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荒ぶる染五郎に柔和な團子、紅一点は辰之助|注目の3人が歌舞伎座で初共演

  • 2026.9.12
©松竹

歌舞伎ファンを越えて注目度急上昇中の若手歌舞伎俳優、市川染五郎さん、尾上辰之助さん、市川團子さんの初共演が歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」でついに実現しました。それが昼の部の幕開けを飾る『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』です。歌舞伎座の広い舞台に踊り手はたった3人という贅沢な一幕。それはいかなる舞踊で、それぞれはどのような思いで取り組んでいるのでしょうか。

念願だった3人揃っての共演

「自分はどちらとも共演する機会がありましたけれど、團子くんと辰之助くんの共演はこれが初めて。普段から仲のいい3人が同じ舞台上にいるという状況がどこか不思議というか……とても新鮮です」

CEDRIC DIRADOURIAN

染五郎さんの言葉に反応してほぼ同時に「新鮮!」と発したふたり。念願だった初共演の喜びは同じ思いに染まっているようです。

染五郎さんは、1歳年上の團子さんとは『三社祭』や『蝶の道行』などの舞踊で、1歳年下の辰之助さんとは『妹背山婦女庭訓 吉野川』や『絵本太功記』などで共演。坂東玉三郎さん演出・出演の新作歌舞伎『火の鳥』ではキーパーソンとなる兄弟を、初演では染五郎さんと團子さん、再演では染五郎さんと辰之助さんが演じたこともありました。

「トークイベントや雑誌の取材などで3人が顔を合わせることはこれまでにもありましたが、我々は役者なのですから、舞台で共演してそれがよかったと思ってもらえるようでなければ。だから一刻も早く共演したいという思いでした」

娘役などで見せる健気で可愛らしい姿とは対照的に、気骨あるまなざしで確かな思いを表明したのは辰之助さんです。その言葉に無言で頷くふたりの様子に、同志ともいうべき同世代ならではの連帯感が滲みます。

初めての稽古、『娘七種』とは?

『春調娘七種』左より、曽我五郎=市川染五郎、静御前=尾上辰之助、曽我十郎=市川團子(令和8年9月歌舞伎座 ) Ⓒ松竹

取材が行われたのは初めての稽古翌日のこと。その稽古を振り返り「とにかく楽しくて、思わず頬がゆるんでしまいそうでした」と笑顔で明かしてくれたのは團子さんです。

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「踊りながらふたりのちょっとした息遣いが感じられてすごく嬉しい気持ちでした。だけどただ楽しいだけというのではなくて、お互いに高め合うような雰囲気が感じられ、それがまた嬉しくて。普段の関係性がいい意味で出ているのかなと思いました」

辰之助さんも「調和性といったものはまったく問題ないと確信しました」と話し、染五郎さんは初日が開いてからに思いを馳せ「同じ目線で舞台での光景を共有できるのはとにかく嬉しいです」

その『春調娘七種』とはどのような舞踊なのでしょうか。

この作品に違う役で2度(2023年11月歌舞伎座で静御前、2025年1月浅草公会堂で曽我五郎)携わっている辰之助さんが答えてくれました。今回は染五郎さんが曽我五郎、その兄の十郎を團子さん、辰之助さんが女方として静御前を演じます。

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「曽我十郎、五郎兄弟が親の敵である工藤祐経を討つという設定は、歌舞伎では超メジャーなシリーズものです。源義経の恋人である静御前も『義経千本桜』や『船弁慶』などで有名な登場人物。まったく別の物語のキャラクターをひとつの踊りに登場させることを考えた昔の人のセンスは非常に洒落ていると思います」

別の作品の超有名キャラ同士がコラボして観客を喜ばせるというのは、現代にも通じる事象です。

「踊りにもいろいろなものがありますが、これはストーリーがどうというよりキャラクターや役者で見せるタイプのもの。お客様には難しいことはあまり考えずに、舞台の華やかさや音楽など、感じるままに楽しんでいただけたらと思います」と辰之助さんは語ります。

どう楽しむ?臨む姿勢は?

CEDRIC DIRADOURIAN

それでも日本舞踊にあまり馴染みがなく不安だという方に、楽しみ方のヒントを示してくれたのは團子さんです。

「パフォーマンス全体としての魅力はもちろんですが、たとえばK-POPなどでも振りのこの瞬間が好き!みたいなことからそのダンスにハマるってありますよね。それは日本舞踊も同じで、辰之助くんが言う“役者で見せる踊り”というのはそこにも通じるものがあると思います。同じ振りであっても人が違えば雰囲気は変わります。この人の演じるこの役が、この踊りのあそこの振りが好き、みたいなものを見つけに来ていただけたらと思います」

作品成立時の発想がどんなに斬新でも、その振り付けがどんなに素晴らしくとも、観客を心から楽しませることができるかはパフォーマー次第。「だからこそ緊張感と責任をもって勤めなければ」という辰之助さんの言葉を受けて、「だから踊る者の技量にかかる」と言及したのは染五郎さんでした。

「どういう踊りなのかを考えることなく見入っていたらいつの間にか終わっていた……。というのが理想であり目標です。だからお客様の意識を惹きつけて離さないようにするにはどういう工夫をすべきかを考えながら、3人でつくっていきたい。それにはキャラクターの違いを各々が深く理解して臨み、お客様には歌舞伎のおおらかさ、華やかさ、様式をただただ感じていただける一幕にしたいと思います」

三者三様のキャラに注目

では、そのキャラクターを演じるに当たってはどのように受け止めているのでしょうか。

以前に十郎も経験している染五郎さんが演じるのは、力強く荒々しい弟の五郎。

『春調娘七種』曽我五郎=市川染五郎(令和8年9月歌舞伎座) ©松竹

「骨太な役が好きな僕は荒事において、大叔父(二世中村吉右衛門)が演じるものに惹かれています。(曽我兄弟が登場する別の演目である)『対面』で大叔父が勤めた五郎の映像なども拝見して、歌舞伎における五郎というキャラクターがどういうものなのかを研究したいと思います」

静御前は2度目となるのが辰之助さんです。

『春調娘七種』静御前=尾上辰之助(令和8年9月歌舞伎座) ©松竹

「前回より進化したところをお見せしなければと思います。紅一点ですし、真ん中に立つことも多いので舞台が華やかなものとなるようにしたいです」

團子さんは今回が「人生初の曽我物」となりました。

『春調娘七種』曽我十郎=市川團子(令和8年9月歌舞伎座) ©松竹

「動きが緩やかで柔和な風情で見せる十郎のような役は、いまの自分には非常に難しいと思います。柔和だからといって、身体を使わないのではなく、あくまでも踊りであることに重点を置いてつとめたいと思います」

それぞれの見せ場があったり3人一緒の振りがあったり、興味を惹くポイントは多彩に散りばめられています。

「同じ振りであってもそれぞれの役柄によって踊り方に違いがありますので、そんなところにも注目していただけたらと思います」

さらなる飛躍にワクワク

CEDRIC DIRADOURIAN

念願の初共演を果たした2026年は3人とも大きな飛躍の年となりました。それぞれに節目となったのは5月。染五郎さんは人間の深淵に迫るシェイクスピアの名作『ハムレット』(デヴィッド・ルヴォー演出)で新たな境地を開拓し、辰之助さんは三代目として現在の名を襲名。團子さんは人気声優による「こえかぶ」とのコラボレーションとなった澤瀉屋ゆかりの演目『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』にチャレンジ。

『ひらかな盛衰記』「逆櫓」左より、船頭日吉丸又六=市川團子、船頭灘吉九郎作=尾上辰之助、船頭明神丸富蔵=市川染五郎(令和8年9月歌舞伎座) ©松竹

お互いに刺激を受けたかを尋ねると、染五郎さんの「おおいに」という言葉に呼応してまたもや同じ言葉を発したふたり。それぞれの舞台も観に行ったようで、互いに感銘を受けリスペクトしあうなかで勇気づけられ、新たな発見も多々あった様子でした。染五郎さんの楽屋でハムレットのポーズで一緒に写真を撮ったという微笑ましいエピソードも。

公私共にいい関係を築いている3人の今後から目が離せません。すでに発表されているように、2027年1月は揃って「新春浅草歌舞伎」に出演。さらなる飛躍が期待されます。

CEDRIC DIRADOURIAN

【歌舞伎座】秀山祭九月大歌舞伎

Hearst Owned

2026年9月2日(水)~26日(土)(昼の部 11時〜/夜の部 16時〜)※9日(水)、18日(金)は休演

演目/
【昼の部】『春調娘七種』
『三社祭』『ひらかな盛衰記』

【夜の部】『雛鶴三番叟』
『伊賀越道中双六 沼津』『銘作左小刀 京人形』
『一條大蔵譚』

出演/片岡仁左衛門、中村魁春、中村歌六、中村萬壽、中村雀右衛門、
中村又五郎、中村錦之助、片岡孝太郎、松本幸四郎、尾上松緑、
八代目尾上菊五郎、中村時蔵、中村歌昇、中村種之助、中村隼人、
市川染五郎、尾上辰之助、市川團子ほか

料金/5,000円~20,000円

問い合わせ/チケットホン松竹 tel.0570-000-489(10時〜17時)

公演詳細はこちら

ヘア&メイク=川又由紀(HAPP'S.)[染五郎さん]、花井菜緒(JOUER)[辰之助さん]、森智聖[團子さん] スタイリスト=中西ナオ 衣装協力=アナキストテイラー、ティーケータケオキクチ 取材・文=清水まり 編集=本田リサ(婦人画報編集部)

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