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「カール・ハンセン&サン」の名作家具が真に輝く場所。クヌッド・エリック・ハンセンの邸宅で知る、北欧デザインの原点

  • 2026.8.4
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「カール・ハンセン&サン」CEO、クヌッド・エリック・ハンセンの邸宅には、ハンス J. ウェグナーやコーア・クリントによる名作から、プロトタイプ、幻の椅子までが、ごく自然に日々の暮らしへ溶け込んでいる。樹齢100年の木から復刻した椅子や安藤忠雄と5年をかけて完成させた一脚など、そこにあったのは、単に家具を「所有する」のではなく、名作とともに「生きる」暮らしだった。

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デンマーク・フュン島に建つ、「カール・ハンセン&サン」CEO、クヌッド・エリック・ハンセンの邸宅。1670年に建てられた歴史的な建物は、かつてドラグスホルム城ゆかりの一族が所有していた歴史を持つ住まいの一つで、現在も当時の間取りや暖炉などが大切に受け継がれている。歴史的建造物に指定されているため、改修には文化省の許可が必要で、屋根裏を居住空間へと改装するだけでも3年を要したという。

この邸宅に配置されているのは、ハンス J. ウェグナーやコーア・クリントによる名作家具だ。リビングやダイニング、書斎に置かれた椅子は、今も日々の暮らしのなかで使われ続けている。歴史ある建築と木の家具が静かに響き合う風景は、「名作家具は暮らしのなかでこそ美しい」という北欧デザインの思想を、そのまま映し出していた。

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一脚に宿る、それぞれの物語

その思想を象徴する一脚が、コーア・クリントによる“フォーボーチェア”だ。1914年、「フォーボー美術館」のためにデザインされたこの椅子は、装飾を削ぎ落とし、機能とプロポーションの美しさを追求した、デニッシュモダンの原点ともいわれる存在。

ハンセンは、この椅子の誕生100周年にあたり、ルド・ラスムッセン旧工房の敷地で育っていた樹齢約100年のニレの木から、わずか10脚だけを特別に製作したという。そのうちの一脚が、この邸宅で今も日々の暮らしのなかで使われている。

100年を生きた木を、これから先の100年へ受け継ぐ家具へ。その発想には、家具を単なるプロダクトではなく、世代を超えて使い継ぐ文化として育てていこうとする、「カール・ハンセン&サン」のものづくりの姿勢が表れている。この家で目にしたのは、家具を所有する暮らしではなく、名作とともに歳月を重ねる暮らしだった。

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名作家具は、完成した姿だけでは語れない。この邸宅には、製品になる前のプロトタイプや、失われたと思われていた椅子との出合いなど、一脚が名作として受け継がれるまでの物語が数多く残されている。

その象徴が、ハンス J. ウェグナーの“CH22”だ。邸宅には製品化前のプロトタイプが複数残されており、前脚は現在の楕円形ではなく丸脚のまま。当時は試作を重ねながら細部が検討され、最終的に現在のフォルムへとたどり着いたという。ハンセンは「父が製造していた頃は丸脚で作られていたため、それを見るだけで古いものか新しいものか分かる」と語る。完成した名作だけでなく、その試行錯誤の痕跡まで受け継がれていることが、この家の大きな魅力だ。

ハンセンが語る「受け継ぐ」という姿勢は、ほかの名作にも共通している。図面が失われたウェグナーの椅子は、ストックホルム近郊の農場で見つけた現物を採寸し、復刻へとつなげた。また、フリッツ・ヘニングセンの“FH419(ヘリテージチェア)”は、コペンハーゲンのヴィンテージショップで出合った一脚がきっかけだったという。名作とは、図面やカタログの中にあるものではなく、人から人へ、時代を超えて受け継がれることで、その価値を育んでいく存在なのかもしれない。

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「カール・ハンセン&サン」が受け継いでいるのは、過去の名作だけではない。ハンセンが何度も口にしていたのは、「復刻」と「挑戦」を両立することの大切さだった。

その代表例が、“CH20(エルボーチェア)”である。1956年にハンス J. ウェグナーがデザインしながら長らく図面のまま眠っていたこの椅子は、2005年に「カール・ハンセン&サン」によって製品化された。背もたれから肘掛けへとなめらかにつながる美しい曲線は、ウェグナーらしい有機的なフォルムを受け継ぎながら、現代の暮らしにも自然と溶け込む。名作を単に復刻するのではなく、時代に合わせて再び暮らしへ届けることも、このブランドの重要な役割なのだ。

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一方で、その挑戦を象徴するのが、安藤忠雄との共同開発によって生まれた“TA001P(ドリームチェア)”だ。開発は決して順調ではなかった。初めて安藤を訪ねた際、木という素材の特性を熱心に説明する一方で、安藤は黙々とスケッチを描き続けていたという。2年後に再会すると、安藤はファイバーグラスで考えていた椅子を示し、「木でできるはずだ」と言い切った。試作を重ね、ようやくスチールのベースで完成形に近づいたものの、「ひとつの素材で始めたものは、最後まで同じ素材でつくるべきだ」という安藤の考えから、すべて木でつくり直すことになった。

完成までに費やした歳月は5年。座面中央には約9cmもの厚みを持たせながら、両端へ向かって薄く削り出すという高度な木工技術によって、独特のフォルムが実現した。「決して多く売れる椅子ではない。でも、この椅子づくりに費やした時間と技術を思えば、製造をやめるつもりはない」。そう語るハンセンの言葉からは、大量生産では決して生まれない、ものづくりへの誇りが感じられた。

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一方で、ウェグナーらしい遊び心を感じさせたのが“バレットチェア”だ。背もたれはジャケットを掛けるハンガーとなり、座面を持ち上げると財布や時計を収めるトレーが現れる。「男性はジャケットを脱いでここへ掛け、ポケットの中身を置き、朝になればまた身支度をして出かける。そして再び椅子になるんです」。ハンセンは実際に動かしながら、その使い方を楽しそうに説明してくれた。機能とユーモアを自然に共存させる発想にも、ウェグナーが暮らしそのものをデザインしていたことが表れている。

名作とは特別な存在ではなく、人に使われ、受け継がれながら、暮らしのなかで生き続けるもの。この邸宅には、一脚ごとに異なる物語が息づいていた。

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暮らしのなかで生きる名作家具

邸宅を歩いていると、名作家具が主役として置かれている場所はほとんどないことに気づく。ダイニングでは食事を囲み、リビングでは本を読み、書斎では仕事をする。どの椅子にも役割があり、暮らしの営みを静かに支えていた。名作だから飾るのではなく、良いものだから使い続ける。その価値観が、この家全体に一貫して流れていた。

<写真>屋根裏を改修したダイニングには、コーア・クリントの“KK39490(スモール・レッドチェア)”が並ぶ。1928年に誕生した“レッドチェア”シリーズのダイニングモデルで、歴史的な建築にも自然に溶け込み、いまも家族の食卓を支えている。

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<写真>来客を迎えるメインリビング。ハンス J. ウェグナーの“CH25(ラウンジチェア)”や“CH415 (ウィングチェア)”、“CH20(エルボーチェア)”など、時代を超えた名作家具が自然に共存している。

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<写真>壁一面の蔵書に囲まれたライブラリー。コーア・クリントが1930年にデザインした“KK41180”もまた、暮らしに寄り添いながら使い続けられている。

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