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「何分並んだと思ってるんだよ、臨機応変にやれよ」宿の朝食会場で怒鳴る客。だが、スタッフが見せた対応とは

  • 2026.9.7

焼きたての卵に、十人ほどが並んでいた

数年前の秋、旅先の宿の朝食会場でのことです。会場はかなり混んでいて、いちばん奥の一角にだけ、長い列ができていました。

近づいてみると、目の前でだし巻き卵を一本ずつ焼いてくれるコーナーでした。焼き上がった卵はその場で切り分けられ、白い皿にのせて渡されています。

一人二切れずつ、と決まっているようでした。十人ほどが静かに並び、卵が焼き上がるたびに、列が少しずつ前へ進んでいきます。

時間はかかっていましたが、誰も急かしてはいませんでした。焼きたてを順番に出している以上、待つしかないと分かっているような空気でした。

私も列の後ろのほうで、自分の番を待っていました。

しばらくして、私より少し前にいた男性の番になりました。

ところが、男性は皿を受け取る前に、少し強い口調で言いました。

「待たせすぎなんだよ!焼き上がった卵、全部まとめてくれよ」

その声に、近くにいた人たちが一斉に顔を上げました。

職人さんは男性のほうを見ましたが、焼く手は止めませんでした。

「申し訳ありません。他のお客様もお待ちですので、お一人様二切れずつでお願いしています」

男性は納得できない様子でした。

「何分並んだと思ってるんだよ。そこは臨機応変にやってくれればいいだろ」

職人さんは声を荒らげることなく、もう一度答えました。

「申し訳ありません。お一人様、二切れずつでお願いいたします」

そして、いつもどおり二切れをのせた皿を男性の前に差し出しました。

大きな声がしても、流れは変わらなかった

男性の後ろにも、まだ何人もの人が並んでいました。

少し気まずそうに視線をそらす人もいましたが、誰かが男性を責めたり、言い返したりすることはありませんでした。

やがて、声を聞いたのか、会場のスタッフが一人やってきました。

男性のそばまで来ると、落ち着いた声で言いました。

「よろしければ、お皿をお席までお運びします」

責めるというより、この場を離れるよう静かに促しているように私には聞こえました。

男性はまだ何か小さく言っていましたが、二切れの卵がのった皿を持って、その場を離れていきました。

その後も流れは変わりませんでした。

次の人にも二切れ。その次の人にも二切れ。私の番になったときも、白い皿にのっていたのは同じ二切れでした。

近くにいた方が、職人さんのほうを見ながら小さな声で言いました。

「ずっと同じ調子でしたね」

私も、そう思いました。

席に戻って食べただし巻き卵は、まだ温かいままでした。

あの朝、いちばん印象に残ったのは、大きな声を出した男性ではありません。何を言われても決まりを変えず、声を荒らげることもなく、同じ対応を続けていた職人さんの姿でした。

今でも行列の先で誰かが強い口調になっているのを見ると、あの日、黙々と卵を焼き続けていた手元を思い出します。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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