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「黙っててください」飼ってはいけない犬を見つけてしまった。だが、住人の対応に思わず笑えたワケ

  • 2026.8.1

ベランダ越しの爪の音

住みはじめて半年、隣のベランダから小さな音が聞こえるようになりました。爪が床を掻くような、かたい音です。

洗濯物を取り込むたび耳に入り、夜になるとそれが鳴き声に変わります。

「今の、犬だよね」

「気のせいじゃない?」

夫はテレビのほうを向きました。

この建物では動物を飼えません。それでも私は、しばらく黙っていました。

隣は、私より少し若い女性です。帰りはいつも遅く、廊下で会うと会釈をして、すぐ扉の内側へ消えていきました。

リードを二度落とした手

鉢合わせたのは金曜の朝です。

回覧板を届けようとチャイムに手を伸ばした瞬間、扉が内側から開きました。

足元を、白い犬が駆け抜けていきました。

「あっ」

お互いの声が重なりました。

彼女はリードを握り直そうとして、二度取り落とします。指先が震えていました。

「違いますよ、預かってて」

犬は私の靴の匂いを嗅いで、しっぽを振っています。人に慣れた、おとなしい子でした。

「だから、黙っててください」

私は思わず、こう答えました。

「ルールはルールだと思いますよ」

彼女は口を開きかけて、そのまま閉じました。犬を抱き上げ、会釈もせずに扉を閉めます。

廊下には、リードの金具の音だけが残りました。

日曜の夕方に届いた報告

それから二週間、私は誰にも言いませんでした。

管理会社に電話をかけようとして、やめたことが何度かあります。決まりは決まりです。

それでも、あの震えていた指先を思い出すと、番号を押しきれませんでした。

すれ違うたび、彼女は先に目を伏せます。夜の鳴き声は日ごとに小さくなっていきました。

日曜の夕方、扉を開けると彼女が立っていました。腕には犬がいます。

「管理会社に、行ってきました」

顔つきが、あの朝とは違っていました。

「姉が入院して、行き先がなくて。話したら、三か月なら届け出で預かれるって」

「黙っててくださいなんて、言う筋合いじゃなかったです」

頭を下げた彼女に、私は首を振りました。

「言われなくても、言いませんでしたよ」

彼女の腕から力が抜けて、犬が床に降りました。

今は廊下ですれ違うと、目を伏せずに笑うようになりました。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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