1. トップ
  2. 住まい
  3. 転倒・通院を繰り返した60代夫婦、築28年マンションを“スケルトン”にして気づいた"制約の盲点"

転倒・通院を繰り返した60代夫婦、築28年マンションを“スケルトン”にして気づいた"制約の盲点"

  • 2026.9.6
undefined
出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。二級建築士・インテリアコーディネーターの桐野由衣です。マンションのリフォームは、戸建に比べて自由度が低いという印象があるかもしれません。しかし、管理規約に沿っていれば住戸部分全体を刷新する「リノベーション」ができるケースも少なくありません。

今回は、シニア世代向けに適したバリアフリーリノベーションのポイントを解説します。

マンションでもバリアフリーはできる?

都心の築28年のマンションに住む60代のUさんご夫婦は、奥様が室内の段差で転倒し通院されることが何度かあったことをきっかけに、部屋全体をバリアフリーにしたいとのご希望をお持ちでした。

近年のマンションは玄関や水まわりの段差がほとんどないバリアフリー仕様が主流ですが、Uさんご夫婦のマンションのように築年数が経っている物件は、室内に段差のある設計が多い傾向にあります。リフォームで段差をなくすことはできるものの、管理規約に沿って行うという、戸建にはない条件がある点に注意が必要です。

担当者が調べたところ、Uさんご夫婦の住むマンションでは、水まわりの配置を変えなければ比較的自由に工事ができることが分かりました。そこで話し合った結果、リフォームではなく、部屋を一度スケルトン(骨組みのみの状態)にしてオールバリアフリーに近づけるリノベーションを実施することに。内装や造作家具のコーディネートもご希望だったため、私は工事を担当する工務店の外部コーディネーターとしてプロジェクトに参加しました。

マンションでネックになりやすいのは水まわり

管理規約を遵守する形でリノベーションプランを設計し、管理組合の承認を得た後、いよいよ工事開始です。

Uさんご夫婦が所有権を持つ専有部分の構造部分以外を撤去し、スケルトン状態に。そして一から玄関、居室、水まわりがバリアフリーになるよう床下地を組んでいきます。水まわりの位置は動かせませんがサイズの拡張は多少可能だったため、個室が多かった以前の間取りを変更して廊下部分を大幅に短縮し、広々としたLDKとご夫婦の寝室のみに変更。近い将来車椅子を使用する可能性のある奥様も室内の移動がしやすい間取りに刷新しました。

今回オールバリアフリーを目指していましたが、浴室のみ他の部分と同じ床レベルに揃えることができませんでした。管理規約を守りつつ排水勾配を確保するには、どうしても洗面脱衣室との間に段差が生まれてしまいます。大きく開口する引き戸タイプのシステムバスは採用できたため、水がかかっても滑りにくい素材のスロープを設け、段差を解消しました。将来奥様が車椅子を使うようになっても、出入りしやすい仕様です。

リノベーション完成時点では奥様は自力歩行が可能であるため、「なるべく長く自分で歩きたい」というご要望を反映して壁面に手すりも追加しました。

マンションでは、建物全体の排水計画や下階への万が一の漏水防止といった観点から、排水勾配を取るために床を下げられない場合が多いです。同じ理由で洗面室の床を下げられない場合もありますので、マンションでバリアフリーをお考えの場合は、水まわりとの取り合いを工事業者にしっかりチェックしてもらいましょう。

シニア向けの仕様も反映

Uさんご夫婦のリノベーションプロジェクトでは、バリアフリーや間取り変更以外にも、シニア世代に向けた工夫を細やかに取り入れました。

たとえば玄関や廊下、トイレ、洗面脱衣室、キッチンといった頻繁に出入りする場所には、人感センサー照明を採用。照明操作が不要になるだけでなく、切り忘れ防止にもつながります。また、夜間に寝室からトイレへ行く際に、照明スイッチを探さずに済みます。

視力低下により光がまぶしく感じやすいご主人のために、淡いグレーの壁紙を部屋全体に取り入れました。照明の光を反射しにくいマットな質感のタイプを選び、高齢者の目の疲れを軽減します。

シニア世代のリフォームやリノベーションは、「段差をなくす」という王道の方法だけではなく、視力・指の力の衰えといった細かな部分にも対応できる仕様にしておくと、満足度が上がります。

そして、マンションならではの制約の中でもできることはたくさんありますから、「こうしたい」という要望はひとまずすべて担当者に伝え、良いプランを提案してもらいましょう。


ライター:桐野由衣
住宅設備メーカーや住宅コンサルタント会社、大手リノベーション設計会社にて新築分譲マンションの設計変更、戸建住宅・オフィス・医療施設等の設計およびインテリアコーディネートに携わる。
建築関連分野の記事執筆・校正校閲・監修業務、企業研修講師、インテリアコーディネーター資格対策テキスト監修、工務店の施工事例集ディレクションなどの実績も多数。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】

の記事をもっとみる

注目コンテンツ