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「こちらの席、空いていますか?」誰も声をかけられなかった混雑した電車。だが、たった一言で変わった車内の空気

  • 2026.8.31
「こちらの席、空いていますか?」誰も声をかけられなかった混雑した電車。だが、たった一言で変わった車内の空気

隣の席には、大きな旅行バッグが置かれていた

仕事帰りの電車でのことです。夕方の車内は混み始めていて、私は扉の近くでつり革につかまっていました。

途中の駅から、大きな旅行バッグを持った男性が乗ってきました。両手で抱えるような大きさの、布製のボストンバッグです。

男性は空いていた席に座ると、そのバッグを隣の座席に置きました。

乗ってきたばかりのころなら、まだ空席もありました。ただ、駅に停まるたびに人が増え、やがて立っている人のほうが目立つようになってきました。

それでもバッグは隣の席に置かれたままです。

男性は疲れているのか、ずっと下を向いていました。周囲が混んできたことに気づいていないのかもしれません。

次の駅で、年配の女性が乗ってきました。

女性はつり革に手を伸ばしましたが届かず、近くの手すりを握りました。電車が揺れると少し体が傾き、そのたびに手すりを握り直しています。

私は、バッグが置かれている席と女性を交互に見ました。

「あの席、空いていますか」と聞けばいい。

頭ではそう思うのに、知らない人へ注意するようで、どうしても声が出ませんでした。

「誰かが言ってくれたらいいのに」

そんなことを考えながら、私はつり革を握り直していました。

「こちらの席、空いていますか?」

すると、少し離れたところに立っていた乗客が男性のそばへ近づきました。

そして、バッグが置かれている席を指しながら、穏やかに声をかけたのです。

「すみません。だいぶ混んできましたけど、こちらの席、空いていますか?」

男性は「え?」というように顔を上げました。

周囲を見回し、それから隣のバッグに目を落とします。

「あ……すみません。気づいてませんでした」

そう言うと、男性は慌てた様子でバッグを持ち上げ、自分の膝の上に載せました。

声をかけた乗客は、「ありがとうございます」と軽く頭を下げました。

そして自分が座るのではなく、先ほどから手すりにつかまっていた女性のほうを見ました。

「よかったら、どうぞ」

女性は一瞬驚いた顔をしてから、ほっとしたように笑いました。

「まあ、いいんですか。ありがとうございます。助かります」

そう言って席に腰を下ろすと、バッグを移した男性にも「ありがとうございます」と頭を下げました。

男性も少し照れたように、「いえ」と小さく会釈を返しました。

言い方ひとつで、空気は変わる

それだけのやり取りでした。

誰かが男性を強く責めたわけでもありません。「荷物をどけてください」と注意したわけでもありません。

ただ、「この席は空いていますか」と尋ねただけです。

男性も、周囲がここまで混んでいることに本当に気づいていなかったのかもしれません。声をかけられたあとは、バッグを膝の上に置いたままにしていました。

私はその様子を見ながら、少し恥ずかしくなりました。

ずっと「誰かが言ってくれれば」と思っていたのに、自分は何もできなかったからです。

注意するとなると身構えてしまいます。でも、責めるのではなく、必要なことを普通に尋ねるだけなら、自分にもできたのかもしれません。

その日、私は最後まで立ったままでした。

それでも、年配の女性が安心したように座っている姿を見ながら、たった一言でも、言い方ひとつでその場の空気はずいぶん変わるのだと感じました。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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