1. トップ
  2. エンタメ
  3. 吉祥寺シアター・小西力矢、劇場職員と劇団主宰の2つの視点から見る可能性「人生を託せる場所が必要だと感じた」

吉祥寺シアター・小西力矢、劇場職員と劇団主宰の2つの視点から見る可能性「人生を託せる場所が必要だと感じた」

  • 2026.8.13
小西力矢 クランクイン! width=
小西力矢 クランクイン!

8月14日より吉祥寺シアターにて、吉祥寺ファミリーシアター2026『星の王子さま』(脚本・演出・音楽:小西力矢)が開幕する。――「本当に大切なことは、目に見えないんだ」星々とその光のように時を越えて語り継がれる物語の力、創作に込められた想い、吉祥寺ファミリーシアターの魅力、そして今後の展望とは? しあわせ学級崩壊の解散後、劇場職員として公共劇場の新たな在り方を模索しながら、自身の表現の個性と可能性を追求する小西力矢(吉祥寺シアター/まばゆいクラブ)に話を聞いた。

【写真】劇場職員でありクリエイター 小西力矢、インタビューショット

吉祥寺ファミリーシアターは吉祥寺シアターの主催公演で、子どもから大人までみんなで演劇を楽しめる夏休みの恒例企画。今年は、サン=テグジュペリの名作『星の王子さま』を小西力矢の情緒と疾走感溢れる脚本・演出・音楽と、加藤睦望(やみ・あがりシアター)、金本大樹(まばゆいクラブ)、徐永行(ザジ・ズー/サンバーチャイチャイ/さるさるさる松井絵里)、田久保柚香、新部聖子(少年王者舘)、端栞里(南極)、宝保里実、村山新(まばゆいクラブ)の今をときめく個性豊かな8名とともに鮮やかに彩る。

■「だれか」ではなく「あなた」へ“劇場だからこそ見られる夢”を

――『スーホの白い馬』、『銀河鉄道の夜』に続き、小西さんが吉祥寺ファミリーシアターを手がけられるのは今年で3回目です。まずは、その経緯からお聞かせ下さい。

小西:吉祥寺ファミリーシアターが始まったのは2018年で、年間の主催公演の中でも割と大きな恒例の公演として育んできたという歩みがあります。そんな中で、僕が脚本・音楽・演出などをやらせてもらうようになったのは2024年からでした。僕は、しあわせ学級崩壊という劇団の解散とほぼ同時期に吉祥寺シアターの職員になったのですが、支配人から「劇団を主宰していたのだから、劇作ができる劇場職員という強みをファミリーシアターで活かしてみたら」と提案をいただいて、挑戦することにしました。そうした背景もあり、しあわせ学級崩壊で演劇を作っていた時となるべく同じような気持ちで、自分がやりたい表現や創作を忠実に突き詰めていけたらと思って取り組んでいます。

――作品の選定も小西さんがされているそうですが、どういったことを意識して選んでいるのでしょう?

小西:劇作に携わる以上は、自分の個性や世界観を面白く表現できる作品を選びたいと思っていて、今回も過去作と同様にそのような気持ちで『星の王子さま』に決めました。クリエーションに向かう姿勢は劇団で作品を作っていた時と概ね変わらないのですが、受け取ってくれる人の数を少しでも多く増やすことや間口を広げることが「ファミリーシアター」という取り組みだとも思っています。

僕がその上で大事にしているのは、ゾーニングのようなものをなるべくなくすこと。もちろんお子さんも対象ですし、音楽の音量や空間のデザインなど、アクセシビリティ面も含めて工夫は凝らしているのですが、「子どもが一番楽しめる、子ども向けのものを作ろう」とは思っていないんです。つまり、特定の誰かに向けた作品づくりをするのではなく、多様な観客がそれぞれの在り方で受け取れるような作品づくりをするということ。それが僕の思う「ファミリーシアター」なんですよね。演劇に初めて触れる子どもにも、普段から演劇をよく観ていて自分のこれまでの作品を追ってきてくれているような人にも受け取ってもらえる作品にできたらと思います。

――確かに、ファミリーは親子だけではないですし、子どもから大人まで多様なお客さんがいらっしゃいます。ちなみに、物語として『星の王子さま』を選ぶに至るには、どんな理由があったのでしょうか?

小西:個人的な話なのですが、僕はメンタルが柔らかいというか、かなり傷つきやすい人間でして…(笑)。しあわせ学級崩壊の演劇も派手にコラージュはされていたのですが、核にはそういったセンシティブさがあり、純粋な精神世界を表現することに苦心してきました。そうした自分の特質に『星の王子さま』の哲学的な物語性がマッチしているように感じました。あと、やはり劇場職員としては、初めて演劇を観る人に「劇場」という場所を好きになってもらいたい。吉祥寺シアターはブラックボックスで、慣れている人にとっては普通のことかもしれないけど、不慣れな方にとっては怖かったり、不安を感じるかもしれないと思っていて…。だからこそ、暗闇だから見える光や、夜だから生まれる想像力みたいなものを大切に、“劇場だからこそ見られる夢”を見せたいと思っているんですよね。そういう意味でも『星の王子さま』はぴったりの作品だと思いました。

■言葉を輝かせる音楽の追求、キャスティングへの思い

――『星の王子さま』は詩的な言葉も魅力の一つだと思うのですが、台本の執筆や稽古場での演出で小西さんが大切にしていることはどんなことなのでしょうか?

小西:サン=テグジュペリの残した言葉そのものがとてもすばらしいと思うので、最大限の敬意を払いながら、言葉の輝きが伝わる作品にしたいと思っています。同時に、自分がやりたいこと、そして、自分だからできることとしては、やはり音楽にどう言葉を乗せていくか、というところだと思うので、執筆も演出もそこにこだわって進めています。「この言葉を1番響かせるにはどういう音楽がいいだろう」とか、「この音楽にどんな風に言葉を乗せたらいいんだろう」とか…。稽古場でも言葉と音楽の親和性みたいなものを重視して立ち上げるようにしています。

――取材にあたって、楽曲を視聴しながら台本を拝読させていただいたのですが、まだ見ぬ劇世界への想像力がかき立てられ、ますます上演が楽しみになりました。小西さんは先月ユーロライブで上演されたゆうめいの音楽劇『あわせて』でも印象深い楽曲を手がけられていましたが、創作の工程として、音楽はどのタイミングで作られているのでしょう?

小西:ゆうめいの『あわせて』も今回の『星の王子さま』も元となるテキストがあって、このシーンに曲を入れたい、みたいな流れは予め決まっていました。ただ、実際に作曲する時は作品の内容や流れはそこまで考えていないんですよ。どちらかというと、先に1枚のアルバムを作るような感覚というか、『あわせて』に寄せるアルバム、『星の王子さま』に寄せるアルバムみたいな感じで…。なので、脚本とは別に、まずは音楽単体でも作品として完成されていることが大事だと思っています。「このシーンはこういう内容だからこういう音楽の表現が合う」ということではなく、「この作品でこういう音楽を流したい」ということが先にあって、そこから、それにどう言葉を乗せていくかを考える、という順番ですね。

――小西さんは、しあわせ学級崩壊でもダンスミュージックを中心とした楽曲と演奏を取り入れた劇作でいち早く音楽と演劇を横断した創作活動をされていましたが、作曲はいつ頃からやられていたのでしょう?

小西:音楽を作り始めたのは大人になってからで、しあわせ学級崩壊の旗揚げがきっかけでした。MIDIキーボードを作曲のツールとして使ってはいるんですけど、いわゆる音大で作曲を学んできた人のようには作れないので…。ループ主体の音楽性に特化して、演劇作品の中で独特のグルーヴ感を生んだり、だんだんトランスさせていくような作曲の方法でやってきたので、作曲活動においてはそうした持ち味が活かせる自分の得意なところで勝負ができたらと思っています。

――稽古でも、星々を巡るという連続性と生命という一回性が、グルーヴ感のある音楽によってともに躍動感を以て迫ってくるような感覚になりました。俳優さんの存在感がまたすごく魅力的で…。

小西:劇場職員としても「自分の経験を活かした仕事をしたい」という思いは常にあって、今回のキャスティングにもそういう気持ちが反映されています。しあわせ学級崩壊として活動していた頃に近しいところにいた俳優さんや、若手劇団の観劇を通じて知った俳優さん。そうした方の魅力や面白さを熟知していることが僕の強みなので、公共劇場という場で新たな創作や表現に共に取り組めたらと思っています。やっぱり自分は耳で演劇を作っているので、俳優さんの声はすごく大事だと思っているんですけど、今回の8名のキャストの方々はなんていうのでしょうか、聴いているだけで幸せになるような、力強く、それでいて心地の良い声をした方ばかりなんですよ。なので、声と音楽の融合も是非楽しみにしていただけたらと思います。

■劇場職員と劇団主宰 2つの視点から見る可能性と展望

――小西さんは、劇場職員として奔走する傍ら、先日新たな劇団「まばゆいクラブ」も立ち上げられました。そのことは、演劇シーンとしても、公共劇場シーンとしても一つの新たな在り方のようにも感じられたのですが、どんなビジョンをお持ちなのでしょうか?

小西:吉祥寺シアターの劇場職員になり、こうして「ファミリーシアター」を毎年作らせていただくようになって、改めて自分の創作や表現について深く考えるようになったんですよね。劇団単体ではできない、すごく刺激的でありがたい経験をさせていただいていると思っているし、表現活動としての充足感もすごくあります。同時に、人生を考えた時に「自分はやっぱり劇団っていうものを中心に据えて生きていきたいのだな」っていうことにも改めて気づいたんですよね。1人の演劇作家としてどういう物語を進んでいくのかっていう、人生を託せる場所が必要だと感じたというか…。

――メンバーには俳優だけでなく、舞台美術、照明、音響、宣伝美術、写真、制作と個性豊かなスタッフさんも参加されていますよね。

小西:いろんな人に連絡をして、結果的にすごくたくさんの方が応答して下さり、12人のメンバーとともに旗揚げをすることになりました。俳優だけでなく、スタッフの方にも参加していただいた背景には、ファミリーシアターでの経験があって…。僕はかわいらしいものを作ることが苦手なのですが、ファミリーシアターを創作する上ではかわいらしさが必要になる局面があり、そうした時に、宣伝美術、舞台美術、衣裳などのスタッフさんをはじめ、すごくたくさんの方に助けていただいているんですよね。そのおかげで豊かな作品が作れたと思っているし、助けを求めることができたことも今後の表現の幅を広げる上で非常に重要な経験でした。自分の表現はいろんな人の力があってからこそ輝けている。そう思って、スタッフの方も含めた12名で「まばゆいクラブ」という団体を旗揚げしました。

――旗揚げ公演は来年の2月。こちらも楽しみにしています! 劇場職員としての働き方や表現者としての創作との向き合い方、その双方についてとても興味深いお話の数々でした。

小西:しあわせ学級崩壊を解散したばかりということもあり、職員になった当初は創作をやるつもりは全くなかったですし、自分でもまさかこんな形で劇作に携わることになるとは思っていなかったんですよね。でも、支配人の助言のお陰もあって機会をいただき、毎年ファミリーシアターを作らせてもらうようになり、言ってみれば、ものすごく特殊な働き方をしていると思うんです。他の職員の方が隣で事務作業などをされている横で、自分はヘッドホンをしてキーボードを叩いて音楽を作っていたりするわけですから…(笑)。でも、僕はそれが自分の劇場職員としての仕事だと思っているし、妥協なく精一杯務めたいと思っているんですよね。良し悪しの議論が起こっても全然いいと思うので、まずは、こんな風に在り方を模索している公共劇場の職員もいるのだ、っていうことを知ってもらえたらうれしいです。

――そんな小西さんが劇場職員として大切にしていることはどんなことですか? 最後に、今後の展望も含めて教えて下さい。

小西:劇場職員をやっていてとてもうれしく思うのは、若手劇団の可能性とエネルギーがスパークする瞬間に立ち会えること。僕たちもそうだったのですが、環境や予算など様々なことを含めて、当たり前にいい作品が作れるわけではない状況にある若手劇団が120%を出すことができた瞬間に、僕はものすごく感動するんですよね。自分の関心はそういったところにあるし、劇場職員の役割としても、若手の方がそうした瞬間を起こすためのサポートやカバーをする立ち位置に自分はいると思うので、これまでの経験や活動を活かして、自分がフックアップできるところを精一杯やっていけたらと思っています。10月には「ラブ・演劇博―こちらの演劇、とおくのまちから。―」という世代を横断した地方拠点劇団の演劇ショーケースも上演されます。今後も面白いと思う企画をどんどん発信していけたらと思いますので、是非ご注目いただけたら!

(取材・文:丘田ミイ子)

吉祥寺ファミリーシアター2026『星の王子さま』は、8月14日から16日まで東京・吉祥寺シアターにて上演。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ