1. トップ
  2. エピソード
  3. 「今、撮りました?」バスでぶつかった私。謝った直後、2度もこちらを向いたスマホ

「今、撮りました?」バスでぶつかった私。謝った直後、2度もこちらを向いたスマホ

  • 2026.9.14
「今、撮りました?」バスでぶつかった私。謝った直後、2度もこちらを向いたスマホ

座れなかった夕方のバス

買い物帰りの夕方、私は両手に袋を提げてバスに乗った。車内はすでに混んでいて、空いている席はない。仕方なく前寄りの手すりにつかまった。

「もう少し奥までお願いしまーす」

運転手の声に合わせて、乗客が少しずつ奥へ詰めていく。私の横にも、同じくらいの年ごろの女性が立った。

その人の買い物袋が私の袋に軽く触れた。

「あ、ごめんなさい。ぶつかっちゃいました」

「大丈夫ですよ。この時間、混みますよね」

「ほんとですね」

お互いに小さく笑い、それきりになった。

私の前の席には若い女性が座っていた。膝の上に携帯を置き、ときどき画面を見ている。私は特に気に留めていなかった。

しばらくして、バスが坂を下り、大きなカーブに差しかかった。

「揺れますので、おつかまりください」

手すりを握り直した直後、車体がぐっと傾いた。重い買い物袋に引っ張られ、私の体も前へ流れる。

その拍子に、持っていた袋が前の席の女性の腕に当たってしまった。

「あっ、すみません!大丈夫ですか?」

私は慌てて体勢を戻した。

女性は返事をせず、こちらをじっと見上げた。

謝ったあと、携帯がこちらを向いた

次の瞬間、その女性が膝の上にあった携帯を持ち上げた。

胸のあたりまで上がった携帯の裏側が、まっすぐこちらを向いている。小さなレンズが見えた。

「…え?」

何をされているのか分からず、思わず声が漏れた。

女性は何も言わない。指が少し動き、それから携帯を膝の上へ戻した。

横に立っていた女性が、心配そうに私を見た。

「大丈夫ですか?」

「ええ…今、こっちに携帯を向けられた気がして」

口にしてみても、自分でも確信が持てなかった。写真を撮られたのか、ただ携帯を持ち上げただけなのかは分からない。

私は買い物袋を抱え直し、前の席から少しだけ距離を取った。

ところがしばらくすると、また視界の端で携帯が上がった。

今度は少し横向きになり、レンズが私のほうへ動いて止まる。

「…また」

思わず小さくつぶやいた。

さっきまで「偶然かもしれない」と思っていた気持ちが、一気に不安へ変わった。

私はいつもより二つ手前の停留所で降りることにして、降車ボタンを押した。

出口のほうへ動くと、横にいた女性が声をかけてくれた。

「ここで降りるんですか?体調大丈夫ですか?」

「はい。いつもはもう少し先なんですけど……今日は歩きます」

「そうですか。気をつけてくださいね」

「ありがとうございます」

バスを降りると、私は植え込みのそばに立ち、車体が見えなくなるまで待った。

自分でも少し大げさかもしれないと思った。それでも、そのまま乗っている気にはなれなかった。

撮られたのかどうかも分からないまま

家に着いて夫に話すと、私から買い物袋を受け取った手が止まった。

「私がぶつかったから、怒ってたのかもしれない。でも、すぐ謝ったのよ」

「怒ってたとしても、黙って携帯を向けられたら怖いな」

「そうなの。撮られたのかどうかも分からなくて……それが一番嫌だった」

夫は少し考えてから、「しばらく時間をずらしてみたら」と言った。

それから私は、できる日は一本早いバスで帰るようになった。少し空いているので、座れることも多い。

本当に写真を撮られていたのか。もし撮られていたなら、その画像が残っているのか。

今も答えは分からない。

ただ、前の席で誰かが携帯を持ち上げると、あの日こちらを向いた小さなレンズを思い出してしまう。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ