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「一番上まで登れたよ」何度も母親を呼んだ男の子。だが、男の子が欲しかったのはほめ言葉より母親の視線だった

  • 2026.9.18

隣のベンチで、膝の上の画面が光っていた

日曜の午後、娘を連れて広い公園へ出かけた。遊具の見えるベンチに腰を下ろし、すべり台の列に並ぶ小さな背中を目で追う。

日差しが強く、ベンチの板はほんのり温かかった。

隣のベンチには、日傘を肩にかけた女性が座っていた。膝の上にはパソコンが開かれ、横には書類をとじたファイルが何冊か重ねてある。

休日なのに仕事をしているのだろうか。そう思っていると、遊具のいちばん高い台から弾んだ声が降ってきた。

「ママ!一番上まで登れたよ!」

女性は画面から目を離さないまま、手を動かしながら答えた。

「うん、すごいね。ちょっと待っててね」

少しして、同じ声がもう一度響いた。台の上では、小さな男の子が柵に両手をかけてこちらを見ている。

「ママ、見て!一番上まで登れたよ!」

「うん、聞こえてるよ。もうちょっとだけ待ってね」

女性はそう返したものの、視線はまだ画面に向いたままだった。

思わず横顔を見ると、唇を結んだ表情には余裕がなさそうだった。

何か急ぎの作業なのかもしれない。私はそれ以上気にしないようにして、娘のほうへ目を戻した。

3度目の返事のあと、画面がぱたんと閉じた

すべり台から戻ってきた娘が、私の袖を引いた。

「ママ、あの子ずっと上にいるね」

「うん。お母さんに見てほしいんだろうね」

男の子は柵を握ったまま、今度は少し小さな声で母親を呼んだ。

「ママ…」

女性はまた画面を見たまま、すぐに返事をした。

「うん、ここにいるよ。ちょっと待ってね」

3度目の返事だった。

言い終えたところで、女性の指がキーの上で止まった。しばらくして視線が画面から遊具の上へゆっくり持ち上がる。

女性は短く息を吐くと、パソコンを両手で閉じた。

ファイルの上にパソコンを重ね、日傘をたたんで立ち上がる。そのまま遊具の下まで歩いていくと、女性は台を見上げた。

「ほんとだ。そんな高いところまで登れたの?すごいね」

男の子の顔が、ぱっと明るくなった。

「うん!ここまで一人で登ったんだよ!」

柵から片手を離して大きく手を振ると、女性も笑いながら手を振り返した。

近くで砂場を見守っていた年配の男性が、その様子を見て目を細めていた。娘も私の隣で、つられるように小さく手を振っていた。

夕方、帰り支度をしていると、男の子と手をつないだ女性がベンチの前を通りかかった。

パソコンとファイルは片づけられていて、女性は私と目が合うと、小さく会釈をしていった。

その晩、夫に公園で見たことを話した。

「今日ね、遊具の上から『一番上まで登れたよ』って、男の子が2回もお母さんを呼んでたの」

「へえ。それで、お母さんは?」

「最初はパソコンを見たままだったけど、最後は閉じて、ちゃんと遊具の下まで見に行ってたよ」

「そっか。見てほしかったんだろうな」

「うん。お母さんが来たとき、すごくうれしそうな顔してた」

仕事をしなければならない事情もあったのだと思う。それでも、画面を閉じて男の子のほうへ歩いていったあの瞬間が、なぜか今も心に残っている。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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