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男性育休「取得日数アップ」でも全く喜べない…スペインの父親の育休が「ワールドカップ期間に上昇」する事情

  • 2026.9.1

日本の男性の育休取得率が5年で4倍になり50.9%となっている。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「育休取得率が上昇しただけでは喜べない。取得日数と取得中に何をしたか、取得による効果に注視していく必要がある」という――。

育児や家事を分担する若い夫婦
※写真はイメージです
男性の育休取得は増えたが…

日本では、男性が育児休業を取得することが、もはや珍しいことではなくなってきました。

男性の育児休業取得率は、2020年度の12.7%から2023年度には30.1%、そして2025年度には50.9%まで上昇しています(図表1)。わずか5年ほどで4倍近くに増えた計算です。男性の育児参加を促す政策が着実に広がっていると言えるでしょう。

【図表】男性の育児休業取得率の推移

しかし、ここで気になる数字があります。

2025年度に男性が取得した育児休業のうち、1カ月未満の取得が48.8%を占めているのです(厚生労働省「雇用均等基本調査」)。

つまり、男性の育休取得率が50%を超えたとはいっても、「男性が長期間にわたって育児を担う」というところまでは、まだ十分に進んでいない可能性があります。

もちろん、短期間の育休にも意味はあります。出産直後の母親を支えたり、出生直後の子どもの世話をしたりすることは、父親にとって重要な役割です。

しかし、育児休業の目的が、父親の育児時間を増やし、母親に偏りがちな家事・育児の負担を分担することにあるとすれば、「育休を取ったかどうか」だけでなく、「どれくらいの期間、そしてどのように育休を使ったのか」も重要になってきます。

では、男性がもっと長く育休を取れば、家庭内の男女格差は本当に縮まるのでしょうか。

その答えを考えるうえで、興味深い事例があります。

スペイン男性育休「4カ月取得」の結果

注目したいのがスペインです。

スペインでは2017年以降、男性の育児休業制度が段階的に拡充され、2021年には母親に譲渡できない「父親専用」の有給育休が16週間(約4カ月)まで延長されました(*)。

(*)2017年の4週間から毎年延長され、2020年に12週間、2021年に16週間となりました。なお、2024年には19週間まで拡大されています。

日本も制度上は子どもが原則1歳(最長2歳)になるまで育休を取得可能ですが、男性の実際の平均取得期間は2カ月程度にとどまります(マイナビ転職「育休取得と満足度に関する実態調査(2026)」)。

一方、スペインの父親たちの多くは制度上の上限である約4カ月間をほぼフルに取得する傾向にあります(*1)。

「それだけ長く父親が育休を取得できるなら、母親に偏りがちな家事・育児の負担も減るのではないか」

そう考えるのが自然でしょう。

ところが、最新の研究を詳しく分析すると、意外な結果が見えてきました。

父親の育児休業期間が大幅に長くなったにもかかわらず、出産後に生じる男女の所得格差は、縮小していなかったのです。

しかも、研究をさらに詳しく見ると、父親と母親では、同じ「16週間の育休」でも、その使い方が大きく違っていることが分かりました。

さらに驚くことに、父親の育休取得は、育児とはまったく関係のない「ある意外なイベント」の時期に増えていたのです。

今回は「スペインの男性育児休業取得の意外な実態」から見えてくる、男性育児休業の課題について考えていきたいと思います。

女性の負担は減っているのか

スペインの男性育児休業について分析を行ったのはポンペウ・ファブラ大学のリベルタード・ゴンサレス准教授らです(*1)。

先ほども述べたとおり、スペインでは2017年から2021年にかけて、父親の育児休業制度が段階的に拡充され、多くの男性が約4カ月間の育児休業を取得するようになっています。

たった4カ月の育休でも実際に育児に向き合うことで、その後の働き方、育児・家事へのかかわり方への積極性が増すと考えられます。その結果として、女性の負担が軽くなり、男女の働き方の格差が縮小するはずです。

このため、育休制度が拡充された後に子どもを持った世代では、出産後の男女の所得格差が小さくなっている可能性があります。

ところが、結果は違いました。

「チャイルドペナルティ」は変化なし

父親の育休期間を大幅に延長しても、出産後の男女の所得格差には明確な改善が見られなかったのです。

2017年から2021年までの5回の制度拡充について調べても、制度拡充前後で、出産後の父親と母親の所得の推移に目立った違いはありませんでした。

つまり、父親が取得できる育休を4週間から16週間へと大幅に増やしたにもかかわらず、出産によって生じる男女の労働市場上の格差、いわゆる「チャイルドペナルティ」は小さくなっていなかったのです。

労働市場上における男女格差のイメージ
※写真はイメージです

それはなぜなのでしょうか。

そのヒントは、「父親が育休を取得したかどうか」ではなく、「どのように育休を使ったのか」にありました。

父親と母親では「同じ16週間」でも使い方が違う

2021年以降のスペインでは、父親と母親にそれぞれ16週間の有給育休が認められています。

ただし、16週間すべてを同じように取得する必要はありません。

出産直後の6週間は連続して取得する必要がありますが、残りの10週間は子どもが1歳になるまでの間に取得できます。一度にまとめて取得してもよいですし、複数回に分けても構いません。パートタイムで取得することもできます。

ここで父親と母親の違いがはっきりと現れました。

母親は、出産直後からまとまった期間、フルタイムで休む傾向が強い。一方、父親は育休を細かく分割する傾向が強くなっていました。

複数回に分けて育休を取得した割合は、父親では約50%だったのに対して、母親ではわずか6%でした。また、育休の一部をパートタイムで取得した割合も、父親が10%だったのに対して、母親は2%未満でした。

つまり、制度上は「父親も母親も16週間」と対称的になっていても、実際の使い方はかなり違っていたのです。

母親にとって育休は、出産直後の育児を担うためのまとまった休業になりやすい。

それに対して父親の場合は、仕事を完全に離れるのではなく、必要な時期に小刻みに使う柔軟な休業になっている可能性があります。

そして、ゴンサレス准教授らはさらに興味深い事実を発見します。

なぜか父親の育休は「夏」に増えていた

父親と母親が、年間のどの時期に育休を取っているのかを詳しく調べると、父親の育休には明確な特徴がありました。

父親の育休取得は、夏になると増えていたのです。

一方、母親の育休には、このような夏の集中はほとんど見られませんでした。

もちろん、夏に育休を取ること自体は何も悪いことではありません。子どもの学校や保育施設が休みになれば、父親が育児を担う必要も出てきます。

そこでゴンサレス准教授らは、「育児とは明らかに関係の薄いイベントがあったときにも、父親の育休取得が増えるのか」を調べました。

ここで利用されたのがスペイン人にとって非常に身近なイベントだったのです。

ワールドカップ開催中だけ父親の育休が…

2022年11月20日から12月18日まで、カタールでサッカー・ワールドカップが開催されました。

サッカー人気の高いスペインでは、多くの人がこの大会を楽しみにしていました。しかも、2022年大会は冬に開催されたため、通常の夏休みとは重なりませんでした。

さらに、スペイン時間では試合の多くが午前11時から午後8時の間に行われ、一般的な勤務時間と重なっていました。

サッカーの試合をスタジアムで観戦する人々
※写真はイメージです

ゴンサレス准教授らは、このワールドカップ期間中に父親の育休取得がどう変化したのかを、日単位で分析しました。

すると、驚くべき結果が出ました。

ワールドカップの開催期間中、父親の育休取得者数は、周辺の日と比べて1日当たり1000人以上増えていたのです。増加幅は約1.3%でした。しかも、この増加は母親の育休では確認されませんでした。

もちろん、この結果だけから「父親が育休を取ってサッカーを見ていた」と断定することはできません。

しかし、夏に父親の育休が増えること、育休を複数回に分ける割合が高いこと、パートタイム取得も多いこと、そして余暇イベントであるワールドカップの期間に取得が増えたことを合わせると、父親の育休の一部が、育児以外の目的にも使われている可能性が浮かび上がります。

「育休を取った」と「育児をした」は別

この研究が示している最も重要なポイントは、「男性の育休取得率が上昇しても、それだけでは父親の育児参加が増えたとは限らない」という点です。

「育休を取得している時間」と「実際に育児をしている時間」は同じではありません。

本当に重要なのは、男性が育児休業を取得し、その結果として家庭の中で何が変わったのかです。

父親が子どもの食事や入浴、寝かしつけ、送迎、病気への対応などを実際に担ったのか。それによって母親の負担が減ったのか。そして、育休が終わった後も父親の育児参加が続いたのか。

このような変化が実際にあったのかが男性の育児休業取得の効果に大きく影響していくでしょう。

日本でも育児休業取得率が増加しており、大変良い変化だと言えるのですが、スペインの事例からもわかるとおり、本当に重要なのは「父親が育児を行っているのか」という点です。

「父親がしっかり育児を行う育児休業」が今後増えていけば、日本の男女間格差も解消に向かっていくのではないでしょうか。

〈参考文献〉
(*1) González, L., Guirola, L. & Hospido, L. Paternity leave and fathers’ behavior: evidence from leave timing and a major sports event. Rev Econ Household(2026).

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。

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