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あの階段状マンション、なぜ段々?意外と知らない“まっすぐ建てない理由”、一級建築士に聞いてみた

  • 2026.9.11
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

街中を歩いていると、上の階にいくにつれて建物が少しずつ後退し、階段のような形になっているマンションを見かけることがあります。

まっすぐ上に伸びるマンションも多いなか、なぜこのような「段々」の形にするのでしょうか。特徴的なデザインにも見えますが、実は建物の高さに関するルールや、周辺の日当たりなども関係しているようです。

では、階段状のマンションはどのような理由で生まれるのでしょうか。また、この特徴的な形は、実際にそこで暮らす人にどのようなメリット・デメリットをもたらすのでしょうか。設計事務所での設計実務に加え、自治体で10年以上にわたり建築確認審査などの建築行政に携わってきた、一級建築士の溝下翔太さんに伺いました。

マンションの「段々」はデザインじゃない?上の階ほど後退する理由

---上の階にいくほど少しずつ後退し、階段のような形になっているマンションを見かけます。このような形になるのは、デザイン上の理由なのでしょうか?

溝下翔太さん:

「結論から言うと、あの段々はデザインではなく、建物の高さを制限する法律のルールに合わせて上の階を削った結果です。日本の建築基準法には、道路の向かい側や隣の敷地との境界線から空に向かって斜めに線を引き、建物はその内側に収めなさいという『斜線制限』があります。冬至の日に隣の土地へ落とす影の時間を抑える『日影規制』や自治体独自の高さ制限もあり、敷地の上には『見えない斜めの天井』がかかっているわけです。

一方、マンションを建てる側は商売ですから、少しでも多くの部屋を売りたい。敷地に建てられる床面積の上限(容積率)は1㎡も残さず使い切りたいのが本音です。斜めの天井の下に平らな床を重ね、ぎりぎりまで部屋を詰め込んでいくと、上の階ほど引っ込んだ階段状、いわゆる『ひな壇』のできあがり。まっすぐ建てたければ上の階を削って部屋を減らすしかなく、それは売り上げを削るのと同じこと。段々になっている側には、たいてい日当たりや風通しを守るべき隣の敷地があります。

ちなみに2003年に、道路や隣地から見上げた空の広さを計算して斜線の代わりにできる『天空率』が認められ、まっすぐ建てやすくなりました。段々のマンションに1980〜90年代生まれが多いのはそのためでもあります。ただし日影規制には使えないので、ひな壇マンションは今も誕生し続けています」

「段々」の形は日当たりのため?周辺の住宅を守るルールとの関係

---マンションが階段状になっていることには、周辺の住宅の日当たりや風通しも関係しているのでしょうか? 具体的にどのようなルールによって、この形が生まれるのか教えてください。

溝下翔太さん:

「大きく関係しています。段々の正体は、隣の家と道路の『日当たりと風通しを守る約束』です。この約束がなければ、隣に高いビルが建った翌日から、家の中が一日中夕方のようになってしまいます。

約束の1つ目は『斜線制限』。道路の向かい側の端や、隣の敷地との境目から、空に向かって斜めにロープを張ったところを想像してください。建物はこのロープの下をくぐらなければなりません。低い階は境目のそばまで建てられても、高い階ほど境目から離れる必要があり、結果として上の階ほど引っ込んだ、階段のような形になります。

2つ目は『日影規制』。1年でいちばん影が長くなる冬至の日を基準に、隣の土地が建物の影に入る時間を『朝8時から夕方4時のうち数時間まで』と決めています。影は北に伸びるので、北側の階を削って影を短くします。北側だけが段々になっているマンションは、この影の調整でできた形なのです。

つまり守られているのは隣人の日当たりであって、住む人のものではありません。段々ができるのは北側や道路側が多く、せっかくの広いテラスが北向きという建物も珍しくありません」

広いルーフバルコニーは魅力的だけど…「段々マンション」に住む際の注意点

---階段状のマンションには、住む人にとってどのようなメリット・デメリットがありますか? また、部屋を選ぶ際に確認しておきたいポイントを教えてください。

溝下翔太さん:

「最大のメリットは、後退した部分に生まれる広いルーフバルコニーです。空が広く、椅子とテーブルを出せば自宅がカフェのテラス席に早変わり。上の階ほど戸数が少なく静かで、段々の外観は隣近所への圧迫感も小さいのが利点です。

ただし、その特等席は『下の部屋の屋根を借りているだけ』というのが最大の落とし穴です。防水が傷めば真下の部屋に雨漏りし、形が複雑なぶん外壁や防水の修繕費もかさむため、修繕積立金は高めになりがちです。ルーフバルコニーは共用部分を専用で使う扱いが一般的で、月々の使用料がかかることが多く、バーベキューや重い植木鉢の禁止など規約の縛りもあります。排水口の落ち葉掃除は住む人の担当で、詰まれば階下への漏水ということになります。真下の部屋は、上のテラスの椅子を引く音や足音が天井から降ってくるうえ、屋根が近いので夏は暑く冬は寒くなりやすい点も注意が必要です。

なお、段々だから地震に弱いということはなく、1981年以降の耐震基準の建物なら上下の重さの偏りも構造計算で確かめられています。

部屋選びでは、まずテラスの向きを確認してください。北向きなら日当たりは期待薄です。中古なら防水の修繕履歴と長期修繕計画は必読。ルーフバルコニー付きなら使用料と規約を、その真下の部屋なら寝室がテラスの下にないかを確かめると安心です」

特徴的な「段々」には、建築上の理由があった

上の階ほど後退していくマンションの形は、単なるデザインではなく、斜線制限や日影規制など、建物の高さや周辺環境に関するルールに対応した結果として生まれているとのことです。限られた敷地の中で床面積を確保しながら、周辺への日当たりや風通しなどにも配慮することで、特徴的な「ひな壇」の形になることがあります。

住む側にとっては、後退した部分に広いルーフバルコニーが設けられるなどのメリットがある一方、防水や修繕、使用上のルールなど、確認しておきたい点もあります。

一見すると特徴的なデザインに見えるマンションも、その形にはさまざまな理由が隠されています。物件を選ぶ際には間取りや広さだけでなく、建物の形やテラスの向き、修繕計画などにも目を向けてみるとよいでしょう。


監修者:溝下 翔太

一級建築士・建築基準適合判定資格者。大学卒業後、設計事務所で5年間、住宅などの設計実務を経験。その後、自治体職員として10年以上にわたり建築確認審査や住宅政策などの建築行政に携わり、「設計する側」と「審査する側」の両方の視点から数多くの建築物を見てきた。現在は「United Archi.Lab」として独立し、住宅・建築分野の記事執筆や監修を中心に活動。執筆実績は400本以上。

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