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「私には過失ないと思いますよ」車同士は“未接触”なのに修理費50万…40代男性を襲った交差点事故の思わぬ結末

  • 2026.9.17
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出典:PIXTA(※画像はイメージです)

「私には過失ないと思いますよ」

事故の現場で、Bさん(20代・男性)がそう言ったと、私は契約者のAさん(40代・男性)から聞きました。

Bさんの車は、Aさんの車と接触していません。ぶつかっていない以上、自分に責任はない。そう考える人は少なくないはずです。しかしこの事故では、Bさんに6割の過失が認められ、Aさんは自分の車の修理費のうち20万円超を自分で払うことになります。

今回お話しするのは、以前に損害保険会社で事故対応を担当していた私が受け持った、“車同士が接触していない事故”です。この一件は過失についてだけでなく、車両保険の意義についても考えさせるものでした。

左に切ったハンドルの先に

ある年の9月の日中、11時ごろのことでした。現場は、信号機も一時停止規制もない、同じ幅の道路が交わる交差点。四つ角には建物や塀があり、交差する道路の様子は、交差点の直前まで進まないと見えません。

直進で通過しようとしていたAさんが、右の道路から来るBさんの車に気づいたのは、すでに交差点へ差しかかったあとでした。ブレーキを踏んだものの、止まりきれない。Aさんはそのまま交差点を抜けることを選び、同時に、少しでもBさんの車から離れようと左へハンドルを切ります。

その先、Aさんから見て左前方には電柱が立っていました。Aさんの車は左側面が電柱に接触。大きく損傷してしまいました。一方のBさんも急ブレーキをかけたため、車同士は接触しておらず、接触したのはAさんの車と電柱だけです。

現場では連絡先の交換をしましたが、Bさんは終始自分に過失はないと話していたとAさんから聞きました。

「電柱にぶつかったのは自分の車で、確かにBさんとは接触していません。それでもBさんの運転の影響がなかったとは言い切れないと思います」

Aさんは電話口でそう話しました。接触がないことを根拠に過失を否定するBさんと、事故の原因はBさんの運転にもあると考えるAさん。主張は食い違ったままでした。

接触がなくても過失割合は適用される

信号機も一時停止規制もなく、道路の幅が同じ交差点では、左方から進行してくる車が優先されます(道路交通法36条)。Aさんから見てBさんが右方から進入した以上、優先されるのはAさん側です。

このような交差点で直進車同士が出会い頭に接触した場合、見通しの悪い交差点では双方に徐行などの安全確認義務があるため、基本の過失割合は4:6(Aさん:Bさん)とされています。

では、車同士が接触していない場合はどうなるのか。車同士の接触がなくても、相手の運行と生じた損害との間に因果関係が認められれば、賠償責任が生じることがあります。避けようとしてハンドルを切った結果の損害も、その対象となるのです。

とはいえ、何が起きたのかを具体的に示す客観的な証拠が必要になります。

話し合いは記録で動いた

幸いAさんの車には、ドライブレコーダーが搭載されていました。映像に映っていたのは、Bさんが速度を緩めずに交差点へ進入しようとする様子です。

私はBさんへ連絡し、この交差点では左方が優先されること、接触がなくても過失が認められる場合があることをお伝えし、加入している保険会社への相談を依頼しました。

後日、Bさんの保険会社から私あてに連絡があり、話し合いを経て、過失割合は4:6で決着します。

電柱の損害は約30万円。今回のケースでは、過失の大きいBさん側の保険会社がいったん全額を賠償し、Aさんの保険から4割を回収する流れになりました。Aさんの責任額は約12万円、Bさんは約18万円です。Aさんは対物保険を使用しており、免責金額の設定もなかったため、自分の持ち出しはありません。

6割を認められても車は直らない

しかし、Aさんにとっての問題はここからでした。Aさんの車は、左側面の損傷で修理費が50万円を超えていたのです。過失割合は4:6。このうち6割にあたる30万円余りは、Bさん側から支払われます。

一方で、修理費の4割にあたる20万円超については、車両保険未加入のため、Aさんの自己負担になることを説明しました。

「相手のほうが悪かったと認められたのに、こんなに大きな金額を自分で払うんですか」

「相手に過失が認められた」ことと、「自分の車が直る」ことは、同じではありません。相手の過失が6割でも、残る4割は自分の損害として残ってしまうのです。

本当に車両保険があれば良かったのか

Aさんは車両保険に加入していませんでした。しかし、本当に車両保険に入っていれば損をしなかったのでしょうか。

車両保険を付ければ、その分次保険料は上がります。あわせて設定する免責金額によっては、小さな損害は自己負担になる場合もあります。

そのうえで、Aさんのケースを見てみましょう。

Aさんは電柱への賠償で対物保険を使っており、翌年からの等級ダウンは、この時点ですでに決まっていました。そして1つの事故については、対物保険と車両保険のどちらを使っても、あるいは両方を使っても、「使用した」という事実で3等級ダウンと判定されます。つまり、Aさんが車両保険を付けており、使用したとしても3等級ダウンのままです。等級面での追加負担なしに、自分の車の修理費も受け取れていた可能性が高いということになります。

ただし、これは「車両保険を付けていれば必ず得だった」という一般的な話ではありません。免責金額の設定次第では自己負担が残りますし、保険料そのものは加入している限り発生し続けます。使うかどうかの判断は、事故ごとの損害額と保険料の増減を比べて決めるものです。

保険料が上がっている時代だからこそ

自動車保険の保険料は上がり続けています。

少しでも保険料を減らすために、車両保険を外そうと考える人がいて当然の状況です。その一方で自然災害は増えており、車両保険そのものの必要性は高まっているという、一種の「ねじれ」が発生しているのです。

補償範囲が限定された保険料の安いエコノミー型の選択や、免責金額の設定によって保険料を抑える工夫もできます。しかし、それ以上に重要なのは、補償内容を確認したうえで、自分の運転歴や車の使用頻度、車の年式などを踏まえて、「自分に合った車両保険」を選択することです。

車両保険は入るか入らないかの時代ではなく、どう選択するかの時代に変わってきているのです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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