1. トップ
  2. エピソード
  3. セリフのない木の役だった我が子。「オオカミくるよ、みんな逃げて」と突然叫んだ理由に、思わず笑みがこぼれた

セリフのない木の役だった我が子。「オオカミくるよ、みんな逃げて」と突然叫んだ理由に、思わず笑みがこぼれた

  • 2026.9.5

セリフのない「木の役」だと聞いていた

一年前、子どもの通う園で生活発表会がありました。

ホールには保護者が並び、私は後ろのほうの席で幕が開くのを待っていました。

うちの子が演じるのは、木の役です。緑の画用紙で作った衣装を身につけ、舞台の端で両手を広げて立つと聞いていました。

「セリフはないんだよ」

家で本人からそう聞いたとき、私は正直、少しだけ物足りなく感じていました。

それでも本人は、家でも何度も両手を上げて練習していました。当日も幕が開くと、教わったとおりの場所に立ち、じっと木になっています。

客席から見ると、枝に見立てた指先が少し震えているのが分かりました。

突然、台本にはない声が聞こえた

劇が進み、オオカミが登場する場面になりました。

すると、それまで黙って立っていたうちの子が、急に大きな声を出したのです。

「オオカミくるよ、みんな逃げて」

私は思わず姿勢を正しました。

台本にはないセリフです。

舞台にいた子どもたちも驚いたようで、何人かがうちの子のほうを振り返りました。逃げる役の子は少し早めに動き出し、別の子もつられて一歩進みます。

舞台袖にいた先生が手で合図をすると、子どもたちは自分の位置を思い出したように戻り、劇はそのまま続きました。

客席からは小さな笑い声が聞こえましたが、からかうような雰囲気ではありませんでした。

うちの子は自分が何か間違えたことにも気づいていない様子で、そのあとも両手を広げたまま、最後まで木の役を続けていました。

本人には、ちゃんと理由があった

発表会が終わったあとも、私はあの一言が気になっていました。

帰り道で、本人に聞いてみました。

「どうして急に『逃げて』って言ったの?」

すると、少し考えてから答えました。

「だって、オオカミが来るのに、みんなまだいたから」

どうやら本人は、セリフを言おうとしたのではなく、物語の中にいるつもりで、本気でみんなに知らせたようでした。

私はそれを聞いて、少し恥ずかしくなりました。

「セリフがない役だから物足りない」と思っていたのは、見ている私のほうでした。

ただ立っているように見えた木の役にも、本人なりに物語が見えていたのです。

今でも家には、あの日に使った緑の衣装が残っています。それを見るたび、舞台の端から突然聞こえてきた、あの必死な声を思い出します。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ