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『逃げ恥』から10年、変わらぬ“火曜ドラマ”の魅力 今までの作品では“珍しい”悪役の存在感

  • 2026.8.30
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松本若菜 (C)SANKEI

松本若菜が主演を務める連続ドラマ『君の好きは無敵』は、キャラクタービジネスの世界を舞台にコンサルタントの女性とキャラクターデザイナーの青年が、世界に通用する最強にかわいいキャラクターを作ろうとする姿を描いたラブコメディだ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

超大手の経営コンサルタント会社の第一線で働いていた草壁杏奈(松本若菜)は、FIRE(早期リタイア)をして、会社を辞めてしまう。その後、草壁は隙間バイトをしながら過ごしていたが、ある日、領収書整理の隙間バイトで向かった『デザイン瀬尾』で、依頼主のキャラクターデザイナー・瀬尾深月(佐野勇斗)が、悪質なクライアントから法外に安いギャラで仕事を引き受けようとしている場面に遭遇してしまう。

草壁は二人の取引を止めて、悪質なクライアントを追い出すのだが、仕事を失った瀬尾は激怒する。償いのために草壁は、経営コンサルタントとして瀬尾の仕事を助けようとするのだが、瀬尾の夢は世界に通用する人気キャラクターを生み出すことだった。

キャラクタービジネスの光と影

本作はキャラクタービジネスの内幕を描いた作品で、クリエイターがかわいいキャラクターを生み出す様子を楽しく描くことで、「かわいい」や「好き」といった感情が持つポジティブな側面を前面に打ち出している。同時に、労働契約や著作権といったビジネス上の問題もしっかりと取り上げている。

瀬尾は元々、『MERRY』というキャラクター会社に所属していた。しかし、彼が生み出した『まんぷくもる子』というキャラクターが社長の大三島匠(本郷奏多)の方針で、強引に『シニカルモルコ』に変えられたことに激怒して、3年前に退社した。
その後、『シニカルモルコ』は社会現象と言えるほどの大ヒットとなり、『MERRY』を支える人気キャラクターとなる。
ビジネス面においては、大三島社長の采配は正しかったと言えるが、瀬尾の生み出したキャラクターのデザインが強引に変更されて会社のキャラクターとして世に流通している姿は、企業の利益のためにクリエイターが搾取されているように見える。

劇中では、瀬尾が立ち上げた『デザイン瀬尾』と、『MERRY』の大三島社長の対決を通して、クリエイティブとビジネスの衝突が描かれる。瀬尾は、キャラクターを生み出す才能はあるが、社交性がなくて世間知らずだったため仕事がうまくいかなかった。しかし、コンサルタントとして優秀でビジネスの知見がある草壁の協力で、少しずつ道を切り開いていく。

一方、プランナーの廣瀬高章(藤井隆)と、キャラクタープロデューサーの佐々岡鈴加(小野花梨)は大三島の方針と衝突して『MERRY』を辞めてしまう。二人はデザイン瀬尾の仲間に加わり、瀬尾が生み出した『チュチュチュエラ』の売り出しに協力するようになる。

クリエイターの意向を優先する『デザイン瀬尾』と、企業の利益を優先する大三島社長が率いる大企業『MERRY』の対決は、キャラクタービジネスの内幕を描いたお仕事モノのドラマとして面白い。
だが、物語全体のトーンは楽しいラブコメで、ビジネスドラマとしてのシリアスな部分は、前面に出過ぎないようになっている。
その結果、とても見やすい作品となっているのだが、これこそが火曜ドラマ(TBS系火曜夜10時枠)の魅力だと感じる。

ラブコメを貫くことで発展してきた火曜ドラマ

火曜ドラマは少女漫画原作のラブコメを定期的に作ることで人気ドラマ枠として定着している。大きな転機となったのは、2016年に放送された海野つなみの少女漫画が原作の『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)だろう。本作は、契約結婚をした森山みくり(新垣結衣)と津崎平匡(星野源)の同棲生活が楽しいラブコメだが、夫婦の関係を会社の雇用主と従業員の関係に見立てた家族観がとても斬新で、社会派ドラマとしても秀逸だった。

『君の好きは無敵』には『逃げ恥』に出演していた藤井隆が出演している。また、津崎平匡を演じ、主題歌の『恋』を担当した星野源が主題歌の『好き』を担当していることもあり、節々に『逃げ恥』の影響を感じる。

一方、主演の松本若菜は、2024年の火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』で主演を務めており、火曜ドラマで主演を務めるのは二度目となる。本作で松本若菜が演じた西園寺一妃は、アプリ制作会社のプロダクトマネージャーとして働いており仕事は優秀だが家事が苦手な38歳の女性だ。そんな彼女が、娘を1人で育てるシングルファーザーの同僚・楠見俊直(松村北斗)と偽家族として生活するお仕事モノのラブコメだった。

原作はひうらさとるの少女漫画で、脚本を担当した宮本武史は『君の好きは無敵』も手掛けている。 『君の好きは無敵』は、『西園寺さん』の成功を受けて、松本若菜と宮本武史が再タッグを組んだオリジナルドラマだが、主人公の草壁杏奈は、『西園寺さん』で松本が演じた明るい性格の大人のヒロインのイメージを引き継いでいる。

宮本の脚本は、これまで火曜ドラマが積み上げてきたテーマを継承した上で楽しいラブコメに仕上げている。何より、各登場人物にとっての「好き」と「かわいい」を掘り下げることで、自分らしく生きることの素晴らしさを描く展開を観ていると、これこそ火曜ドラマの美学だと感じる。

最後に、今後の展開で気になるのは大三島社長の描き方だ。ここまではっきりとした悪役は火曜ドラマでは珍しいため、彼には独自の存在感があるのだが、利益優先で動いているように見える大三島社長の中にも「好き」と「かわいい」が存在することがわかるような形に着地してほしいと願っている。


出典:TBS系 火曜ドラマ「君の好きは無敵」公式HP より

ライター:成馬零一
76 年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)、『坂元裕二論 未来に生きる私たちへの手紙』(blueprint)などがある。

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