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エルトン・ジョン「私はATMじゃない」。ヘンリー王子の全面敗訴で巨額費用は誰が払う?

  • 2026.9.28
Dan Kitwood / Getty Images

英大衆紙『デイリー・メール』発行元(ANL)とのプライバシー訴訟で全面敗訴となり、約20億円の暫定支払い命令を突きつけられたヘンリー王子。エルトン・ジョンによる肩代わり説の浮上と拒絶報道など波紋が広がるなか、王子が直面する巨額費用の行方と全面敗訴に至った背景を分かりやすく解説する。

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なぜヘンリー王子は英タブロイド紙を訴えたのか

2022年10月、ヘンリー王子は大衆紙『デイリー・メール』および『メール・オン・サンデー』の発行元であるアソシエイテッド・ニュースペーパーズ社(ANL)を相手取り、ロンドン高等法院にプライバシー侵害の集団訴訟を起こした。原告団には王子のほか、歌手のエルトン・ジョンとその夫デヴィッド・ファーニッシュ、俳優のエリザベス・ハーレイとサディ・フロスト、人種差別反対活動家のドリーン・ローレンス男爵夫人、元自由民主党議員サイモン・ヒューズの計7人が名を連ねた。1993年から2018年にかけて行われたとされる自宅や車への盗聴器設置、通話の傍受、銀行口座や医療記録の不正取得といった、違法な情報収集の手法を法廷で追究することを目的としていた。

Anwar Hussein / Getty Images

法廷に提出された証言録取書の中で、ヘンリー王子は提訴に至った動機を率直に明かしている。
1997年に母ダイアナ元妃を亡くして以来、王子はパパラッチや過熱取材に対して長年強い疑問を抱き続けていた。しかし、英国王室の一員として「不平を言わず、弁解もしない(never complain, never explain)」という基本方針への従属を求められ、メディアの過度な関心を受け入れることが公務の前提とされていたため、個人の意思で法的な抗議の声を上げることが許されない環境にあったと王子は主張している。

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状況が変わる大きなきっかけとなったのが、メーガン妃との出会いだった。妃に対する連日の過熱報道やプライバシー侵害に対して王室側が法的措置を取らない姿勢を見て、王子は組織の対応に強い不信感を抱くようになる。さらに、過去に自身が電話盗聴のターゲットにされていた事実を王室側から知らされていなかった疑いも浮上した。

2020年に王室を離脱して独自の法務チームを組織し、「王室というバブルが弾けた」ことで、初めて自身に向けられていた違法取材の実態を把握したと陳述書で明かしている。

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なぜ全97件の申し立ては棄却されたのか

2026年1月から3月末にかけて、計46日間にわたりロンドン高等法院で本案審理が行われた。

当時米国カリフォルニア州を拠点としていたヘンリー王子は、この裁判のために英国へと一時帰国。自ら法廷の証言台に立ち、かつての交際相手や家族に関する報道によってプライバシーが侵害された経緯を自らの言葉で証言した。法廷には著名な編集者やジャーナリストを含む52人もの証人が出廷し、英メディア界を揺るがす異例の対決となった。

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しかし同年7月7日、マシュー・ニックリン判事は436ページに及ぶ判決文を公表し、王子ら原告7人が申し立てた全97件の違法行為の訴えをすべて棄却した。裁判所は、原告側の主張が「推測や推論に過度に依存しており、客観的な証拠が不足している」と指摘。問題視された記事の多くについて、知人や関係者からの情報提供、広報担当者への正規取材といった合法的な取材ルートで得られた可能性を認め、ANL側に違法行為があったとは断定できないと結論づけた。

2023年のミラー紙(MGN)への勝訴や、2025年に果たした『ザ・サン』発行元(NGN)との巨額和解を経て挑んだこの法廷闘争での全面敗訴は、王子のメディア戦略において大きな挫折と受け止められている。ちょうどチャリティイベント出席のためロンドンに滞在していた王子は、共同原告のドリーン・ローレンス男爵夫人らとともに声明を発表。「不法行為の証拠が不十分とされてしまえば、正義をどう実現すればよいのか」と述べ、司法判断に対する深い失望を表明した。

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20億円の暫定支払い命令と、依然として未定の最終負担額

裁判での全面敗訴以上に世間の注目を集めたのが、判決直後に持ち上がった巨額の費用負担を巡る問題である。

2026年8月21日に行われた費用審理で、勝訴したANL側が裁判所に提示した自社の弁護費用は、なんと総額約3,450万ポンド(約70億円超)という破格の数字であった。費用がここまで跳ね上がった主な理由は、計46日間に及んだ審理の長さに加え、双方が英国屈指のトップ法廷弁護士を揃えたエリート法務チームを編成したことにある。さらに、原告側が申し立てた全97件の真偽を法廷で精査するため、52人もの証人出廷や膨大な社内資料の精査が行われ、人件費や調査コストが日ごとに積み重なっていった結果であった。

審理を担当した判事は、この請求額に「過剰で前例のない金額」と苦言を呈しつつも、費用に上限を設けることはしなかった。また、原告側が十分な証拠がないまま広範な訴えを続けた点を問題視し、通常よりも敗訴側に厳しい賠償基準である「インデムニティ・ベース(完全補償基準)」の適用を認めた。これは勝訴側が費用の妥当性を細かく証明しなくても請求が認められやすくなる仕組みで、王子ら原告側にとってはかなり手痛い判断となった。

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約20億円を支払ったという報道も

その結果として裁判所は、ヘンリー王子ら原告7人に対し、被告側への当面の費用として約954万ポンド(約20億円)を8月28日午後4時までに連帯して支払うよう命じた(暫定支払い命令)。公式な発表こそないものの、インディペンデント紙の独自取材によれば、原告団はこの期日前に支払いを完了したという。原告団は万が一に備えて約1,620万ポンド(約33億円)を上限とする訴訟費用保険に加入しており、暫定納付分(約20億円)はその枠内から拠出されたとみられている。

だが、本当にシビアな問題はここからだ。

被告側が求めている弁護費用総額(約70億円超)と保険の上限額との間には、依然として約1,800万ポンド(約37億円)もの開きが存在する。原告側が最終的に負担すべき総額はまだ確定しておらず、10月2日までの控訴手続きや、専門の費用裁判官による審理を経て決定される見通しだ。

もし司法判断を覆せず、最終決定額が保険の上限枠を超えてしまえば、数億円から十数億円規模にのぼる巨額の超過分を、原告団が自腹で分担せざるを得ない事態は避けられないと見られている。

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エルトン・ジョンが肩代わりしてくれるのか?

約20億円という暫定支払い命令にとどまらず、将来的に保険枠を超える莫大な費用負担が生じる可能性が浮上したことで、英米メディアは「原告7人の間で残された巨額の裁判費用をどう分担し合うのか」に注目が集まっている。

英国の法制度上、裁判所から課される支払い義務は原告全員への「連帯責任」であり、司法が当事者間の負担割合まで関与することはない。期日までに総額が納付されれば、誰がいくら支払っても法的には問題ない。

そこで当初、原告団を救う一手として囁かれたのが、共同原告の1人であるエルトン・ジョンによる資金支援説だった。推定資産4億5,000万ポンド(約900億円超)を誇る世界的アーティストのエルトンは、原告団の中で突出した財力を持つ。原告の中には、人種差別反対活動家など個人資産だけでは数億円単位の負担が現実的ではない人物も含まれているため、最も資力のあるエルトンが全体の支払いを支えてくれるのではないかという見方が浮上したのだ。

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エルトン・ジョン「私はATMじゃない」

ところで、エルトンとヘンリー王子の親交は、母ダイアナ元妃の時代から続く長い歴史を持つ。1997年の元妃の葬儀で追悼曲を捧げたエルトンは、王子の幼少期から成長を見守り、王室離脱の前後にわたりニースの別荘やプライベートジェットを提供するなど、生活面のみならず精神的な後ろ盾としても一家に寄り添ってきた。

だが、そうした過去の絆から囁かれた裁判費用の「肩代わり説」とは裏腹に、現実は決して甘くはないようだ。米著名ジャーナリストの取材や英各紙の報道では、エルトン側は王子への金銭援助をきっぱりと拒絶したと見られている。ある関係者が明かしたところでは、資金繰りの相談を持ちかけた王子に対し、エルトンは「私はATMでも銀行でもない」と突き放したという。さらにエルトンは2026年7月、王子が主宰する国際スポーツイベント「インビクタス・ゲーム」への寄付要請も見送っており、2人の関係には以前から距離が生じていたとされる。

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ヘンリー王子が直面するシビアな懐事情

エルトン・ジョンからの支援が見込めず、連帯責任を負う原告団の資力差を考慮すれば、数億円から十数億円規模に達する実質的な支払い負担の大部分は、ヘンリー王子自身が資産から捻出せざるを得ない見通しだ。

2020年の王室からの離脱以降、ヘンリー王子&メーガン妃夫妻はNetflixとの大型契約や王子の自伝『スペア』の世界的大ヒットにより莫大な収益を得てきた。しかし、カリフォルニアの豪邸維持費に加え、公的警護を失ったことによる民間の私設警備費といった膨大な固定支出に加え、メディア企業との大型契約が一巡した現在の夫妻にとって、今回の突発的な巨額出費は財政基盤を揺るがしかねない重荷と言えそうだ。

加えて、英国内務省を相手取った公的警護を巡る訴訟(RAVEC訴訟)など、並行して抱える他の法廷闘争の司法コストも膨らみ続ける一方。今回突きつけられた手痛い敗訴は、今後の英国との関わりや、これまでのライフスタイルのあり方を冷静に見つめ直す大きな契機となるに違いない。

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