1. トップ
  2. エピソード
  3. 「もう放っておいてくれ」200万円の借金を隠していた彼。ATMまで後を追って知ったこと

「もう放っておいてくれ」200万円の借金を隠していた彼。ATMまで後を追って知ったこと

  • 2026.9.16

二人暮らしの話だけが、いつも先送りになった

二十代の終わりごろ、結婚を前提に付き合っていた人がいた。

週の半分は私の部屋で過ごし、歯ブラシも部屋着も置いてあった。

それなのに、二人で部屋を借りようという話だけが、いつまでも形にならなかった。

不動産屋の前を通ると、彼はいつも半歩うしろを歩いた。間取り図を見せても、どこか上の空だった。

「ねえ、このあたりなら通勤もそんなに変わらないよね」

「うん…まあ、そうだね」

「今度の休み、見に行ってみない?」

「今月はちょっとやめとこう。来月なら、ちゃんと考えるから」

「それ、先月も言ってたよ」

そう言うと、彼は困ったように眉を寄せた。

「分かってるよ。でも今は、本当にちょっと時期が悪いんだって」

「何が悪いの?」

「…いろいろだよ」

それ以上聞いても、彼は話そうとしなかった。

その夜も、彼は突然財布だけを持って玄関へ向かった。上着も羽織らず、行き先も言わない。

「どこ行くの?」

「ちょっとそこまで」

「こんな時間に?」

「すぐ戻るから」

妙に気になって、私はサンダルをつっかけた。少し間をあけて後ろを歩くと、彼が入っていったのは通りの角にあるATMだった。

ガラス越しに、封筒から札を出して数え直している背中が見えた。彼はそれを機械に入れ、出てきた明細を見つめたまま、しばらく動かなかった。

自動ドアが開き、目が合った。

彼の顔が一瞬でこわばった。

「……何してるの?」

私が聞くと、彼は目をそらした。

「なんで来たんだよ」

「ごめん。でも、ずっと変だったから。何のお金を入れてたの?」

「別にいいだろ」

「よくないよ。結婚の話も、部屋の話もずっと避けてるじゃん。何かあるなら言ってよ」

彼はしばらく黙っていた。

明細を見せてもらって、分かったこと

私の部屋へ戻ってからも、彼はなかなか座ろうとしなかった。玄関の近くに立ったまま、ようやく口を開いた。

「……借金がある」

「借金?」

「何年か前に事故を起こして。修理代とか、相手への支払いとかで足りなくなって、200万借りた」

初めて聞く話だった。

「200万…。今も返してるの?」

「返してるよ。毎月ちゃんと払ってる」

少し強い口調だった。

「責めてるわけじゃないよ。ただ、あとどのくらい残ってるの?」

彼は答えなかった。

「ねえ。だいたいでいいから」

「…思ってたより、減ってない」

「明細、見せてもらってもいい?」

少し迷ったあと、彼はさっきの紙をテーブルに置いた。

元金と利息が分かれて印字されていた。私は詳しい仕組みまでは分からなかったが、何年か返していると聞いた割には、残っている額が大きく見えた。

「このペースで、あとどれくらいかかるの?」

「…ちゃんとは分からない」

「一回、ちゃんと整理したほうがいいんじゃない?」

「いいよ。自分でやるから」

私は紙とペンを出した。

「毎月いくら返してて、生活費がいくらかかってるのか。それだけでも一緒に見ようよ」

「だから、いいって」

「よくないよ。このまま一緒に暮らすなら、お金のことを何も知らないままにはできないよ」

「だから、一緒に暮らす話は今じゃないって言ってるだろ」

「じゃあ、いつなの?」

思わず声が大きくなった。

「私はずっと待ってたよ。来月、来月って言われて。それで今日まで、何も知らなかったんだよ」

彼は唇をかんで、視線を落とした。

「事故のことも借金のことも、言いにくかったのは分かる。でも、隠されたままのほうが私はつらいよ」

しばらくして、彼が低い声で言った。

「……もう放っておいてくれ」

「え?」

「俺の問題なんだよ。自分で返すから」

「でも、結婚するつもりだったんでしょ?」

「だからって、全部一緒に抱えなくていいだろ」

「私はそう思えないよ」

彼は何も答えなかった。

週末、私は友人に一部始終を話した。

「借金があることより、何年も黙ってたことのほうが引っかかってるんだよね」

そう言うと、友人は少し考えてから聞いた。

「それで、この先一緒に暮らせそう?」

私はすぐには答えられなかった。

「…今は、ちょっと怖いかも」

口にした瞬間、自分が何に迷っていたのか分かった気がした。

数日後、私は彼に渡していた自分の部屋の合鍵を返してもらった。彼が置いていた服や日用品も袋にまとめて渡した。

「借金があるから別れたいんじゃない」

彼は黙ったまま袋を受け取った。

「困ったときに何も話してもらえないままじゃ、私は一緒に暮らせない」

彼はしばらく黙っていたが、やがて小さく言った。

「……分かった」

それ以上、言葉は続かなかった。

彼は袋を提げて玄関を出た。ドアが閉まったあと、私はしばらくその場から動けなかった。

200万円という額ももちろん重かった。でも私が最後まで引っかかっていたのは、お金そのものではなかった。結婚を考えていた相手が、一人で抱えたまま何も話そうとしなかったことだった。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ