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重岡大毅はどうやって“航”になった?『5秒で完全犯罪を生成する方法』で見せた“役として生きる”演技

  • 2026.9.19

殺人を犯した妹を守るために、兄が生成AIを駆使して完全犯罪を実行に移そうとする『5秒で完全犯罪を生成する方法』(公開中)。「マスカレード・ホテル」シリーズなどで知られる岡田道尚のオリジナル脚本を『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(25)の新鋭、近藤亮太監督が映画化した本作は、私たちの生活に欠かすことができなくなったAIがモチーフの最も今日的なクライムサスペンスだ。

【写真を見る】普通の青年が犯罪行為に手を染めていく姿を演じた重岡大毅

【写真を見る】普通の青年が犯罪行為に手を染めていく姿を演じた重岡大毅 [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3
【写真を見る】普通の青年が犯罪行為に手を染めていく姿を演じた重岡大毅 [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3

2人暮らしの兄、初海航に扮した重岡大毅と妹の幸来を演じた原菜乃華の共演も話題だが、とりわけ重岡の親しみやすいキャラがこの映画の味わいと仕掛けを成立させる重要な役割を担っているのは間違いない。そこで本コラムでは彼の芝居の軌跡を振り返りながら、本作で見せた“俳優、重岡大毅”の魅力をひも解いていきたい。

せつない恋愛ドラマに本格ミステリー、禁忌の呪文をめぐるホラー…ジャンルレスに活躍!

重岡が内に秘めていた俳優の力を覚醒させ、観る者を驚かせたのは2016年の『溺れるナイフ』だろう。閉塞した田舎の環境のなか、不思議な魅力を放つ神主一族の息子コウ(菅田将暉)との叶わぬ恋やある事件の傷に苦しむ夏芽(小松菜奈)。そんな彼女に思いを寄せるクラスメイトの大友を、重岡が絶妙な距離感と屈託のない笑顔で体現している。

落ち込む夏芽を笑顔にする夜のバッティングセンターのシーン、風邪で寝込む彼女を元気づけながら顔を少しずつ近づけ、そっと唇を重ねるキスシーンもとても自然で大友らしさを印象づけた。さらに、一度は付き合った夏芽から突きつけられる別れの悲しみを、全力で吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」をカラオケで歌うことで吹き飛ばし、号泣していた彼女も笑わせてしまうという、映画史に残る一連で多くの観客の涙を誘ったのも印象的だった。いまでは「憑依型」と言われることも多い、彼自身の感情とシンクロさせた没入度の高い芝居の核をこの時点で早くも作り上げていた。

そんな、“いい人”を演じさせたら右に出る者はいない重岡のキャラとアプローチはあらゆるジャンルで爆発!『リング』(98)の中田秀夫監督が清水カルマの同名ホラー小説を映画化した『禁じられた遊び』(23)では、橋本環奈とW主演を務め、心優しい父親役に。幼い息子に冗談のつもりで教えた呪文で蘇る、まるでモンスターのような亡き妻(ファーストサマーウイカ)に脅えまくり、どんどん壊れていく様を醜く歪んだ表情と自然体の芝居で作り上げ、恐怖を生々しいものにしていた。

東野圭吾の同名小説を映画化した密室ミステリー『ある閉ざされた雪の山荘で』(24)の重岡にも目をみはるものがある。7人の役者が最終オーディションの場となる田舎の山荘に集められるが、そこで“本当の連続殺人事件”が起きる。全員が互いに脅え、疑心暗鬼になるなか、ほかの6人とは違う劇団出身の久我に扮した重岡が他者との距離を詰めるのが上手い持ち前の誠実なキャラで状況を整理。まるで探偵のように冷静に謎を暴き、観客を気持ちよく劇中に引き込んでみせた。

そして、実話がベースの『35年目のラブレター』(25)では、戦時中に生まれ、教育をちゃんと受けることができなかったために文字の読み書きができない寿司職人、西畑保の青年時代を好演。読み書きができないことを最愛の妻、皎子(上白石萌音)にも打ち明けられない不器用な保を健気な芝居と全身から感じられる温もりで表現。笑福亭鶴瓶が演じた、現在の保につながる人情味のある人柄や佇まいを作り上げ、観る者をほっこりさせた。

AIで完全犯罪を成立させることが可能か?を問うミステリー

ここまで読んでもらえばわかるように、彼の芝居は親しみやすく、嘘がないから説得力がある。そして、観客が共感できるその信じられる芝居こそが、最初にも書いたように『5秒で完全犯罪を生成する方法』には不可欠だった。

幸来を守ろうと考えた航は、AIに完全犯罪を成立させることを思いつく [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3
幸来を守ろうと考えた航は、AIに完全犯罪を成立させることを思いつく [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3

フリーライターの航は夜、自転車を漕ぐ仕事の帰り道で悲痛な声で助けを求める妹、幸来の電話を受ける。すぐに妹のもとに駆けつけた彼が目にしたのは、彼女が通う高校の教師の死体。暴行されそうになり、揉み合ううちに意図せずに教師を殺してしまったという幸来の告白を聞いた航は、悩んだ挙句に事件の隠蔽に踏み切る。

原菜乃華演じる航の大切な妹、幸来 [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3
原菜乃華演じる航の大切な妹、幸来 [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3

本来なら自首を促すところだと思うが、彼がそうしなかったのは、幼少期に両親を亡くし、ずっと2人で生きてきた妹を犯罪者にしたくなかったからだろう。“小説のアイデア”という形で相談し吐き出されたAIの指示に従い、猟奇的な犯行と思わせるために死体の親指を切断すると、死化粧を施し、指紋を拭き取りアリバイを工作。警察の取調も無事にやり過ごすが、やがて警察から自分たちの手口が世間を騒がせている連続殺人事件と同じだと知らされ、思いもよらぬ悪夢に苦しめられることになっていく…。

緻密な分析によって大切な妹のために完全犯罪を目論む兄を好演

思いついたことを細かくノートに書き留め、航というキャラクターを掴んでいったと明かした重岡 [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3
思いついたことを細かくノートに書き留め、航というキャラクターを掴んでいったと明かした重岡 [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3

事件の隠蔽という完全犯罪を決行する航の行為はAIが身近になった現代なら誰もが実際にできることだが、容易く手を染められるものでもない。そんな、私たちと変わらない“普通の人”が普通は選ばない道を選んでしまい、引き返せなくなるという難しい流れを重岡は絶妙なバランスで成立させている。それができたのはこれまでに築き上げた俳優のポテンシャルと、彼が航の選択と行動に説得力を持たせる術を熟考し、その結論をノートに書き込み続けたから。そんな重岡の芝居を見て、近藤監督も「航には“これをやらない”という瞬間がない」と絶賛!逆の言い方をするなら、航ならやりそうなことばかりで映画は展開していくのだ。

殺害現場で幸来に“正当防衛が成立するかどうかを調べる”と必死になり、自首しようとする彼女に「お前はなにも悪くない」と諭す航。この一連では重岡は航の兄としての優しさを全身に滲ませ、AIの精度が足りないことに気づくくだりでも、「上手くいくとは思っていない」と不安と焦りを口にしながらも、最後には「お前だけは必ず守ってやる」と言って幸来を元気づける。

警察の疑いの目をかいくぐろうとする航 [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3
警察の疑いの目をかいくぐろうとする航 [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3

刑事が訪ねてきた際には、答えを準備していたように思われないよう、質問にスラスラ答えてはいけないと冷静に忠告する姿にも頼もしさを感じるが、一人PCに向き合うシーンでは、妹の前では決して見せない眉間に皺を寄せて苦悩する表情に。さらに、その後の思いがけない状況や人物と対峙するシーンでも、その揺れ動く感情をその時々の航の立場で吐露。「憑依型」と呼ばれる重岡の本領が遺憾なく発揮されていて、一瞬も目が離せなくなる。

『5秒で完全犯罪を生成する方法』は公開中! [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3
『5秒で完全犯罪を生成する方法』は公開中! [c] 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3

たぶん、重岡は役をただ演じることをよしとしないのだろう。限りなく役になりきり、その人物がなにを考え、その事態に直面した時にどんな行動を取るのかを綿密に分析。あるいは、この人物は性格上、こんなことはしないだろう、ということまで見極め、それをフレンドリーな自らのキャラと整合させて、役として“生きる”ことに全身全霊で臨んでいるに違いない。だから、どこまでも信じられるし、可能性が今後も無限に広がっていて、誰にだってなれる。

いずれしても、重岡大毅が徹底した役に対するリサーチと繊細な演技力によって生成させた本作の“航”は、現時点での最も精度の高い完成形。彼の危険な選択を目撃し、肌で感じ、自分の身にも起こりかねないリアルな恐怖と緊張感を全身で体感してほしい。

文/イソガイマサト

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