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「ねえ、お母さん。また動いてる」父がごみ置き場で聞いた「ドン、ドン」という音。家族が感じた違和感に寒気がした

  • 2026.9.14

父が置き場から戻ってきた、あの朝のこと

四十代になった今でも、あの半年のことだけは朝の順番どおりに思い出せる。

以前、家族で集合住宅に住んでいた頃の話だ。同じ建物に、父と折り合いのよくない女性が住んでいた。

父はその人と顔を合わせた日は決まって不機嫌で、玄関を入るなり「あの人は本当に…」とこぼした。何があったのかと聞いても、はっきりした理由が出てきたことは一度もなかった。

ある朝、父がごみを出しに行った。置き場は建物のすぐ横にあり、往復しても五分とかからない。

ところが戻ってきた父は、玄関先に立ったまま靴を脱ごうとしなかった。

「どうしたの?」

私が声をかけると、父は少し間を置いて言った。

「…また、あの人に会った」

「ごみ置き場で?」

「そう。俺が袋を置いたところに来たんだよ」

「何か言われたの?」

父は首を振った。

「いや、何も」

「じゃあ、顔を合わせただけでしょ?」

そう言うと、父は黙って窓のほうへ向かった。

「ちょっと見てみろよ」

私も後ろから外を覗いた。置き場には、父がたったいま出したばかりの袋が見えた。

「俺が離れたあと、あの人がうちの袋のほうへ歩いていったんだ」

「でも…それだけなんだよね?」

「そのあと、ドン、ドンって二回聞こえた」

父は自分でもどう考えればいいのか分からないような顔をしていた。

音が気になって振り返ったものの、そのときには女性の姿は見えなかったという。

「顔を合わせただけでしょ。何も言われてないんでしょ?」

私はもう一度そう言った。

「分かってるよ。でも、あんな音がしたら気になるだろ」

父の声には、怒りというより、気味悪さのようなものが混じっていた。

時間を変えても、袋の向きが変わることがあった

その日から、ごみを出すのは私の役目になった。

父がまた女性と鉢合わせるのを嫌がったこともあり、少し早めに出す日もあれば、収集時間に間に合う範囲で遅らせる日もあった。

私はいつも、袋の口の結び目を手前に向けて置いた。

ある朝、家に戻ってしばらくしてから窓の外を見ると、結び目が横を向いていた。

別の日には、袋そのものが少し端へ寄っていた。

「ねえ、お母さん。また動いてる」

台所にいた母に言うと、母は窓のほうを見た。

「誰かが動かしたんじゃないの?」

「誰かって?」

「収集の人とか…」

「でも、まだ収集車は来てないよ」

そう返すと、母は少し黙った。

「じゃあ…誰なんだろうね」

それ以上、母も何も言わなかった。

父も、あの朝のこと以来、その女性の話を自分からすることは少なくなった。

それでも、ときどき袋の向きが変わっていることがあった。

ごみを出す時間を変えてみても同じだった。

「今日も?」

母に聞かれ、私は窓の外を見ながら答えた。

「うん。また少し動いてる」

誰が触ったのか。そもそも、何か理由があって動かされただけなのか。それを確かめることはできなかった。

そうしたことが、引っ越しが決まるまでの半年のあいだ、何度もあった。

最後の朝も、私はいつもと同じように、結び目を手前に向けて袋を置いた。

荷物を積み終え、車に乗る前に何となく置き場を見る。

朝に置いた場所から、袋は少しだけ端へ寄っていた。

「……もう行こう」

後ろから父に言われ、私はそのまま車に乗った。

あの朝の音と、何度か動いていたごみ袋に関係があったのか。それさえ、今も分からないままだ。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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