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「ドラえもんの道具」でも「ママの雷」でもない…勉強嫌いなのび太を机に向かわせた、"45年後ののび太"の言葉

  • 2026.7.30

苦手なことが長続きしないのは、なぜなのか。ドラえもんを研究する富山大学名誉教授の横山泰行さんは「のび太は勉強や運動が苦手な小学生として描かれる。だが、エピソードを読み進めると、のび太の振る舞いには大人こそ見習うべきポイントがある」という――。(第2回)

※本稿は、横山泰行『ポケット版「のび太」が教えてくれたこと』(アスコム)の一部を再編集したものです。

45年後ののび太「きみはつまずいても、立ち直る強さがある」

昔の自分を振り返ると、「くっそー!」と悔しくなる思い出が多いかもしれません。頑張ったのに報われなかったり、誤解されたこともあるでしょう。また、明らかに自分に原因がある痛恨のミスもあったかもしれません。

でも、そのときには「もうダメだ」と感じても、精一杯取り組んできたからこそ、今のあなたがいるのではないですか? ということは、これから同じようなことがあっても、結果はどうあれ、困難に立ち向かうことができるはずです。漫画「ドラえもん」のシーンから、考えてみましょう。


45年後ののび太は、現在ののび太と入れ替えてもらえないかとドラえもんに頼んでいます。ちょっと昔を懐かしみたくなったようです。そのリクエストに応えて、ドラえもんは、ひみつ道具「入れかえロープ」で現在ののび太と45年後ののび太を入れ替えました。入れかえロープを使うと、心はそのまま体だけ入れ替えることができるのです。

そして45年後ののび太は、昔の記憶にある風景を堪能たんのうしてから家に向かいました。すると、家に入るなりママに怒鳴られます。

「のび太‼ 宿題もしないで‼」

それを聞いて、とても懐かしい気分になった45年後ののび太。

「若いなあ……。もっとしかって‼」

思わず変なお願いをしてしまいました。パパにも会って満足した45年後ののび太は、帰る前に、お礼代わりに宿題を手伝おうかと現在ののび太に申し出ます。

ところが、現在ののび太が「いいよ、自分でやるから」と断るのを見て、「さすがはぼくだ!」と左手でその肩を叩き、さらに、こう勇気づけました。

「一つだけ教えておこう。きみはこれからも何度もつまずく。でもそのたびに立ち直る強さももってるんだよ」

それを聞いて現在ののび太は、「少しのぞみがわいてきた」と、自ら進んで楽しげに勉強を始めました。

『てんとう虫コミックス ドラえもんプラス 第5巻』小学館 第20話「45年後…」

開いたアンティークの本にヴィンテージのメガネ
※写真はイメージです
抱えている問題も、1年後には片付いている

残念ながら今の私たちは、45年後の自分になることはできません。1年後の自分になることすらできません。だから、のび太のような形で今の自分にアドバイスをしてあげることはできません。

しかし、生きていれば、1年後も45年後も来ます。そのときには、今起きている問題はきっと片付いているんじゃないでしょうか。ただしそれは、問題から逃げないで真剣に取り組んだらの話ですが。

だから、今あなたの目の前にどんなやっかいな事柄があったとしても、絶望する必要などありません。そして、将来に不安を抱く必要もありません。あなたも私も、これからも何度もつまずくでしょうが、そのたびに立ち向かえるはずです。

もし、私の言っていることが信じられないようでしたら、過去に起きた問題をノートに書き出してください。冷静に見つめてみると、それらの問題から逃げてきたわけではなくて、あなたなりに対処して克服してきたのだということがわかるはずです。

問題は、そのままにしておけば失敗体験としてしか記憶に残りません。でも、克服したものとして認識すればこっちのもの。成功体験だと思ってしまえる場合もありますから。

ドラえもんですら、苦手からは逃げられない

誰にでも、得意不得意があります。得意な分野なら楽しくできるから、たくさん経験を積んでますます上手になる。でも、不得意なことからはどうしても遠ざかってしまうから、よけいに苦手になる。これって、よくあることだと思いませんか?

ドラえもんとて、この法則からは逃れられないようです。


その年はネズミ年。ネズミに耳をかじられた過去のあるドラえもんにとって、まさに悪夢の一年となりそう。考えただけでも、身の毛がよだつような心境になっていました。

「苦手なものがあったら、苦手でなくするよう努力しろって」

のび太は、いつもとは逆の立場で、押し入れに閉じこもっているドラえもんに説教しました。そして、「ネズミ年の今年こそ、ネズミに強くなろうと、かたく決心してみない?」と投げかけてみました。

ドラえもん自身、ネズミに強くなりたいのは事実なので、何とかしようと考えます。でも、そこでドラえもんは、ひみつ道具「にが手タッチバトン」を使おうとします。「にが手タッチバトン」は、さわった相手に自分の苦手なものを24時間移すことができるというものです。すると、のび太は「そんなごまかしはだめっ」と反対しました。

「自分の問題として解決しろ。自分をあまやかすな‼」

目を閉じ、得意気に説教しています。その横でドラえもんは、冷や汗を垂らしながら「きびしいんだなあ」と嘆くばかりでした。

普段からドラえもんの説教に慣れていたのび太だからこそ、ここぞとばかりにやり返すことができたのかもしれませんね。

『てんとう虫コミックス ドラえもんプラス 第5巻』小学館 第1話目「「スパルタ式にが手こくふく錠」と「にが手タッチバトン」」

ネズミを見る猫
※写真はイメージです
自分で克服すると“世界が広がる”

得意不得意は、人それぞれ。あることに関しては有利だった人が、別のことに関しては不利になったりするから面白いですよね。

あなたが子どもの頃にも、勉強では全然ダメな生徒が、運動会になるとスターになるというようなことがあったでしょう。大人になってからも基本的にはそれは変わらなくて、だからこそいろいろな職業が成り立つのです。タクシーの運転手は運転のプロだし、医者は医学のプロ。SEはコンピュータのプロです。もちろん、こうしたプロにまかせるべき分野はたくさんあります。

かといって、なんでもかんでも他人に任せていたのでは、自分の成長も限界があると思います。たとえばコンピュータなら、SEのようにプログラムまで組める必要はありませんが、まったく操作できないのでは困りもの。

「スマホはともかく、パソコンが苦手で……。書類づくりとか表計算は、できるだけ避けてきちゃって」

なんでもスマホで済んでしまう時代ですが、もう少し頑張ってITを使いこなしてみると、世界が広がっていきます。ここは、重い腰を上げてみる必要がありそうです。最初は大変でも、自分で操作できるようになれば世界がうんと広がりますよ。苦手なことを克服するのに、年齢はあまり関係ありません。いくつになっても遅すぎることなど、思うほどないでしょうから。

あなたの苦手なことは何でしょうか? 英語でも水泳でも料理でも車の運転でも、あきらめることなくチャレンジしてみては?

青空に上げられたビジネスマンの手
※写真はイメージです
「強すぎる意志」は身を滅ぼす

ただし、1つ注意点があります。いざ始めて「毎日やらなくては」と意気込みすぎると、かえって続かなくなるのです。ドラえもんには、こんなシーンがあります。


「きみはしょっちゅういろんな決心をするけど、いっぺんでもやりとげたことあるか‼」

のび太はドラえもんから厳しく指摘されました。

「いわれてみればぼくは意志が弱い……」

のび太としても、認めざるをえません。そこで、意志がとても強くなるひみつ道具「強いイシ」を出してもらいました。この石に決心を告げ、やり通す時間を設定すると、その時間中は放棄することが許されません。もし放棄しようものなら、頭やお尻に乱暴に石がぶつかってきます。

「ジョギングをやりとげてみせるぞ‼」

のび太は誓い、時間を一時間にセットしました。ところが、ジョギングの終了時間になっても、石はのび太を追いかけてきます。ドラえもんが確認すると、時間設定目盛りが一年間と誤ってセットされていたのです。

そのため、のび太がジャイアンの家に隠れても、しずちゃんの家で服を着替えて変装しても、石は執拗しつように追いかけてきます。

幸い、ドラえもんがひみつ道具「タイムふろしき」でスポッと包んでくれたので、時間の動きをストップさせることができました。この騒ぎで得た教訓を、のび太は、このようにまとめました。「強すぎるイシは身をほろぼす」。

『てんとう虫コミックス ドラえもん 第43巻』小学館 第12話目「強〜いイシ」

進歩を素直に喜んでいい

何かをやり遂げるために強い意志は必要ですが、それは柔軟なものにしておくことをオススメします。意志が強い人には、ときとして思い込みの強さも見受けられ、それが足を引っ張ることもあるからです。

「毎日走らなくてはならない!」

とかく、意志の強い人は決めつけてしまいがちです。だから、走ることができなかった自分が許せなかったり、たった一日走らなかっただけで、それまでのすべてが意味のないことのように思えてしまったりと、極端な評価に陥ることになります。

横山泰行『ポケット版「のび太」が教えてくれたこと』(アスコム)
横山泰行『ポケット版「のび太」が教えてくれたこと』(アスコム)

1日走るだけだって、30分走るだけだって、まったく走らなかったときより確実に進歩しています。だから、素直に進歩を喜べばいいのです。

人間科学という学問の分野では、人をその行動傾向から、「タイプA」「タイプB」などと分けることがあります。タイプAはせっかちで完璧主義で、まさに意志が強い。対して、タイプBは競争を好まないのび太のようなのんびり屋さんです。

ちなみに、タイプAはタイプBに比べて、心筋梗塞にかかる率が2倍になるとも報告されています。強すぎる意志は身を滅ぼすと言っても、いいかもしれません。

(参考:Association of specific overt behavior pattern with blood and cardiovascular findings)

意志はほどほどに、“のんびり”なのび太を見ならって

というわけで、自分が意志の強いタイプAだと思ったら、意識的にタイプBの人間とつき合ってみることをオススメします。のび太の行動をまねしてみるのもいいと思います。

最初は、進展が遅すぎるように感じてイライラすることでしょう。でもやがて、「絶対にやらなくてはならない」と思い込んでいたことが、やらなかったからといってどうということはなかったのだと、気づくことも多いはずです。

もちろん、意志が強いのはいいことです。強すぎに注意、ということです。人生は、楽しんでなんぼ。意志の強さもほどほどのところで留めておいて、もうちょっと、のび太ののんびりした部分を見ならっていきましょう。

横山 泰行(よこやま・やすゆき)
富山大学人間発達科学部名誉教授
1942年岐阜県生まれ。1976年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。フルブライト交換留学生(ペンシルベニア州立大学)。富山大学人間発達科学部名誉教授。生涯スポーツ論専攻。教育学博士。ドラえもんアナリスト。登場人物が夢や悩みにどのように対応し、解決したかを考え、人生を豊かにする方法を模索する「ドラえもん学」を研究。主な著書に『「のび太」という生きかた』『「のび太」が教えてくれたこと』『「スネ夫」という生きかた』(アスコム)がある。

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