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【2026-27秋冬メイクトレンド】プロが解説する注目キーワード&デイリーメイクTIPS

  • 2026.8.5
Gettyimages, LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT


時代が選んだのはリアリティという答え

派手さや奇抜さで人を驚かせる時代は、静かに幕を閉じようとしている。「今季のコレクションを貫いていたのは、奇をてらわず、自分の美しさの延長線上で語るという成熟した態度でした。一つひとつのルックは異なるように見えても、俯瞰すると“リアリティ”というひとつの言葉に収束していくのを感じました」。そう語るのは、「クレ・ド・ポー ボーテ」メイクアップアーティストであり、「CFCL」をはじめパリコレクションの数々のランウェイでリードアーティストを務める中村潤氏。

「マックスマーラ(Max Mara)」 Getty Images

「クワイエットラグジュアリーの流れは続いていますが、ただ無難なだけのベーシックからは少しずつ離れ、いい意味でクセのある表現へと向かっています。クチュール的なアイテムに普段着のようなトップスを合わせるなど、現実の中で着こなせるものへの引力が強い。メイクアップもそれに呼応して、インパクトで勝負するのではなく、ごく小さなアクセントでムードを高める方向へと変わっています」

中村氏はこの繊細なアクセントを「subtle(サトル)」という言葉で表現する。かすかな、わずかなという語感の通り、メイクアップの面積も量も最小限に抑えながら、それでも確かなエッジとして成立する効かせ方を指す。「あからさまなインパクトで勝負するものは、もうほとんど見られません。たとえ強い表現があったとしても、それはインパクトのためではなくムードを高めるためのもの。パーツを一つずつ切り取って語るより、顔全体のムードや骨格感をどう立ち上げるか、という発想に移ってきています」

「モスキーノ(Moschino)」 Getty Images

その背景には現代特有の空気もある。フィルターやAIによって整えられすぎたビジュアルを見続けた末の、静かな疲弊だ。「完璧すぎる世界観には少しうんざり。そうした感覚が、今季のトレンドでも見られた“リアリティ”へとつながっているのだと思います。あからさまな表現には飽きてしまったけれど、繊細でいいムードのあるものは、やはり今も求められていますね」。人間らしさや体温を感じさせる表現への回帰。それが今季のトレンドを読み解く出発点となる。

まずはベースメイクのアップデートを

具体的なトレンドに入る前に、大前提となるのがベースの作り方だ。ヘルシーでみずみずしい肌という方向性は前シーズンから変わらないが、今季は、そこにもう一歩の磨きがかかっている。象徴的だったのは、「シャネル」に見られた濡れたようなツヤを宿すフレッシュな肌。これは現在の欧米のトレンドにも近く、明日からでも取り入れられる質感だ。

ただし、素肌をそのまま見せることが目的ではない。「すっぴん風とは違って、一定の完成度がほしいですね。カバーすべきところはきちんとカバーされていて、その上でツヤがある。軽いファンデーションをベースにしつつ、薄づきでも隠したいところにはきちんと応えてくれるリキッドコンシーラーを合わせるのがおすすめです」

完成度のある素肌の最後のひと手間として、眉とまつげを効かせる。ツヤのある肌は、それだけだとアクセントがなく、つるりと平板に見えやすいからだ。眉は髪色と同じ濃さでフォルムを描く。たったこれだけで顔が引き締まり、凛とした強さが宿る。こうして整えた土台があってこそ、これから紹介する4つのトレンドが、肩の力が抜けたまま洗練されて見える。

【TREND1】コントアリング

骨格で語る静かな存在感

左から「ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)」、「フェンディ(FENDI)」 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

今季を象徴するひとつめのトレンドは、コントアリングによる骨格の表現だ。血色を足すというより、顔そのものの骨格をほのかに立ち上げ、存在感を高めるアプローチである。「シャネル」に代表されるこのルックは、一見するとどこにメイクをしているのかわかりにくい。けれど、素顔の女性とは明らかに違うムードをまとっている。「アイシャドウとコントアーの色味を近づけて、同じひとつのアイテムで顔全体をまとめていくのがポイントです。アイホールのくぼみと、ノーズシャドウに近い目頭側に深みを与えることで、顔の中央の立体感が際立つ。これが今っぽく見えるベストバランスです」

「シャネル(CHANEL)」 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

これをデイリーメイクに応用するなら、視点を少し変えたい。ふだんのメイクで求めたいのは、骨格の強調そのものより、小顔に見えるバランスだからだ。「欧米のコントアリングはシェーディングをたっぷり入れて骨格を際立たせますが、日常で頬骨の下をくっきり削るとかえって不自然になりがちです。そこで色味に赤みや温かみを持たせて、チークとシェーディングの中間くらいにしておくと、パキッと出すぎません。顔の中央の立体感を上げてあげると、自然に小顔も叶いますよ」。芯のある女性像を、化粧感を立てずに描くテクニックだ。

SHISEIDO


目元にも頬にも使えるマルチなフェイス&アイカラーは、「同じひとつのアイテムで顔全体をまとめる」という今季の提案をそのまま叶える一品。温かみのあるコッパーが、チークとシェーディングの中間の色味として、パキッと見せずに顔の中央を立ち上げる。SHISEIDO カラー+グロウ エンハンサー 03 ¥6,270/SHISEIDO

【TREND2】オークシャドウ × ロマンティックチーク

大地の色に宿るほのかな甘さ

「クロエ(Chloé)」 Chloé / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

アイシャドウのトレンドとして印象的だったのが、オークやトープといった土や樹を思わせる色使いだったと中村氏。強すぎず温かみがあり、誰の肌にもなじむパレットだ。「今季は単色でのせるのが主流で、グラデーションはほとんど見られませんでした」。前シーズンまでのミュートカラーが“メイクをしている感”を打ち消すためのものだったとすれば、今季はそのミニマルさを保ったまま、女性像の雰囲気だけをわずかに動かす進化形と言える。

入れ方も難しく考えなくていいとのこと。「テクニックはほとんど不要で、この色味を選んで、ある程度幅広くぼかすだけ。強いて言うなら、目尻側は広げすぎないこと。やや目頭寄りにぼかすのが最近のアイシャドウメイクの鉄則です」

左から「セシリーバンセン(Cecilie Bahnsen)」、「シモーネ ロシャ(Simone Rocha)」 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

そのうえで組み合わせたいのが、ふわりと血色が広がる甘いニュアンスのチークだ。「土の色のアイシャドウと甘さのあるチーク。この掛け合わせが、ロマンティックな方向への小さなシフトを象徴しています」。しかもこのルックは、アレンジがほぼ不要だという。「直球でそのまま取り入れられます。可愛らしくロマンティックな表現は、私たちが長く得意としてきた領域ですから」。世界の感性が、日本がずっと磨いてきた美意識に追いついてきた。そんな手応えもある。

気をつけたいのは、可愛く仕上げるほどに目元の色を抜いてしまいがちなこと。「アイシャドウにもきちんと色を効かせて、それでいてトゥーマッチには見せない。そのバランスが大切です」。揃えたいのは、眉マスカラと練り系のチーク。チークは血色を引き立てるレッドか、温かみのあるオレンジ系を選び、同系のハイライトを添えるのもいい。眉マスカラは髪色にぴったり合わせるのではなく、「明るくするぞ」くらいの気持ちで2段階ほど淡く。色さえ淡ければ眉はそこまで太くなくてもよく、勢いのある眉に飽きが漂いはじめた今はむしろ新鮮に映る。リップは色をのせず、ツヤだけにとどめて。効かせるものと抑えるものをはっきり分けることが、このルックを今のムードに近づけてくれる。

Clé de Peau Beauté


ゴールドから深いブラウンまでの大地の色に、甘さを含んだペールピンクを効かせた、まぶたを整えるプライマー付きの4色パレット。土の色を単色でふわりとぼかしても、ほのかな甘いニュアンスを一色重ねても、今季の掛け合わせがこれひとつで完成する。オンブルクルールクアドリ 4 レフィル ¥6,820、ケース ¥3,520/クレ・ド・ポー ボーテ


【TREND3】下まぶたインサイドライン

ミニマルなブラックに秘めた反骨心

(左から)「ジバンシイ(Givenchy)」、「エトロ(Etro)」 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

長らく影をひそめていたメイクテクニックが、この秋冬になって帰ってきた。下まぶたのインサイドを黒でキリッと引き締めるラインは、「ディオール」をはじめ、「グッチ」や「プラダ」でも見られた。前回のコレクションで、中村氏が復活の兆しを語っていたものでもある。

派手な色も大きなアクセントもないのに、目元の一筋のラインだけが効いている。だからこそどこか反抗的で、内に強さを秘めたように見える。それがこのラインの魅力だ。鉄則は、アイシャドウの色が目立ちすぎないことだと言う。「飾りがないなかにインサイドラインだけがピッと入っているから、いい意味でパンクに見えるんです。逆にここへ色を足すと、途端に“ちゃんとお化粧した感じ”になって、一気に古く見えてしまいます」

「ディオール(DIOR)」 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

デイリーへの落とし込みは段階的に。まずは黒をブラウンのアイライナーに変えて強さを抑える。あるいは目頭側と目尻側だけに入れ、中央を抜いてライン感を和らげてみよう。

「全部を囲むのに抵抗があれば、目頭側を効かせて、目尻の下にも少し深みを置き、緩やかに繋ぐところから。それだけで十分なインパクトが出ます」。ショーではまつげを伏せた表現もあったが、これはランウェイならではの見せ方。「実際に取り入れるなら、まつげはビューラーやマスカラで立ち上げてフレッシュに。可愛さを残したうえで、そこに反抗的なラインが1本入る。その対比が大事です」

なお「ディオール」のショーでは、モデル一人ひとりの骨格に合わせてラインの入れ方が変えられており、アジア系のモデルには囲み目ではなく目頭側のみに留める表現も見られた。画一的に同じメイクを当てはめず、それぞれの顔に最適化する。それが今のランウェイの作法だという。

NARS



クリームのようにするりと引けて、乾けばにじみにくいマットに変わるアイシャドウスティック。ヨレやすい下まぶたのキワでも深いブラックが揺らがず、飾らない目元に一筋の強さを描ける。トータルセダクション アイシャドースティック 03751 ¥5,060/NARS

【TREND4】ソフトブラックスモーキー

重心は目頭に置きアーモンドアイをアップデート

(左から)「グッチ(GUCCI)」、「エルメス(Hermès)」 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

最後は、ソフトなブラックスモーキーアイ。グレーなどの無彩色を基調に、ときにカーキやゴールドのような色をひと差しすることで、グラデーションが陥りがちなクラシックさを軽やかに回避している。だが本当の核心は、色ではなく重みの位置にある。「グラデーションの深みを、目尻ではなく目頭側に置きます。アイシャドウを目尻に向かって広げるアーモンドアイが正解だと思われているからこそ、その重心をずらすだけでモードっぽさが一気に際立ちます」。長年アップデートされてこなかった常識を、さらりと書き換える一手だ。

「ブルマリン(Blumarine)」 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

デイリーメイクに落とし込むなら、彫りを深く見せる意識はいったん手放したい。「目元の凹凸をくっきり出すと、かえって重い印象になりやすいです。だから眉下のくぼみは軽やかにしておいて、目頭側に重みを移す。そうすると鼻筋まわりの立体感がスッと引き立ちます」。選ぶなら、光沢のあるグレーや黒。ツヤが暗い色の重さをやわらげてくれる。

心がけたいのは、一点集中。「ひとクセあることをやるときは、ひとクセだけ。ふたクセはいりません。コレクションのアイディアにはフックがあるからこそ、ワンポイントだけ取り入れるのがリアルでいいですね」。だからこそ、ベースメイクはなめらかに。目のまわりに肌ムラが残っていると、ぼかした暗い色が汚れて見えてしまうからだ。「薄付きでもカバーの効くコンシーラーで、整えるべきところは整えましょう」。仕上げのリップは、肌に溶けるコーラル系を。「怖く仕上げたときほど、可愛げのある色を効かせるんです」。青みのあるピンクは肌が浮いて強く出すぎるため、避けるのがベターだ。

このルックを着こなすなら、服選びにもひとつヒントがある。「プレーンなメイクアップをベーシックな服に合わせると野暮ったく見えてしまいがち。逆にこの目元くらいの効かせ方なら、ベーシックな装いがぐっと面白くなります」。シンプルな服にこそ、静かに強い目元を。それが今季いちばんモードな掛け合わせといえそうだ。

inoui



白から黒グレーまでのモノクロームを、光の質感だけで塗り分けた5色パレット。繊細なパールが暗い色の重さをやわらげ、目頭に深みを置く新しいスモーキーを軽やかに叶えてくれる。インウイ アイズ 05 ¥7,700/資生堂

まとめ:ひとさじのロマンティシズムを忍ばせて

「シーエフシーエル(CFCL)」 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

リアリティが今季の大前提であることは間違いない。けれど中村氏は、その水面下にもう一つの感情が芽生えていると見ている。それがロマンティシズムだ。といっても甘く華やかなものではなく、作為のない“揺らぎ”のようなものと言い換えるほうが近い。

「地に足をつけていないとかっこ悪いというマインドがある一方で、人は心のどこかで、少し現実離れしたものを求めている。でも、それをあからさまに出すと今度は力が入り、キマり過ぎてしまう。だからほのかに、らしさを醸し出す必要がある。そこが今のメイクアップとファッションのいちばん難しいところです」

「ゴスっぽいものも、実はロマンティックですよね」と中村氏。半年前に語っていたゴスやグランジの気配は、消えたのではなく、より大きな“ロマンティック”という器の中に溶けていた。「体感では、ダークで陰のあるムードが少し多めで、ソフトで甘いものがそれに続く感じ。でも割合はどうでもよくて、その人のまとう空気にこの“揺らぎ”がひとさじあるかどうかなんです」

「きれいに整えるのはもちろん大前提。でも、それだけだとどこか物足りなく見えてしまう時代なんですよね。肌も顔立ちも作り込みすぎず、鏡の前で仕上げすぎない勇気を持つ。それが、半年先のムードにいちばん早く近づく方法だと思います」

ほんの少しの不完全さや余白を一滴だけ残す。それが、これからの洗練の条件になるといえそうだ。

お話を伺ったのは

Launchmetrics


中村潤(Jun Nakamura)

資生堂ヘアメイクアップアーティスト。ラグジュアリーブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」を担当し、商品開発やビジュアル制作、グローバル広告のヘアメイク監修などを行う。ルックの世界観を際立たせるヘアメイクを得意とし、パリファッションウィークなど国内外のショーでリードアーティストとしても活躍。ブランドのコンセプトを視覚的に翻訳し、記憶に残るビジュアルを生み出している。

Text : Nathalie Lima KONISHI



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