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勉強も運動もできず、すぐ「ぼくはダメ」と落ち込むのに…ドラえもん研究者が見抜いた「のび太の最強の資質」

  • 2026.7.31

毎日を機嫌よく過ごすには、どうすればいいのか。ドラえもんを研究する富山大学名誉教授の横山泰行さんは「私たちはくよくよと思い悩み、うまくいかないことに執着してしまう。ところが、のび太は違う。その姿には、心を軽くするヒントが隠れている」という――。(第3回)

※本稿は、横山泰行『ポケット版「のび太」が教えてくれたこと』(アスコム)の一部を再編集したものです。

丸眼鏡
※写真はイメージです
「落ち込んでも引きずらない」のび太の立ち直り方

私たちの悪いクセの一つに、くよくよ思い悩むというのがあります。なかでも、疑心暗鬼になって根拠もないことをあれこれ考えるのは最悪。「ママ友の○○さんは、私のことをみんなに悪く言っているに違いない」なんて考え出したら最後。悪いことしか想像できなくなってしまいます。自分がつらいのはもちろんのこと、周囲もうんざりして本当に離れていってしまうかもしれません。

のび太もしょっちゅう、勝手に落ち込んではみんなに迷惑をかけています。でも、のび太のいいところは、立ち直りも早いところ。いくら落ち込んでも、それをいつまでも引きずらないのです。落ち込んだり立ち直ったりの繰り返しこそ、のび太の成長材料かもしれません。ドラえもんには、こんなエピソードがあります。


なにかにつけ自信を持てずにいるのび太は、学校でも登下校時でも、いつもみんなに笑われているような気がしてなりません。

ある日、そんなグチを聞かされたドラえもんは、そういうのび太のひがみっぽいところは嫌いだと言うものの、肩を叩きながら励ましもします。

「きみがいちばん悪いのは自分がだめだと思い込んでるとこだ。自信を持て‼ 自信を。そしたらなんでもきっとうまくいくよ」

それでも、のび太はドラえもんに背を向け、肩を落として神妙に語ります。

「自信なんか持てるわけないや。ほんとにダメなんだもん」

そんなのび太を見て、ドラえもんは、ひみつ道具の「自信ヘルメット」を取り出しました。「自信ヘルメット」は「人の言っていることが、自分に都合よく聞こえる。世界が自分のためにあるような気がする」という変わった道具です。のび太にこれをかぶせたドラえもんは、ダイヤルを「強」に合わせました。

「気分はどう? ひがみやのメソメソくん」

ドラえもんの嫌味な言葉さえ、都合よく聞こえている様子ののび太。

「いやあ、そんなにほめられるとてれるなあ」と明るい笑顔で答えたのです。

『てんとう虫コミックススペシャル ドラえもんカラー作品集 第5巻』小学館 第15話目「自信ヘルメット」

なんでも都合よく解釈すればいい

こんな態度を、「おめでたいヤツ」などと私たちは表現しますが、これこそ究極の幸せの道ではないでしょうか。物事をいい方向にとらえて、自分が気分よくいられるのなら、それで万々歳。自分の心の持ち方については、誰に遠慮することもありませんよね。

あなただって、ちょっとしたことで落ち込んだら最後、いちいち物事を悪い方向に考えてしまって、なかなか気分を立て直せないことがあるでしょう。そんなときは、のび太のこのエピソードを思い出して、なんでも都合よく考えてしまいましょう。

ちなみに、この手法は、さらに上級の使い方ができます。わざと「おめでたいヤツ」になりきって、愉快でない場を「鈍感に」乗り切ってしまうのです。たとえば、あなたの周囲に皮肉が大好きな人がいたとしましょう。

「あら、少しスマートになったんじゃない?」

こちらが少し太ったことを気にしているというのに、わざと見え透いたお世辞を言って面白がるような人が。そういう人に対しては、「自信ヘルメット」をかぶって対処。

「ありがとうございます! そうなんです。わかりますか?」

ニコニコ笑って流してしまうくらいがいいんです。こちらが困ったリアクションをするのを楽しみにしていた相手はきっと、「けっ、面白くねえ」と思って、もう何も言えませんでしょうから。

一つに執着すると道を失う

高校野球で将来を期待される選手は、毎年何人か出てきます。しかし、プロで実際に通用するのは、そのうちのほんの一握り。ほかの人たちは、残念ながらいつの間にか消えていきますよね。

スポーツ界だけでなく、芸術界も、一般のビジネス界でも同じでしょう。最後に残るのは、本当にその仕事が適していた人であり、必要とされる能力に欠けていれば去るしかない……。そんな過酷な面もあります。

ここで重要なのは、必要とされる能力は仕事によって違うということ。プロ野球選手として通用する能力がない人でも、何かほかの能力に長たけているはずです。それなのにプロ野球に執着していれば、花開かないばかりか、本当に自分に向いている世界をいつまでも見つけることができなくなります。

恋愛だって同様でしょう。どんなにこちらが好意を寄せても、相手が自分に興味がなければ振り向いてくれません。それを何とかしようと執着しても、ストーカーになっておしまいでしょう。あきらめれば次の出会いにつながるけれど、一人の人に執着するとそれもなくなります。ドラえもんのエピソードを見てみましょう。

二股に分かれた矢印の前に立つビジネスマン
※写真はイメージです
「あきらめのよさがぼくの長所」


のび太にとって、学校のない世界は憧れ。そんな大昔の世界に行ってみたくて、ある日「タイムマシン」に乗りました。「タイムマシン」から降りると、空気の味までが違っているような気がしました。気分は最高のようです!

まだ何もない景色を見回して、やがて学校が建つ場所などを確認しました。そして、いつも見なれた川へ行ってみると、現代と違ってたくさんの魚が泳いでいます。のび太は、その魚を捕ろうとするのですが、なかなか上手くいきません。

「しかし……。魚がいるということと、つかまえることとは別問題だね」

そんな言い訳っぽいことを思いながら悪戦苦闘していると、ザバッと川の中ですべってしまいます。グッタリとして岸に上がると、のび太は大昔の世界にいることがいやになり、帰ることにしました。

「あきらめのいいところがぼくの長所なんだ」

「タイムマシン」の入り口で、のび太はこう自己分析してみせました。

『てんとう虫コミックス ドラえもん 第30巻』小学館 15話目「昔はよかった」

残像のエフェクトがかかった古時計
※写真はイメージです

一つのことをあきらめることで「何もかもがダメだ~」とばかりにすべての自信を失い、何もしなくなっては問題ですが、のび太のように次から次へと新しい興味が湧いてくるなら、それもよしでしょう。そうこうしているうちに、自分が力を発揮できるものも見つかるでしょう。だから、飽きっぽく感じる性格も、まんざら悪いものではありません。

「投げ出しているんじゃなくて、あきらめがいいんだ!」

自分のことも、もしお子さんがいれば子どものことも、そんなふうに見ていくと気がラクになりますよ。

のび太は物事に対して、きわめて淡泊なところがあります。あまり深く考えたり、長く時間をかけたりということが苦手なのです。もし、のび太が会社にいたら、「すぐに投げ出すな。根気のないヤツだな」などと、年中、上司に叱られることでしょう。

でも、のび太のこうした資質は、決して悪い面ばかりではありません。淡泊だからこそ、深刻に思い悩み、自分を追いつめるようなことをせずに済むこともあります。また、ダメなところにいつまでも執着しないで、新しい課題に次から次へとチャレンジすることにもつながるかもしれません。

のび太の言うとおり、あきらめがいいのは、ときには長所となるのです。

「やろうと思っている」では損をする

「今やろうと思ったのに!」

子どもの頃、親に対してこんなことを言ったことがありませんか? まさにやろうとしていたときに先に注意されると、勉強もお手伝いもする気が一気に失せたのではないかと思います。

書類を投げるビジネスマン
※写真はイメージです

でも、親の立場になってみると、言わずにはいられないのもわかります。だって、実際に「やろうと思っている」ようには見えなかったのですから……。ドラえもんにもこんなエピソードがあります。


右手にコップを持ち、ストローでジュースを飲みながら、のび太は熱心にドラえもんとオセロをしています。かたわらで、心配になってきたのび太のママが、注意します。

「もういやなのよ。毎日同じことばかりくり返すの。学期末テストも近いことだし、少しはお勉強したらどうなの?」

すると、のび太は小生意気な返事をします。

「やりますとも! やる気のないときにしたって身につかないの。やる気になるのを待ってるの」
「いつ、やる気になるのよ」

ママが尋ねると、のび太は舌をペロリと出しながら、てきとうな返事をします。

「さあ……、一時間後か……、あすか……、来週か来月か……」

この態度に猛烈に腹を立てたママは、オセロを強引に取り上げ怒鳴りつけます。

「今すぐやりなさい! わかったわね、すぐによ!」

ヒステリックに命令されたのび太は、「ぜったいにやらない!」と叫んで、部屋を出ていってしまいました。

『てんとう虫コミックス ドラえもんプラス 第2巻』小学館 第1話目「変心うちわ」

催促される前に「やる気」を見せておく

会社でも、上司に言われたことをなかなかやらない人がいます。

「先週、頼んだあれ、いつできる?」

何にも言ってこない部下に、上司は思わず催促することになります。こんな催促をされると、部下としては「信用されてないのかなあ」とがっかりするかもしれません。しかし、上司のほうも、本当はこんなことは聞きたくないはず。できれば、催促される前に動いてほしい。これが上司のホンネだと思うのです。

横山泰行『ポケット版「のび太」が教えてくれたこと』(アスコム)
横山泰行『ポケット版「のび太」が教えてくれたこと』(アスコム)

夫婦間でも同じでしょう。夫が妻に、あるいは妻が夫に「いったい、いつになったら動き始めるのやら」とイライラする場面はたくさんあることでしょう。

たしかに、やる気が起きないときは本当に起きないもの。モチベーションが低いまま無理して動いても、いい仕事はできませんから、時期を見極めるのも悪いことではありません。だから、のび太の言うことにも一理あります。一理はあるけれども、じゃあ、のび太のやる気がいつ訪れるのか。それが見えないからママは怒らずにはいられないのだということも、気づくべきでしょう。

つまり、このセリフを吐くからには、「やる気のある態度」も普段からきちんと見せておく必要があるのだと思います。

いつもてきぱき動いている人が、そのときに限って動かないのであれば「あいつなりにタイミングを見計らっているんだな」と解釈してもらえますが、そうでなければ「また、ぐうたらしている」と烙印らくいんを押されてしまいます。普段から、周囲には何度か「やる気」を見せておきましょう。

横山 泰行(よこやま・やすゆき)
富山大学人間発達科学部名誉教授
1942年岐阜県生まれ。1976年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。フルブライト交換留学生(ペンシルベニア州立大学)。富山大学人間発達科学部名誉教授。生涯スポーツ論専攻。教育学博士。ドラえもんアナリスト。登場人物が夢や悩みにどのように対応し、解決したかを考え、人生を豊かにする方法を模索する「ドラえもん学」を研究。主な著書に『「のび太」という生きかた』『「のび太」が教えてくれたこと』『「スネ夫」という生きかた』(アスコム)がある。

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