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中村種之助さんインタビュー「跳ねる!跳ぶ!心も躍る舞踊と役に向き合う真摯な思い」

  • 2026.9.2
Atsushi Yagi (SIGNO)

大切に受け継ぎ続けていく公演

明治・大正・昭和にわたり活躍した名優・初代中村吉右衛門の卓越した芸を顕彰する公演として2006年から20年の時を重ねてきた『秀山祭(しゅうざんさい)』。

「いまとなっては二代目の(中村)吉右衛門のおじさんへの思いも込めた、播磨屋の一門にとっては大切な公演です。もう吉右衛門のおじさんに教わることは叶いませんが、お客さまに喜んでいただき、初代、そしておじさんに恥ずかしくないひと月にしたいと思っています」

昼の部で兄の歌昇さんと踊る『三社祭(さんじゃまつり)』は、浅草の観音像が隅田川の川底から漁師の網にかかって祀られるに至った伝説にちなんだ作品。漁師の兄弟が軽快に踊るうちに悪玉、善玉が取り憑く、というストーリーです。三社祭が行われる浅草神社は初代吉右衛門とも縁が深く境内には句碑もあり、秀山祭で踊るにふさわしい演目といえるでしょう。

「歌舞伎役者にとっては若いころに必ずお稽古する演目で、二人で踊る舞踊の代表作ともいえます。兄と踊るのは、昔NHKの番組で収録したとき以来ですが、ずっと同じ先生に習って同じ芝居を見て育ってきましたので、芸の方向性は一緒のはず。違う芸のぶつかり合いが面白いこともありますが、今回は、息の合った二人を観ていただけると思います」

漁師の暮らしぶりから男女の恋模様、さらに扇を手に飛んで跳ねての「悪玉踊り」と、見どころ満載です。

「昔の先輩たちはすごく脚が上がっていた、といった話を聞くことは多いですが、単にアクロバティックなだけではなくて、清元の歌に乗せて踊ることが大切だと思っています。歌舞伎舞踊の音楽は、激しい踊りは長唄、芝居っぽい作品は常磐津(ときわづ)がついていることが多いというのが僕の印象ですが、『三社祭』は清元には珍しい躍動感が魅力。脚を露出した衣裳なので、形の鋭さや体の居方だったり、腕や脚の扱いも考えながら、躍動しつつ風情ある踊りにしたいですね」

本公演でひと月踊るのは初めて。「僕も30代になりましたし、ただ体を動かす体操のような踊りではなく、清元の風情に乗せた『三社祭』になれば」 『三社祭』善玉 2025年7月「研の會」Yoshihito Sasaguchi

昼の部では『三社祭』の善玉、夜の部では『一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)』のお京を勤める種之助さん。舞踊でも芝居でも、立役から女形まで役の幅の広さは同世代随一です。

「役の幅を目指した時期もありましたが、いまは正直、それはどうでもいいかなと思っています。逆に似たような役ばかり演じるほうが大変かもしれませんよ。“いろいろな役をやってすごいね”と評価されるよりも、一つ一つの芝居や舞踊を観てくれた方にそれぞれの役として喜んでいただくことが大事ですから。『三社祭』なら『三社祭』、『一條大蔵譚』なら『一條大蔵譚』の役としてその物語のなかに存在したい、としか最近は考えていないです」

役へのスイッチはどのように入れているのでしょうか?

「どれもが“役”なので、舞踊と芝居、立役と女形でスイッチを切り替えている感覚はありません。強いて言うなら素の自分が化粧をすることで役に入っていくときにスイッチが入るのかもしれません。舞踊作品も歌舞伎役者が踊るなら、振りの通りに踊るだけでなく、さらにお芝居がかった舞踊になるべきだと僕は思います」

歌詞や音との向き合い方は?

「10代か20代の初めのころに、(藤間)勘祖先生に“アンテナを張りなさい”と言われたことがあるんです。1カ月興行の場合、人間ですからみんな毎日変わります。自分のコンディションに演奏が合わせてくれることもありますし、音の変化で自分が変わっていくことも。音楽はもちろん、お客さまの雰囲気や自分の状態、みんながどこを向いているかまで、すべてを感じ取る、それがアンテナを張るということなのかな。正解はまだわかりませんが」

[今月の裏話]

抜き打ちテストの課題は『一條大蔵譚』

夜の部で出演する『一條大蔵譚』には思い出がいっぱい。

「まだ10代だった2010年に萬屋から播磨屋へと屋号を戻したとき、吉右衛門のおじさんの抜き打ちテストがありました。抜き打ちなのになぜか課題が『一條大蔵譚』というのは事前にわかっていたので必死で稽古して。おじさんの楽屋で兄と僕と米吉と、一人ずつ台詞を言ったのですが、手も足も出ませんでしたね(笑)。ご自身もかなりの回数を演じていらっしゃいましたし、兄との『双蝶会』でも、“勉強になるからやってみたら”と勧めてくださいましたから、『一條大蔵譚』はおじさんにとって思い入れの深い演目なのでしょう」

今回演じるのは、夫の吉岡鬼次郎(よしおかきじろう)とともに常盤御前の真意を探るため屋敷に潜入する、お京。

「今回は『奥殿』の場面だけの上演になりますが、吉右衛門のおじさんは『奥殿』の前に『檜垣(ひがき)』を、父が大蔵を勤めたときには『曲舞(くせまい)』をつけていました。その記憶をもとに、お京が常盤御前と過ごした時間や、鬼次郎や鳴瀬との関係性まで感じていただける芝居ができたらいいなと思っています」

2017年、兄の歌昇さんとの勉強会『双蝶会』に向けて、中村吉右衛門さんによる稽古風景。「吉右衛門のおじさんの思いを 大切に、役と向き合います」と種之助さん。 Yoshihito Sasaguchi

なかむらたねのすけ〇1993年生まれ。中村又五郎の次男。99年2月歌舞伎座『盛綱陣屋』の小三郎で初代中村種之助を名のり初舞台。2015年1月浅草公会堂『猩々』の猩々ほかで名題昇進。二代目中村吉右衛門のもと研鑽を重ね、 播磨屋一門として立役から女形まで幅広い役柄で高い評価を得る。

[今月のおすすめ]

【歌舞伎座】 秀山祭九月大歌舞伎

昼の部の『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』では、『逆櫓』の場面だけでなく歌舞伎座では58年ぶりに前段の『大津宿屋』、『笹引き』から上演。物語がより深まります。夜の部では『伊賀越道中双六 沼津』の十兵衛を片岡仁左衛門さん、松本幸四郎さんがAプロBプロ役替わりで。さらに『一條大蔵譚』と、秀山祭ならではの重厚な義太夫狂言が並びます。

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2026年9月2日(水)~26日(土)(昼の部 11時〜/夜の部 16時〜)※9日(水)、18日(金)は休演

演目/
【昼の部】『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』
『三社祭』『ひらかな盛衰記』

【夜の部】『雛鶴三番叟(ひなづるさんばそう)』
『伊賀越道中双六 沼津』『銘作左小刀 京人形』
『一條大蔵譚』

出演/片岡仁左衛門、中村魁春、中村歌六、
中村萬壽、中村雀右衛門、中村又五郎、片岡孝太郎、
松本幸四郎、尾上松緑、八代目尾上菊五郎ほか

料金/5,000円~20,000円

問い合わせ/チケットホン松竹 tel.0570-000-489(10時〜17時)

公演詳細はこちら

撮影=八木 淳(シグノ) ヘア&メイク=金井那琉 取材・文=清水井朋子 協力=松竹 編集=本田リサ(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年9月号より

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