1. トップ
  2. 「生きていく自信がない」19歳ひきこもり長女、発達障害で孤立…絶望の親子を救った社労士の“一手”

「生きていく自信がない」19歳ひきこもり長女、発達障害で孤立…絶望の親子を救った社労士の“一手”

  • 2026.9.15
障害年金の請求に必要な書類はひきこもっている本人だけでは作成が不可能なケースも珍しくない(画像はイメージ)
障害年金の請求に必要な書類はひきこもっている本人だけでは作成が不可能なケースも珍しくない(画像はイメージ)

筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

障害年金の請求に必要な書類の一つに「病歴・就労状況等申立書」というものがあります。そこには、発病から請求時点までの日常生活や就労の状況をできるだけ具体的にまとめることになっています。

浜田さんによると、発達障害がある場合、病歴・就労状況等申立書は幼少期からまとめるルールになっているといいます。ひきこもっている本人は幼少期の記憶がないこともあるため、親が当時の記憶をたどって作成していくケースが一般的です。浜田さんがある家族を例に解説します。

発達障害が原因でいじめに遭った長女

19歳の岡田奈緒美(仮名)さんには発達障害の一つである「自閉スペクトラム症」があり、9歳の時に児童精神科を受診。14歳の時に不登校となり、その後ひきこもりのような生活を続けてきました。

19歳になった現在も就労が難しいため、奈緒美さんは20歳になった時、障害基礎年金の請求をする予定です。

奈緒美さんの母親は「20歳になったときにすみやかに請求できるよう、今から準備をしておきたい」ということで、私のもとへ相談に訪れました。

奈緒美さんが20歳になるまでまだ時間はあるので、今できることは次の2つです。

・初診日の証明書である受診状況等証明書を児童精神科で作成してもらう。・病歴・就労状況等申立書を下書きしておく。

母親によると、児童精神科に当時のカルテが残っていることは確認できたとのことなので、受診状況等証明書を入手することはできます。あとは病歴・就労状況等申立書の下書きになります。

奈緒美さんには発達障害の一つである自閉スペクトラム症があるので、幼少期から請求時点の20歳までをまとめる必要があります。

発達障害は生まれつきの脳の障害とされており、生きづらさなどの特性は幼少期から現れることが多いとされています。そのため、病歴・就労状況等申立書は幼少期からまとめなければならないルールになっているのです。

そこまで話が進んだところ、母親は顔を曇らせました。

「幼少期から20歳までをまとめるとなると、かなりの分量になりますよね。一体どのようにすればよいのでしょうか」

「お嬢さまの場合、次のような区分けにするとよいでしょう」

・小学校入学前・小学校・中学校・中学卒業後から20歳時点まで

すると母親はさらに質問しました。

「それぞれ、どのようなことを書けばよいのでしょうか」

「自閉スペクトラム症により、日常生活や学生生活がどのくらい大変だったのかを具体的に記載していきます。学生生活でいうと、例えば『友人関係がうまく築けなかった』『勉強はこの科目が苦手だった』などです。お嬢さまご本人は幼少期の記憶があいまいでしょうから、お母さまが当時を振り返り、たたき台を作成するとよいでしょう。それを参考に病歴・就労状況等申立書を作成していくことになります」

私は話を続けました。

「お母さまだけで病歴・就労状況等申立書の作成をするのは大変でしょうから、お嬢さまの同意が得られれば、私も作成に協力することができます。ご安心ください」

「分かりました。長女にも事情を伝えてみます。その際はどうぞよろしくお願いいたします」

母親はそのように言いました。

わが子の人生を振り返ることで本人への理解が深まった

面談後、母親は奈緒美さんの幼少期から振り返りました。

奈緒美さんは小さい頃から対人関係が苦手で、親戚などの顔見知りの人でも、急に近づいてきたり話しかけられたりすると体が固まってしまい、言葉が出てきませんでした。

また、興味関心のない事柄は、まったく頭に入っていきませんでした。

小学校に進学すると勉強に興味関心が持てず、とても苦労しました。特に国語と社会が苦手でした。国語では「漢字が覚えられない」「文章を読んでいても途中を読み飛ばしてしまう」「筆者の意図をくみ取ることができない」といった状態で、問題を解こうとしても正解することができませんでした。社会では、歴史の出来事、地名や特産品などが覚えられませんでした。

また、体を動かすのも苦手で、体育では足が遅く、球技では「パスされたボールを受け取れない」「ボールを相手の取りやすいところに投げられない」といったことがありました。

宿題や次の日の授業の準備は自分でこなせず、いつも母親から「何でこんな簡単なこともできないの。もっとしっかりしなさい」と叱られていました。

会話のキャッチボールもうまくできず、小学校3年生の時にクラスの女子からいじめを受けるようになってしまいました。あまりのストレスから教室で嘔吐(おうと)してしまったこともあったそうです。

そのようなことが積み重なり、母親は担任に相談。担任の勧めで児童精神科を受診することにしました。

検査の結果、奈緒美さんは「自閉スペクトラム症」という診断を受けました。

その後は月に1回、療育を受けることになりました。そこでは、トランポリンや台に登るなどの体を使う運動や、文字を書いたり塗り絵をしたりする手先の動きの練習をしていました。

しかし、通院を続けていても奈緒美さんの状況は改善しなかったため、小学校を卒業すると同時に受診を中断してしまいました。

中学校に進学した奈緒美さんは、その日の授業で必要なものが判断できず、全教科の教材を毎日学校に持っていったそうです。

かばんにプリントもどんどん詰め込むため、すぐに中身がぐちゃぐちゃになってしまいます。そこで母親が時々かばんの整理をしていました。

中学生になっても自分で授業の準備や整理整頓ができず、あまりの情けなさから、母親はつい奈緒美さんにきつく当たってしまうのでした。

奈緒美さんは授業について行けず、中学校に嫌々通っていました。クラスメートからいじわるをされても拒否することもできませんでした。それらのストレスのせいか、よく腹痛を起こしていたそうです。

そしてとうとう我慢も限界を迎え、体調を崩し14歳の時に不登校となってしまいました。

「私は何をしてもうまくいかない。怒られてばかりでもう嫌! 周りも意地悪な人ばかりで、生きていく自信がない」

奈緒美さんは涙声で母親にそう言いました。あまりの剣幕に母親も言葉を失ってしまいました。

奈緒美さんはその後、自室からほとんど出てこない生活を送るようになってしまいました。

進学もできず、就労の見通しも立たなくなってしまった奈緒美さん。そこで母親は障害基礎年金の請求を考えるようになりました。

母親は奈緒美さんを説得。奈緒美さんが19歳の時に精神科を受診させることにしました。

現在は月に1回程度の受診。奈緒美さんはコミュニケーションに苦手意識があるため、受診には母親も同席。奈緒美さんの代わりに医師に事情を説明しています。

以上が、母親がざっと振り返った内容になります。

その後、奈緒美さんから同意が得られたので、私も協力して病歴・就労状況等申立書の下書きを完成させました。あとは20歳になって障害基礎年金の請求をする少し前に、20歳当時の状況をまとめるだけです。

下書きが完成したあと、母親は私に言いました。

「今回、幼少期から振り返ることで『長女もずっと苦しんできた』ということが改めて分かりました。当時は長女に対して憤りを感じてしまい、つい厳しく接してしまいましたが、これからは長女のためにできることをしていこうと思います」

今回の振り返りを通して、母親は奈緒美さんへの理解をより深めることができたようです。

母親の言葉からは、奈緒美さんの支えになるといった覚悟がうかがえました。

社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ