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「本当に、ちょっと通りかかっただけです」家のそばで鉢合わせた女性。その距離感に感じた違和感

  • 2026.9.13

襖を開ける前に、ひと言聞いてほしかった

母と一緒に暮らすようになって二年目の春から、母のことで相談に乗ってくれる担当の方が、週に一度ほど家へ来るようになった。

予定は前もって決めてあり、私はその時間に合わせて母の様子を見たり、部屋を片づけたりして待っていた。

来てもらえること自体は、とてもありがたかった。

少し気になったのは、六月の火曜日だった。

玄関で靴を脱いだその人は、挨拶をしながらすぐ廊下の奥へ目を向けた。

「お母さま、今日はどうですか?」

「さっき薬を飲んで、今は横になってるんです」

「そうなんですね。ちょっとお顔だけ見てもいいですか?」

私が返事をするより先に、その人は母のいる部屋へ向かった。

「あ、今は寝てるので…」

そう声をかけたときには、もう襖が開いていた。

物音で母が目を覚まし、驚いたようにこちらを見る。

「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたね」

その人は母に二、三言声をかけてから、廊下へ戻ってきた。

これまで家に来たほかの方なら、「起こしても大丈夫ですか」と先に私へ確認してくれていた。

その人だけ、なぜか家族との距離が少し近すぎるように感じた。

約束のない日にも、姿を見るようになった

それでも、そのころは「母のことを気にかけてくれているのかもしれない」と思うようにしていた。

ところが、約束のない日にも姿を見かけるようになった。

一度目は七月の夕方だった。門の近くに立っているその人を見かけた。目が合うと、「こんにちは」と軽く手を上げ、そのまま歩いていった。

二度目は盆の前だった。道の向かい側から、こちらの家のほうを見ている姿があった。

「あれ…?」

私が玄関先に出ると、その人は軽く会釈をして離れていった。

たまたま近くを通っただけ。そう思えば説明はつく。それでも、胸の奥に小さな引っかかりが残った。

三度目は九月だった。

門を入ってすぐのところにある郵便受けへ向かうと、生垣のそばに人影があった。近づいて初めて、その人だと分かった。

ちょうど、母が普段過ごしている部屋の窓のほうから顔を戻したところだった。

「…あの、今日はどうされたんですか?」

自分でも分かるくらい、声が固くなった。

その人は少し驚いた顔をしたあと、いつもの調子で答えた。

「ああ、すみません。近くまで来たので。お母さま、どうしてるかなと思って」

「でも今日は、来ていただく日じゃないですよね?」

「ええ。本当に、ちょっと通りかかっただけなんです」

「そう…ですか」

それ以上は言えなかった。

窓のカーテンは、その日も朝から閉めたままだった。

妹に話して、初めて口にできた違和感

その晩、妹に電話をした。

「今日さ、またあの担当の人が来てたの」

「今日って、来る予定だった?」

「違う。郵便取りに出たら、生垣のところにいて…窓のほう見てたみたいで」

電話の向こうで、妹が少し黙った。

「それ、前にもあったんだよね?」

「うん。これで三回目。前は門のところと、道の向こう側」

「……それは、ちょっと嫌だね」

その言葉を聞いて、胸の奥に押し込めていたものが少しほどけた。

「私が気にしすぎなのかなって思ってた」

「気にしすぎかどうかは分からないけど、嫌だったなら相談していいんじゃない?」

「そうだよね……。母のことを気にしてくれてるだけなのかもしれないけど、予定もないのに来られるのは、やっぱり落ち着かなくて」

電話を切ったあと、私は玄関の鍵をもう一度確かめた。

翌週、担当の窓口へ電話をした。

「担当の方を替えていただくことって、できますか」

理由を聞かれ、私は少し迷ってから、家での距離感が気になっていたことと、約束のない日に何度か家の近くで姿を見かけたことを伝えた。

大ごとにしたいわけではなかった。ただ、これからも家に来てもらう相手だからこそ、安心して迎えられる人にお願いしたかった。

その後、担当は変更になった。

次に来た方は、母が休んでいると伝えると、必ず私に確認してくれる。

「今日はそのまま休んでもらいましょうか?」

「はい。そのほうが助かります」

そんな何気ないやり取りに、私は思っていた以上にほっとした。

いまでも郵便を取りに出るとき、生垣のそばで一度だけ足が止まることがある。

あのとき嫌だったのは、家を見られたことだけではない。こちらに確認もないまま、いつの間にか生活の内側へ入られていたように感じたことだったのだと思う。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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