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「少しだけ」に7回応じた私、水族館を諦めて返した8回目の言葉

  • 2026.8.21
ハウコレ

玄関先で「お仕事、家でできるんだもんね。うらやましい」と言われても、私は戸を押さえたまま見送りました。水族館の予定まで諦めたあと、8回目の依頼に送ったのは、短い断りでした。

冷蔵庫の扉には、予定の日を過ぎた水族館の前売り券が残っていました。

「少しだけ」で始まった夏休み

娘と同じクラスの男の子の母親から、夏休みの初日にメッセージが届きました。私は在宅で事務の仕事をしており、夏休みは仕事をしながら娘と過ごす予定でした。

返事を考えていると呼び鈴が鳴り、玄関にはリュックを背負った男の子と母親が立っていました。

「少しだけ、お願いできない?」

事情を聞き終える前に、私は男の子を家へ上げました。娘と2人で宿題を始めたため、これなら大丈夫だと思ったのです。ところが、パートが終わるまでという話だったのに、迎えが来たのは夕食の支度を始めたころでした。

仕事を中断して飲み物を用意し、宿題の質問にも答えました。それでも、困っている相手を断るほうが気まずく、その日は何も伝えずに見送りました。

水族館を諦めた7回目

次の日も依頼が届きました。3回目からは事情の説明がなくなり、「明日も、少しだけいい?」とだけ書かれるようになりました。

返すのは、いつも「大丈夫だよ」という承諾です。仕事を中断する回数は増えましたが、一度応じた相手へ途中から断るのは悪い気がしていました。

7回目の依頼が届いた日は、娘と水族館へ行く予定でした。前売り券も買っていました。それでも予定を伝えず、「大丈夫だよ」と送りました。

玄関で靴を履いていた娘は、男の子が来ると私を見上げました。

「今日、水族館じゃないの?」

券を冷蔵庫へ戻すと、娘は靴を脱ぎ、男の子の隣で宿題を開きました。

迎えに来た母親は、玄関先で言いました。

「お仕事、家でできるんだもんね。うらやましい」

私は戸を押さえたまま、何も伝えずに見送りました。

8回目に送った断り

再び「明日も、少しだけいい?」と届きました。やり取りをさかのぼると、引き受けたのは7回です。

忙しいと書けば、在宅勤務なのにと思われそうでした。家族の予定を出せば、預かりたくないだけだと受け取られそうです。断る文面を何度も書き直し、最後に残った言葉を送りました。

「今年の夏は、うちの家族のために時間を使いたいの」

返事はすぐに届きました。

「え、急にどうしたの?」

急ではありません。ただ、私は7回の間、仕事を中断していることも、水族館を諦めたことも伝えていませんでした。断らずに応じ続けたのは私です。それでも、残りの夏休みまで同じ形にはしたくありませんでした。

そして...

数日後、公園の水飲み場で顔を合わせました。男の子は娘に手を振り、そのまま滑り台へ走っていきました。

「この前はごめん」

母親はそれだけ言い、男の子のあとを追いました。それから、預かってほしいという連絡は届いていません。

水族館の券は買い直しました。冷蔵庫の扉には、新しい券と娘が書いた夏休みの予定表が並んでいます。水族館の日には、今度こそ大きな丸がついています。

(30代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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