なこだわりや想いはありますでしょうか。

沖田「ありますね。『ああ、もうあと何本撮れるのかわからないから、本当やんなきゃ』と思って。オリジナルについては周りの人たちを押しのけてでもやってやろう、という強い気持ちがありました。アイデア自体はずいぶん前からあったのですが、ある日お風呂に入っている時に、『そうか、書けなかった物語や生まれてこなかった物語についての話を書けばいいんだ』と気づいて書き出しました。『物語になりそうでならない』あるいは『自分でも書けそう』という感覚は誰もが感じたことがあるんじゃないかなと思っていて。そんな難しく考えなくても、“なにかを始める”ことについての映画かなと思っています」

―― 有村さんをキャストに選んだ理由を教えていただけますか?

沖田「すぐに『似合うな』と思いました。今回の役は、3人のさとこのうちの1人。それでも引き受けてくれるというのは、この作品自体に参加したいと思ってくれているということだと思うので、すごくうれしかったんです。現場で有村さんが一生懸命自分なりに考えて演じている姿には、すごく説得力があります。なにも言わないわけにもいかないけれど、本当に全部やってくれているぐらいだから、あとは有村さんが現場で動くのを見て『はい!』と言うぐらいのもので。30代女性のリアルを体現して、無理なく演じてくださっているのは、見ていて楽しいですね」

―― 演出において、細かい指示を出されない理由はなんでしょうか?

【写真を見る】「自由に俳優さんが動ける場所を作るのが一番」温かなまなざしで語る沖田監督 [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会
【写真を見る】「自由に俳優さんが動ける場所を作るのが一番」温かなまなざしで語る沖田監督 [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会

沖田「長年映画を撮ってきて、俳優さんの領分と監督の領分をどうするのかは、人によって探り探りやっています。自分がどうしたいかという希望だけを押し付けてもダメなんだなっていうことがだんだんわかってきて。どこまで俳優さんが堂々と演じられるかは生理的な問題だから、まず現場で見てから話をしていくのがいいんじゃないかと思っています。自由に俳優さんが動ける場所を作るのが一番なので、演技について先に決めてしまうのはもったいないなと。希望は伝えますが、僕はたいしてうまくないので、俳優さんに助けられながら作っていくのが一番合ってます(笑)」

―― 有村さんに、沙都子という人物について説明はされたのでしょうか?

沖田「少しだけ話しました。15歳とか55歳の“書く理由”というのはすごくピュアで、ちょっと綺麗すぎるなと思ってはいるんです。不倫のことを書く、というのは30代の女性にしかできない表現だとは思ったので、『大人にしかできない部分を担ってほしい』ということは伝えました」

6年に及ぶ村本との不倫は、どのような結末を迎えるのか…? [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会
6年に及ぶ村本との不倫は、どのような結末を迎えるのか…? [c]2026 「さとこはいつも」製作委員会

「今回の企画は、佐々木(史朗)さんが残してくださったものの延長線上で成立している」(沖田)

―― 本作では、一作の中で世代の違う3人の主人公を描くなど新たな挑戦もありますよね。

沖田「そうですね、どうなるか僕もよくわからないでやっているので、おもしろいなと思っています」

―― 今回、オフィスシロウズが製作に入っていますが、故・佐々木史朗さんとの本作にまつわる思い出があればお聞かせいただけますか。

沖田「この映画の脚本を書いて相談している最中に亡くなられてしまったので…。『佐々木さんだったら、完成した台本を読んでなんて言ったかな、どう読み取ったんだろうな』と考えたりします。企画の段階で少しアイデアも言ってくださったりしていて。『55歳が不倫してたほうがいいんじゃないか』とか、いろんなことを言ってくださいました(笑)。僕は10代の頃に佐々木さんの名前がある映画ばっかり観ていたので。映画をやりたいなと思ったきっかけの一つでもある『家族ゲーム』のプロデューサーは佐々木さんですからね。だから今回のオリジナル企画は、そんな佐々木さんが残してくださったものの延長線上で成立しているんだと思います。」

取材・文/編集部

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