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「お金ないなんて、恥ずかしくて言えないよ」10万円の借金を母に知られた私。台所で怒られたあと、渡された一枚の紙とは

  • 2026.9.11

台所のテーブルに広げられた一枚

実家に泊まった翌朝、台所に下りると、母がテーブルに紙を一枚広げていた。

母はしわを指で伸ばすと、私の顔を見た。

「これ…あんたのだよね?」

その声を聞いた瞬間、何を見つけられたのか分かった。

「うん…」

「ちょっと座って。ちゃんと話そう」

椅子を引く音が、やけに大きく響いた。

当時は手取りが少なく、家賃の引き落とし日が近づくたびに通帳を見るのが怖くなっていた。

相談できる相手も思いつかないまま、生活費として10万円を借りた。

返済が始まってからは、給料日前になるたび財布の中身を何度も数えていた。

母は明細を指先で押さえながら聞いた。

「いくら借りたの?」

「…10万円」

「10万円って…。なんで、そんなになるまで黙ってたの」

母の声が少し大きくなった。

借りたことそのものより、何も相談しなかったことに腹を立てているのだと分かった。

「だって、言えなかったんだよ」

「どうして?」

「怒られるって分かってたし…お金ないなんて、恥ずかしくて言えないよ」

私がそう言うと、母はしばらく黙った。

それから小さく息を吐いた。

「怒るよ。そりゃ怒る。でもね、何も言わないまま一人で困ってるほうが、私は嫌だよ」

その言葉を聞いた途端、張っていたものが切れそうになった。

「ごめん……」

「泣くのはあと。まず、どうやって返すか考えよう」

母は立ち上がると、引き出しからボールペンを出し、近くにあったチラシを裏返した。

「ほら。給料、いくら?」

「え…今?」

「今。分からないままにしてるから苦しくなるんでしょう」

叱られているのに、少しだけ気持ちが軽くなった。

半年ぶんの返済表に引かれた六本の線

次の週、休憩室で同期にこの話をした。人に打ち明けたのは、それが初めてだった。

「この前さ、実家で返済の紙を母に見つけられちゃって」

「え、大丈夫だった?」

「めちゃくちゃ怒られた」

そう答えると、同期は苦笑いした。

「そりゃ焦るね…」

「でも、怒ったあと一緒に計算してくれたんだ」

母がチラシの裏に書き出したのは、これから六か月分の収支だった。

手取り、家賃、光熱費、食費。私が答えるたびに、母は数字を書き込んでいった。

「食費は?」

「たぶん、二万くらい」

母のペンが止まった。

「“たぶん”じゃ分からないでしょう」

「でも、毎回ちゃんと覚えてないし……」

「じゃあ明日からレシート取っときなさい。使った金額、ちゃんと見よう」

「はい……」

思わず子どものころのような返事をすると、母も少しだけ笑った。

「別に責めたいわけじゃないの。返せる形にしないと、また苦しくなるでしょう」

最後まで数字を書き終えると、母は半年分の返済予定を私のほうへ向けた。

「ここまでいけば終わる。半年だよ」

「…できるかな」

「できるかじゃなくて、できるように一緒に考えたんでしょう」

それから毎月、給料日の翌日に実家の台所へ行った。

母は同じ紙を出してきて、返済できた月に一本ずつ線を引いた。

二本、三本と線が増えるたび、残っている金額は少なくなっていった。

「今月分も返せたね」

「うん。あと三回」

「じゃあ、あと三回。無理して余計なものまで削らなくていいからね」

最初のころとは違い、その時間が怖くなくなっていた。

六本目の線を引く日、私は最後の振り込みを済ませ、返済が終わったことを確認できる明細を持って実家へ向かった。

「終わった」

台所で紙を差し出すと、母は一瞬目を丸くした。

「本当に?」

「うん。全部返した」

母は紙を受け取り、しばらく眺めてから、六本の線が並んだチラシの横に置いた。

「よく返したね」

「あのとき見つけてもらってなかったら、どうなってたかな」

私が言うと、母は少し困ったように笑った。

「もう隠さないでよ。お金のことじゃなくても」

「……うん」

あの日、台所で叱られたことよりも、そのあと母が黙ってボールペンを握ってくれたことのほうを、今でもよく覚えている。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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