1. トップ
  2. エンタメ
  3. 一人二役に挑戦した『顔 -かお-』の演技が圧巻!“次世代の演技の神”パク・ジョンミンのキャリアをプレイバック

一人二役に挑戦した『顔 -かお-』の演技が圧巻!“次世代の演技の神”パク・ジョンミンのキャリアをプレイバック

  • 2026.9.2

視覚障害を抱えながら篆刻家(印章を彫る芸術家)として名を馳せた父を支える息子が、40年前に失踪した母の遺体が発見されたことを機に、知らない“母”の顔と、その死をめぐる真実に迫っていく『顔 -かお-』(公開中)。本作は『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)のヨン・サンホ監督が2018年に発表した同名のグラフィックノベルを実写化したサスペンスミステリーであり、主演のパク・ジョンミンが、若き日の父と息子を一人二役で見事に演じ分け、その高い演技力で第62回百想芸術大賞の主演男優賞を受賞した。シリアスからコミカルな役どころまで変幻自在に演じ、韓国映画界では「次世代の演技の神」と言われている彼のキャリアを振り返ってみたい。

【写真を見る】パク・ジョンミンが主人公と父の若き日を一人二役!父と母の知られざる過去が明らかに…(『顔 -かお-』)

顔さえ知らぬ母の死の真相は?(『顔 -かお-』) [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.
顔さえ知らぬ母の死の真相は?(『顔 -かお-』) [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.

『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』で新人賞を独占

1987年3月24日生まれのジョンミンは高麗大学に進学するが自主退学して、韓国芸術総合学校映像院映画科へ。さらに演技科に転科し、劇団活動などを経て俳優の道へと踏み出した。2011年、『狩りの時間』(20)で知られるユン・ソンヒョン監督の『BLEAK NIGHT 番人』(10)で長編映画デビューを果たし、以後、映画、ドラマ、舞台などで着実にキャリアを重ねていく。

スポットライトを浴び始めたのは、2015年にイ・ジュニク監督の『空と風と星の詩人 尹東柱(ユンドンジュ)の生涯』(16)に出演してから。韓国の国民的詩人、尹東柱と、彼に大きな影響を与えた独立運動家の宋夢奎(ソンモンギュ)との青春を描いた作品で、ジョンミンは宋夢奎役を務めた。この役は彼にとっても大役であり、実在の人物を演じるうえでもかなりプレッシャーがあったとのちに述懐している。特に収監中の宋夢奎が面会に来た父親と顔を合わせるシーンでは、1か月で約12kgも体重を落とし、撮影3日前からは水もいっさい飲まずに臨んだという。そうして生まれた真に迫る感情演技は高く評価され、青龍映画賞をはじめ多くの新人賞を独占した。

イ・ビョンホンも大絶賛した「努力する天才」

さらに、『それだけが、僕の世界』(18)には自閉症スペクトラム障害を抱えながらもピアノの天才的な能力を持つサヴァン症候群の青年ジンテ役で出演。専門書などを読み漁り、当事者の気持ちについて考えを巡らせながら難役の表情や仕草を自然に演じたジョンミンだが、ジンテの台詞は「はい~」など短い言葉ばかり。そこに様々な意味を込め、それを観客に伝えてしまう表現力が凄まじかった。それだけでなく、劇中でピアノを弾くシーンもジョンミン自らが演じており、楽譜も読めなかったところから6か月に及ぶ猛特訓の末に演奏をマスター。ジンテとしてオーケストラと一緒にピアノを弾く姿が大きな感動を呼んでいる。そんな彼の役に向き合う真摯な姿勢を兄役で共演したイ・ビョンホンは大絶賛し、以来、「努力する天才」と称されるようになる。

次々と名演技を更新していくパク・ジョンミン。殺し屋ファン・ジョンミンVS彼を仇と狙う追撃者のイ・ジョンジェが苛烈なノワールアクションを繰り広げる2020年の『ただ悪より救いたまえ』では、物語のキーパーソンとなるトランスジェンダーのユイを演じている。ドラァグクイーンのユイは性転換手術のためタイ・バンコクに滞在しており、高額な報酬の代わりにファン・ジョンミン扮するインナムの手伝いをさせられるという役どころ。劇中では妖艶な歌唱パフォーマンスまで披露し、場を一瞬にしてさらってしまった。

また、『密輸 1970』(23)では密輸に手を染める海女たちの弟分チャンドリ役で出演。野心家だがどこか憎めないチンピラをコミカルに演じたのが印象的で、派手な柄シャツにサングラス、オールバックの髪型もインパクト大だった。このほか、大韓義軍の作戦参謀役でヒョンビンやリリー・フランキーと共演した『ハルビン』(24)、北朝鮮国家安全保衛局の男を演じたスパイアクション『HUMINT/ヒューミント』(26)などでも確かな存在感を示してきたジョンミンは、近年の話題作やヒット作では欠かせない存在になっている。

ちなみに、演技に対する飽くなき探求心からか、ジョンミンは出版社の代表も務めている。その出版社「MUZE(無題)」の運営にあたり、2024年には俳優業を一時休業するなど取り組む姿勢は本物で、今年5月には出版社代表として東京出張も行っていた。このような多才さもまた、ジョンミンがファンを惹きつける理由なのだろう。

ヨン・サンホ監督との3度目のタッグとなった『顔 -かお-』

硬軟取り混ぜ、様々なジャンルの作品で魅力を発揮し、名だたる監督たちからの信頼も厚いジョンミン。今回の『顔 -かお-』のヨン・サンホ監督とも、『サイコキネシス -念力-』(18)、2021年にNetflixで配信されたドラマ「地獄が呼んでいる」に続く3度目のタッグだ。本作はサンホ監督が『新感染 ファイナル・エクスプレス』以前から構想していた企画であり原点とも言われる作品で、韓国社会の暗部を鋭くえぐり出している。

視覚障害を乗り越えて、韓国随一の腕を持つまでになった篆刻家のヨンギュと、その父を誇りに思ってきた息子ドンファン。穏やかに暮らしていた父子のもとに、40年前、ドンファンが赤ん坊の頃に行方不明になった母ヨンヒの遺体が発見されたとの知らせが入る。ドンファンは全く知らなかった母の人生を辿るなかで、誰も彼もが「ヨンヒは醜い顔だった」という証言を耳にすることに。母の顔は果たしてどんな顔だったのか。美醜について人々の価値観や意識、差別や偏見が暴かれ、観ているこちらの心理までが試されているような気すらしてくる。

ドンファンはテレビ局のプロデューサーと共に生前の母を調べ始める(『顔 -かお-』) [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.
ドンファンはテレビ局のプロデューサーと共に生前の母を調べ始める(『顔 -かお-』) [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.

主人公と若き日の父役の一人二役に挑戦

当初、ジョンミンは息子役だけをオファーされていたが、「それだけでは自分の演技を十分に見せられない」と監督に直談判して、若き日の父ヨンギュ役との一人二役に挑戦することに(現在の父ヨンギュを演じるのは、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)などサンホ監督作に数多く出演しているクォン・ヘヒョ)。ヨンギュ役を演じるために白濁した特殊レンズやかつらをつけてビジュアルも変え、視覚に頼らず指先の感覚だけで文字を彫る動きもマスター。その真実味のある所作は篆刻の技術を判子店で学んだというだけあり、役作りにかけるストイックさはまさに「努力する天才」の面目躍如(!)というところだ。

篆刻家として大きな成功を収めた父ヨンギュを尊敬し、支えてきた息子のドンファン(『顔 -かお-』) [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.
篆刻家として大きな成功を収めた父ヨンギュを尊敬し、支えてきた息子のドンファン(『顔 -かお-』) [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.

篆刻職人として必死に夢を叶えようとした父ヨンギュと、母との初対面が白骨遺体で始まり、母の容姿について罵倒する言葉ばかり聞かされるドンファン。ジョンミンはそんな父と子の心情の違いや、心の揺れ動きを繊細に表現し、観客を物語へと没入させる。特に終盤の演技は圧巻。ラストシーンも言いようのない余韻がいつまでも残る。

百想芸術大賞の授賞式のスピーチにおいて、「無冠の帝王と言われていたが、受賞したことで欲が湧いた」と語ったジョンミン。次回作はドラマ「サンナムジャ(原題)」で、大企業のCEOまでに上り詰めたものの、一夜にして全てを失った男が20年前にタイムスリップし、新入社員から人生をリセットしていくというストーリーらしい。

久しぶりに痛快なコメディ演技を楽しませてもらえそうな予感。40代へと向かい、今後どんな進化を遂げていくのか。ますます目を離せそうにない。

文/前田かおり

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ