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「草間彌生さん、 アートって何ですか?」CREAが捉えた水玉の女王の創作人生。描いた絵を母親に捨てられたこともあった

  • 2026.9.6

現代芸術の第一線で活躍し続けた芸術家の草間彌生さんが、8月14日、多臓器不全のため亡くなられました。

小誌「CREA」では、これまで草間彌生さんのアート作品をたびたび取り上げてきました。2014年7月号「人生にアートを!」特集では、当時85歳の草間さんに独占インタビュー。今回は記事「草間彌生さん、アートって何ですか?」から草間さんの声を特別に公開し、死にものぐるいで闘ってきたという創作人生を振り返ります。

CREA 2014年7月号「人生にアートを!」特集。

※初出:CREA 2014年7月号。
※年齢など記載の情報はすべて2014年掲載当時のもの。


草間彌生、アートとともに生きる85年

「水玉の女王」、草間彌生。

世界からの大喝采を浴びてもなお、彼女の制作意欲はとどまるところを知らない。アートに一生を捧げようとしている芸術家のスタジオを訪れ、訊ねてみた。

「アートとは、あなたにとって、何なのですか?」

97歳で亡くなった草間さん。2010年の月刊誌「文藝春秋」の巻頭グラビアに登場したときの様子。©文藝春秋

草間彌生のアートに世界が熱狂している。2011年から2012年にマドリッド、パリ、ロンドン、ニューヨークを巡回して大成功を収めた回顧展に続いて、昨年からはアジアと中南米で新しい個展のツアーがスタートした。

アジアを巡回中の「KUSAMA YAYOI,A Dream I Dreamed」は昨年7月に韓国の美術館で開幕。最新の絵画作品を中心に、主に2000年以降の創作活動を紹介する。いっぽうアルゼンチンやブラジル、メキシコの都市を巡る「Yayoi Kusama Obsesión Infinita」(永遠の強迫観念)は初期から最新作までを網羅した回顧展。どちらも大きな反響を呼び、入場前の大行列は、草間展では見慣れた光景となった。リオデジャネイロでは約3カ月の会期中に75万人が訪れた。

また昨年11月にはニューヨークのデイヴィッド・ツヴィルナー・ギャラリーで、ミラールームを使った体験型インスタレーションなどの新作を公開。ここでも連日長蛇の列で、2時間待ちは当たり前となった。インターネットのソーシャルメディアがショーの評判に拍車をかけ、行列のなかには普段ギャラリーに足を運ばない人も多かったという。「ニューヨーク・タイムズ」は、この展示が多様な人々に感銘を与えている様子を、観客の生の声と共に報じた。

2012年にはルイ・ヴィトンが草間作品をモチーフにしたコレクションを多数発表し、大きな話題を呼んだ。草間の作品の受け入れられ方は、狭義の現代アートの世界を軽々と超えてしまっている。その地域的、階層的な広がりは驚きに値する。まさしく現在の草間は、グローバル化した現代アートを象徴する「水玉の女王」なのだ。

What is ART for You, Kusama-san?

「アートは、生きること、死ぬこと、宇宙のこと、
それらのすばらしさ、心を高揚させてくれ、
人間としての哲学性にうたれて生きていくことを
私に教えてくれました」

幼少時の幻視体験から逃れるための創作活動

こうした状況を彼女自身はどう感じているのだろうか。

「自分の歩んできた道が間違いでなかったことが感じられて、非常に嬉しく思っています」と草間は謙虚に語る。しかしその「歩んできた道」は平坦ではなかった。

草間は1929年、松本の旧家に生まれた。幼少時から幻覚や幻聴に襲われ、それらの強迫観念的な体験から逃れるために絵を描き始めた。トレードマークとも言える水玉の起源も、子ども時代の作品にまで遡ることができる。早くから画家を志したものの、家族、なかでも母親はそれを頑なに認めず、描いた絵を捨てられたこともあったという。

家族の反対を押し切って絵画の勉強を続けた彼女は、1952年に松本で最初の個展を開いた。作品は美術批評家の瀧口修造らの注目するところとなり、国内での展覧会が次々と実現。しかし草間はそれに満足せず、より自由な環境を求めて、海外へと旅立つ。

1957年、草間は単身アメリカに渡った。翌年にはニューヨークを拠点に活動を開始。戦後のアメリカではジャクソン・ポロックやウィレム・デ・クーニングに代表される抽象表現主義が台頭し、60年代にはミニマルやポップなど、多彩な様式のアートが花開いた。草間はその只中で独自の表現を追い求めていった。

「私はアメリカの美術界で、死にものぐるいの闘いを続けてきました。貧乏をしながら、具合が悪くなって倒れるくらい一生懸命描いていました。苦労して生きていたあの頃を思い返すと、今も芸術の深淵を探ろうと日々闘っている自分に誇りを感じます」

日々の食事にも不自由する窮乏のなかで絵画制作に没頭。そこから生まれたのが、キャンバス全体を微細な網目模様で埋めつくす『無限の網』の連作だった。1959年、ニューヨークでの初の個展を開き、『無限の網』を発表。ミニマルな手法で描かれた絵画は新鮮な驚きをもって迎えられた。

このとき草間の才能にいち早く着目したのが、後にミニマル・アートの代表的作家となるドナルド・ジャッドだった。美術批評も手掛けていた彼は、草間の作品について「その一筆一筆には、どんな小さな空間でも大いなる確信と強度がある」と評した(※園田清佳『草間彌生 前衛の軌跡』(信濃毎日新聞社)。

こうしてニューヨークでの活動の足掛かりを築いた草間は、次第に絵画の枠にとらわれない多彩な表現を試みるようになっていく。独自の強迫観念的なイメージは、平面から立体、さらには空間へと拡大した。

「私はこの水玉ひとつで立ち向かってやる。これに一切をかけて、歴史に反旗をひるがえすつもりでいた」と草間はその頃を振り返る。

草間さんの訃報を受け、世界中から追悼の声が相次いだ。©文藝春秋

What is ART for You, Kusama-san?

「地球上に生まれた私たちの運命として、
自分の命をかけた人生の歩みのなか、
愛と平和をもった芸術家としての道で
いっそう闘っていきたいと思っています」

「世界中でテロや戦争が起きています」

また60年代後半になると、社会へメッセージを直接投げかけるパフォーマンスを試みるようになる。好んで行ったのは、街頭などで男女のヌードに草間が水玉を描くというボディペインティングのイベントだった。当時のアメリカでは、ベトナム反戦運動やヒッピームーヴメントが盛り上がり、物質文明への批判や人間性の解放といったテーマが若者の共感を集めていた。パフォーマンスを通じてアメリカの政策を批判し、性革命を訴える姿勢は、時代のラディカルな価値観と連動したものだった。そして今も草間は世界の平和について強い関心を抱いている。

「世界中でテロや戦争が起きています。指導者の人々は、人間の素晴らしさや宇宙の神秘性といった様々な問いかけを真摯に受け止めてほしいです」

しかし60年代末の日本では草間の意図はほとんど理解されず、「ニューヨークのハダカ教祖」といった皮相的な扱いも多かった。この種のバッシングは草間を長く精神的に苦しめることになった。

1973年、草間は16年に及んだアメリカでの活動に区切りをつけ、日本に戻る。帰国後はコラージュや版画を手掛けるいっぽうで、小説の執筆にも意欲的に取り組んだ。しかしこの時期の日本の美術界では、草間に対する関心は薄かった。

そうした状況に変化をもたらしたのは、国外での再評価の動きだった。大きな契機となったのが、1989年にニューヨークの国際現代美術センターで開かれた回顧展だ。この展覧会はフェミニズム批評の視点から草間の作品を捉え直し、再評価の基盤を作った。さらに1990年代に入ると、ヴェネチア・ビエンナーレの日本館代表、ニューヨークの画廊での個展などが高い評価を得た。また1998年から翌年にかけてニューヨーク近代美術館、東京都現代美術館などを巡回した大回顧展は、「抽象表現主義からミニマル・アートへの橋渡しをした美術史上の重要作家」という評価を決定的なものにした。

21世紀に入ると国際展で作品を発表する機会も増え、草間は現代アートのトップランナーの地位に立った。

「私の頭のなかには百年あっても作りきれないほど膨大な作品のアイディアがある」と草間は語った。2004年頃から、その草間の絵画に大きな変化が生じ始めた。伸びやかなラインで描かれた具象的なイメージやジグザク模様、水玉。白地に黒のマーカーで描く『愛はとこしえ』の連作で始まった試みは、300点を超える『わが永遠の魂』の色彩豊かな連作へと発展した。

草間は現在も旺盛な創作活動を続けている。大きな机の上にキャンバスを平置きし、事務椅子に座って描き始める。筆の動きに迷いはなく、即興的に生まれたイメージが画面に躍動する。

「私はひたすらに自分の芸術の火を燃やしてきました。そして生きることと死ぬこと、人間としての生命観について自分の思想を開拓してきました。今はそれをもっと深く、もっと力強く立ち上げたいのです」と草間。生きることとアートとがダイレクトに結びついた比類なき世界。その躍動する宇宙は、これからも人々を魅了し続けるはずだ。

1968年頃の草間さん。©文藝春秋

What is ART for You, Kusama-san?

「作品制作の時間を目一杯とりたい。
四六時中、命をかけた制作を全うするために
不眠不休の日々を送っています」

文=鈴木布美子

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