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映画『さとこはいつも』有村架純×沖田修一監督、新たなマスターピースに「撮影中、何回か泣きそうになった」【ロングインタビュー】

  • 2026.9.15

3人の“さとこ”が主人公の映画『さとこはいつも』が9月18日に全国公開を迎える。『南極料理人』や『さかなのこ』で知られる沖田修一監督が、12年ぶりに手掛けたオリジナル作品、かつ、監督デビュー20周年という節目の年にリリースとなる記念すべき1作となった。

15歳の聡子(姫野花春)、55歳の里子(石田ひかり)とともに35歳の沙都子を担うのが、有村架純だ。有村は、映画配給会社の宣伝プロデューサーとして働きながら、私生活では印刷会社の営業・村本(オダギリジョー)と6年にわたる不倫を続けている沙都子を、チャーミングでユーモラスに、ちょっとした毒も添えながら生き生きと演じている。

もとより沖田監督作品が「大好き」だったと目を輝かせた有村と、有村に信頼を寄せてオファーした沖田監督。本作が初タッグとはにわかには信じがたいほど“沖田ワールド”で、自由に息づく有村の姿に魅せられる。特に、沙都子パートのラストシーンは忘れがたく、沖田監督作品を象徴するかのような神がかったカットになっている。当該シーンの思い出も含め、とても楽しく穏やかだったという撮影の日々を振り返ってもらった。

3人の“さとこ”たちを抱きしめたくなるような、とても愛しい物語です。有村さんはオファーを受け、どのような気持ちで沙都子を引き受けましたか?

有村:オファーは、ちょっともう……光栄すぎました。お芝居をしていく人生を歩んでいくと決めてから、さまざまな作品を観て勉強させていただきましたが、中でも沖田さんの作品はやっぱり大好きなんです。温かい世界観にちょっと皮肉さもあり、刺さってくる要素もあるんですけど、それが鋭利なものではなくて。砕けたセリフという言葉のチョイス、センスというところが沖田さんにしかないものだと感じていました。

沖田監督:ありがとうございます。

有村:いえいえ…! 皮肉めいているのに笑える部分に、沖田さんのやさしい眼差しみたいなものが加わって、どの作品にも沖田さんにしか表現できない世界があると思っています。そこが大好きなんです。『さとこはいつも』の脚本を読んでいると、沙都子はキャリアを積んできて、ある程度仕事ができて、都会に住んでいる強さも持ち合わせている女性。……なんですけど、その沙都子もチャーミングでキュートに見せてくれているというか。脚本をいただいたときに、断る理由はないと思いました。「喜んで!」というところでお受けさせていただきました。

沖田監督:よかった~。

沖田監督からもぜひ、沙都子を有村さんに託した経緯などをお聞かせください。

沖田監督:過去に有村さんが出演していた作品を拝見させてもらっていて、一緒にやってみたいなという思いがありました。沙都子の話は、ともすると不倫があり、でもちょっと笑えたりするという難しいバランスがあったんです。それを有村さんがやると、「なんか真面目だけど面白い」という感じになるんじゃないかと、素直に入ってくるイメージがありました。だから、有村さんがやってくれたらすごくいいなあと思っていたところ、やってくださるとのことだったので、感動しましたね。すごくうれしかったです。

有村:私、現場中もすごい幸せでした。何より沖田さんが本当に楽しんで撮影されていて、ずっとワクワクしているんです。常に笑っていたり、面白がってくれているんです。だから「こういうのも見てみたい」、「ああいうのも見てみたい」といろいろなパターンを撮ったんですけど、それがいわゆる“素材集め”みたいなことではなく、純粋に皆さんのお芝居を楽しんで見ているというピュアさが、空気をまるごと作ってくれていて。スタッフさんたちも沖田さんへの愛とリスペクトがあふれていて、その空間にいるのがすごい幸せでした。

とてもすてきなエピソードです。本作において、沖田監督は指針のようなものを事前に有村さんや皆さんにお伝えしていたんですか?

沖田監督:そこまで明確なことはなかったと思います。3人の違う“さとこ”のお話だけど、「どこか一人の“さとこ”という女性に錯覚していくみたいに、3人で一人の女性像を演じる」みたいな感覚は、3人には最初お願いしたような気がします。

15歳、35歳、55歳とそれぞれの“さとこ”のリアルな描写に引き込まれてしまうのですが、沖田監督はなぜこのように緻密に台本に落とし込めるのでしょうか?

沖田監督:ありがとうございます。有村さんが演じていた沙都子は、比較的、年齢的に僕も直近で経験してきているので、ある程度は共感できる部分みたいなことで書けました。けど、15歳の聡子(姫野花春)は「おじさんが書いて大丈夫かな……」と思いながら書いていましたね(笑)。でも、こんなこともあるだろうなとか。あとは、一人の女性に見えてくるという話だから、そこまで流行り言葉にはしないで、ちょっと昭和っぽくてもいいのかなと思って、あえて今っぽくはしなかったですね。

55歳の里子(石田ひかり)の「人生を見つめ直す」というのは、画家のグランマ・モーゼスさんという方をイメージしました。モーゼスさんの個展を見に行ったんですが、彼女は80歳くらいのおばあちゃんになってから絵を描いたそうなんです。家族の面倒を見る生活に忙しくて、そればかりになっていた里子が自分を見つめ直す、何かが始まるというのは、なんかわかるなと思ったんです。まあ……僕はまだ55歳になっていないですし、女性でもないんですけど。

しかし、この先誰もが直面するようなことでもありますよね。

沖田監督:そうですね。あと、『おらおらでひとりいぐも』という映画をやったとき、原作の若竹(千佐子)さんが、60歳くらいになってから小説を書いたという話を聞いていたんです。「あるんだなあ」と思っていたので、参考にしながらやりました。

有村さんは台本を読んだ後、演じるのが特に楽しみだったシーンはありましたか?

有村:今パッと思ったのが、予告でも流れている沙都子が「いったーい!!」と叫ぶシーンです。村本(オダギリジョー)さんと6年の不倫をしていることが奥さんにばれていて、奥さんが沙都子の家に乗り込んで刺しにくるところ。最初、窓の外から奥さんがこちらを見ていて「何、何、何!?」みたいな。あれよあれよと展開していくあのシーン、好きでした~。

沖田監督:刺されて「いったーい!!」と言うセリフって、たぶん今までないと思うんですよ(笑)。自分で台本を書いていても笑っちゃったんです。有村さんがやると、やっぱり2倍面白くなって、その感じがよかったなと思いました。

有村:刺された後、沙都子の部屋のテレビに映っている韓国ドラマの映像のエフェクトがかかっているところが、完成作を観ていると本当に面白くて……!

沖田監督:うれしいな。あのエフェクト、いろいろな韓国ドラマを観て実はめっちゃ研究したんです。っぽいやつを!と(笑)。

有村:そうなんですね! 一番後悔しているのは、あそこで目を開けとけばよかった~、って(笑)。あとは、あのシーンのオダギリ(ジョー)さん、かなりアドリブなんですよね。

沖田監督:そうそう、「充電がなーい」ってね(笑)。10%充電あれば、電話できるけどね。

オダギリさんも強烈な印象を残してくださっています。有村さんはご一緒していかがでしたか?

有村:オダギリさんと作品でご一緒できること自体、貴重な経験だと思っていたのですごくうれしかったです。オダギリさんはコメディも、シュールなものも、いろいろなジャンルの作品に幅広く出演されているので、『さとこはいつも』という世界をどんなテンションで演じられるんだろうと、とても楽しみにしていました。オダギリさんに引っ張っていただいたところもたくさんありますし、まさか刺されるところのシーンで、「わー、救急車!!」とあんなに大声を出すとは思っていませんでした(笑)。すごく面白かったので、私、倒れながら笑っていましたもん。

沖田監督:「充電がない」もだけど、笑いましたよねえ。

有村:そうですよね。なのに、「やってやる感」がまったくないところがすごいなあと思っていて、全部が楽しかったです。

沖田監督:こういう話だからというのもあって、僕はオダギリさんにあまり言っていなくて、ご本人が結構面白くやってもいいんだと思ってくれたんだと思うんです。会社でトロフィーを壊すシーンでも、その場でオダギリさんがめちゃくちゃ回っていて(笑)。「さすがに」と思ったものの、オダギリさんだと全然いけるんですよね。

有村:声色もあるんですかね? ガッと押し出してこないような感じがありますよね。

沖田監督:やわらかい感じですよね。

沙都子パートのラスト「おでんにはもってこいの日」の文章を読んでいるときの表情が何とも言えず見入ってしまいました。これぞ沖田監督作品の真骨頂というシーンだと思いますが、どのような思いで演じていたんですか?

有村:結局、自分自身の性質……言ったら6年の不倫をして苦しんでしまうところもあったり、後輩と新しい恋に発展するのかしないのかなど、たぶんどうしようもない人間的な部分が沙都子にはあると思うんです。けど、結局「それも自分じゃん」と。自分の持っている性質みたいなものはたぶんこれからも一生付き合っていくので、自分が愛してあげようじゃない、と思ったと言いますか。

沖田監督:僕は自分が思ったよりハッピーエンドだと思ったんです、有村さんがやっているのを見て。「ああ、そっか、沙都子よかったな」と思ったんですよね。

有村:そうですね。自分の過去を引きずって大切にしまっておくんだというより、沙都子はおそらく、そこは潔く断捨離できるようなタイプの女性なんだろうなと思っていました。

かなり長い時間の寄りのカットとなっていて、有村さんの表情から観客はいろいろな思いを読み取ろうとしたり、感じたりできる構成になっていますよね。圧巻でした。

有村:寄りのところ、あんなにじっくり使ってくれてるとは思っていませんでした(笑)。私が言うのもおこがましいんですが、この作品には無駄なシーンやカットがひとつもないと思っているんです。

沖田監督:本当ですか!

有村:本当に全部をずっと見続けていたくなるので。15歳の聡子も、35歳の沙都子も55歳の里子も、みんな。

今のシーンに関して、沖田監督の思いや演出意図などもお伺いしたいです。

沖田監督:僕は、あのカットにすごく思い入れがあって。ですので、そのことをお話いただけてとてもよかったと今思っています。実は有村さんの読んでいる最後の顔を撮っているとき、何回かめちゃくちゃ泣きそうになったときがあったんです。これまで自分の書いたものを読むカットは意外とやっていなかったんですね。しかも自分がやってきたことの、あまり人には言えないようなことを書いたものをずっと読んでいる顔が、何を感じるんだろうと思っていたんです。

確かにあの尺、長いんですよ。有村さんの目の読んでいる感じから、沙都子が自分の書いたものを読んでどう思うんだろうと、ちょっと想像するんじゃないかなと思ったので、映画館だったらきっと大丈夫だと思い切りました。自分が現場で感動したのが確かな証拠だと思ったから、だから……いいかと思ってそのまま長く使いました。本当は音楽もかける予定だったんだけど、有村さんがずっと読んでいるだけでいいと思って、音楽もいらないと。あそこにかける音楽を、全然違うところに持ってきちゃったりとかして(笑)。大丈夫かなと作っているほうは思っていたけど、結果このシーンは今回の映画の見どころだなと思ったので、僕のすごく好きなカットです。

(取材・文:赤山恭子、写真:映美)

映画『さとこはいつも』は、9月18日(金)より全国公開。

出演:有村架純、石田ひかり、姫野花春
監督・脚本:沖田修一
公式HP:https://happinet-phantom.com/satoko/
(c)2026 「さとこはいつも」製作委員会

※2026年9月7日時点の情報です。

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