1. トップ
  2. エピソード
  3. 「いい加減なこと言うなよ!」ドリンクバーで店員を責めた男性。だが、女性の一言で見えた勘違いとは

「いい加減なこと言うなよ!」ドリンクバーで店員を責めた男性。だが、女性の一言で見えた勘違いとは

  • 2026.9.13
「いい加減なこと言うなよ!」ドリンクバーで店員を責めた男性。だが、女性の一言で見えた勘違いとは

聞かれたのは、コーヒーの入れ方だけだった

私が働いていたファミリーレストランは、夜七時を過ぎるころから少しずつ客足が落ち着いていた。

ドリンクバーの台を布巾で拭いていると、後ろから「ちょっといい?」と声をかけられた。

振り返ると、七十代くらいの女性がコーヒーマシンの前で困ったような顔をしていた。少し離れたところには、四十代くらいの男性も立っている。

「これ、どうやったらコーヒー出るの?押してもよく分からなくて」

「カップをここに置いて、このボタンを押していただければ大丈夫ですよ」

「ああ、これね。濃いのと薄いのも選べるの?」

「はい。上のボタンで切り替えられます。お好みのところに合わせて押してみてください」

「そうなの。ありがとう。こういうの、慣れてなくてね」

女性がほっとしたように笑ったので、私も「分からなかったらまた呼んでください」と返した。

それから私は、下げ物のトレイを抱えてホールへ戻った。

氷についての話は、一度も出なかった。

「あなたに聞いたじゃない」

しばらくして、会計へ向かおうとしていたその女性に、ドリンクバーの前で呼び止められた。

「ねえ、ちょっと。これ…氷を取るところじゃなかったの?」

女性が指さした先を見て、私は一瞬言葉に詰まった。

そこは、お冷やの蛇口の下にある受け皿だった。

飲み残した水や氷を流すための場所で、客が使う氷は横のストッカーに入っている。

「あ…申し訳ありません。氷はこちらなんです。そちらは、飲み残しを流していただくところで…」

すると女性の表情が変わった。

「え?でも私、あなたに聞いたわよね?」

「先ほどでしょうか」

「そうよ。ここ、どうやって使うのって聞いたじゃない」

「はい。コーヒーの出し方についてはご案内しました。ただ、氷の場所は聞かれていなかったと思います」

女性は納得できない様子で眉を寄せた。

「でも、私てっきりここだと思ったのよ。だって氷も残ってたから…」

その声を聞いて、伝票を持った男性がこちらへ戻ってきた。

「どうしたの?」

「この人に聞いたのよ。でも氷の場所、違ったみたいで」

男性は女性と私を交互に見たあと、少し険しい顔になった。

「ちゃんと聞いたんだよな?」

「聞いたわよ。使い方が分からないって」

男性は伝票を握り直し、私に向き直った。

「じゃあ、いい加減なこと言うなよ。分からないから聞いてるんだろ」

突然強い口調で言われ、胸がぎゅっと縮むような感覚がした。それでも、ここで話を合わせてしまうわけにはいかなかった。

「申し訳ありません。ただ、私がお答えしたのはコーヒーの入れ方と、濃さの切り替え方です」

「氷のことも聞いたんじゃないの?」

女性に確認するように男性が言う。

女性は少し黙ったあと、「私は全部聞いたつもりだったのよ」と小さく答えた。

私はなるべく声を荒らげないように続けた。

「私の説明が分かりにくかったのであれば、すみません。ただ、氷について聞かれていれば、こちらをご案内していました」

そう言ってストッカーの蓋を指すと、男性はしばらくそこを見ていた。

「…じゃあ、勘違いしたってことか」

女性も少し気まずそうにグラスを持ち直した。

「私も、てっきり聞いたと思ってたから…」

さっきまでの勢いは、少しずつなくなっていた。

男性はそれ以上何も言わず、「もういいよ、行こう」と女性を促した。

会計を担当したのは社員の主任だった。

二人が店を出たあと、主任が私のところへ来た。

「大丈夫?」

「はい。でも、私が何か言い忘れたのかなって、一瞬分からなくなりました」

主任は少し考えてから言った。

「聞かれてないことまで、全部説明するのは無理だよ。覚えてることをそのまま伝えたなら、それでいい」

その言葉を聞いて、ようやく肩の力が抜けた。

接客をしていると、同じ会話でも受け取り方が違うことがある。それでも、言っていないことまで自分のせいだと思わなくていい。

あの夜のことを思い出すたび、私はそう考えるようになった。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ