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世界が注目する刺し子の職人集団〈サシコギャルズ〉を知っているか?

  • 2026.8.4

いつも自分のワードローブには長く愛着の持てるアイテムを加えていきたいと思っているが。一方でその選択肢は常にアップデートしていたい。2026年春夏シーズンに大切にしたいのは、“WELL−MADE”(作りの良い)なアイテムを見つける視点である。ここでは「SASHIKO」をキーワードに、一歩先行くマスターピースをご紹介します。

photo: Hiromichi Uchida / text & edit: Shigeo Kanno

〈ニューバランス〉991 刺し子、〈ヴァンズ〉オーセンティック 刺し子、刺し子キャップ
BRUTUS

布地に糸で図柄を縫い込む日本の伝統技術「刺し子」。主に東北地方に伝わるこの技法は、海外でも“BORO”として価値を見出され、収集家も多い。そんな現代の刺し子文化を盛り上げ世界から注目を集めているのが、岩手県大槌町を拠点に活動する、地元の40〜80代の女性で構成された〈SASHIKO GALS〉だ。

始まりは、2011年の東日本大震災。避難所に入ったNPO団体のボランティアが、狭い空間で時間を過ごす女性たちの姿を見て「何かできることを」と考えたこと。針と糸と布があればできる刺し子は、気を紛らわせ、心の平穏を保つ時間として取り入れられた。

サシコギャルズ
サシコギャルズ  大槌町の事務所で製品を囲み、にぎやかに語り合う刺し子職人たち。彼女たちの楽しげな姿から〈SASHIKO GALS〉と名づけられたという。右から、佐々木加奈子さん、佐藤淳子さん、高橋かおりさん、小笠原涼子さん、黒澤かおりさん。ここで打ち合わせを行い、おのおのの自宅で作業をする。

最初は布巾など小さなものからの出発だ。同年5月に動きだすと、翌6月には復興支援商品としてオンラインで購入できる仕組みが立ち上がる。当初はボランティアのチームで走りだしたが、活動は程なくして継続的な運営体制へ移り、制作の現場は大槌町に残った。年月を重ねる中で大槌の刺し子は、単なる支援活動ではなく「技術」として磨かれていく。

転機は、ファッションブランド〈KUON〉との協働だ。〈KUON〉は刺し子の製品作りを定番化し、大槌町の刺し子を担う職人部門を設立。町で培った技術を外へ開き、仕事として成立させる。その流れで〈SASHIKO GALS〉と名を冠し、国内外へ発信するブランドとして輪郭を得た。震災後に始まった針仕事は、“手の記憶”から“プロフェッショナルの技術”へと、もう一段ギアが上がった。

刺し子の見本として使われている襤褸
刺し子の見本として使われている襤褸(ぼろ)。幾重にも重なった木綿の生地を刺し子で縫いつないでいる。
〈KUON〉と〈ループウィラー〉のコラボ刺し子商品
〈KUON〉と〈ループウィラー〉のコラボ商品。サシコギャルズ 刺し子スエット(完売)。
刺し子デニムシャツ
作業中のデニムシャツ。

制作方法に決まった正解はない。図案を引き、縦、横、斜めと順に刺していくことで模様が浮かび上がり、途中で止めれば別の柄が現れることもある。完成形は最初から決まっているのではなく、工程を踏む中で見えてくる。刺し子はもともと布を補強するための知恵で、重ねた布を縫い留めて強度を高める技術だった。

その延長線上に今の装飾性がある。作り手にとって楽しいのは、完成時よりも途中だという。模様がつながり形が見えてくる過程。色をどう合わせるか考える時間。完成が近づく手応え。すべてが制作の醍醐味で、仕上がる頃には「手放したくない」と感じるほど愛着が湧く。刺し子を施したスニーカーがSNSで注目されたことをきっかけに海外からの関心も高まり、問い合わせも増加した。

〈ニューバランス〉991 刺し子
〈ニューバランス〉や〈ヴァンズ〉のシューズは、〈KUON〉のオンラインサイトで年に限定足数のみ抽選による個人オーダーができる。330,000円〜。(KUON)
〈ヴァンズ〉オーセンティック 刺し子
藍染めなどの古布を用い、糸選びやデザインは職人の感性に委ねられる。(KUON)
刺し子キャップ
藍染めなどの古布を用い、糸選びやデザインは職人の感性に委ねられる。キャップ各23,100円(KUON)

活動開始から十数年。最初は簡単な図案刺しだったものが、伝統柄を学び、応用作品へと広がった。現在、制作に関わる作り手は二十数人。震災直後には100人以上が参加していたが、生活再建や転居で減少し、その後クチコミをきっかけに再び増えてきた。中心は、長年続けてきた高齢女性で、今後は若い世代をどう迎えるかが課題でもある。

震災支援として始まった手仕事は、時間とともに意味を変えた。刺し子は装飾でも工芸でもあるが、それ以上に、人の手が暮らしを支えてきた記憶そのものだ。そして今、その技術は〈SASHIKO GALS〉の名前の下、次の世代へ、そして世界へと静かに縫い継がれていく。

岩手県上閉伊郡大槌町
岩手県上閉伊郡大槌町は、沿岸部、三陸海岸のほぼ中央に位置する町。人口は約1万人強。漁業を中心に栄えた海の町で、東日本大震災で大きな被害に遭ったが、現在は復興と地域文化の継承を軸に新たな町づくりが進んでいる。
大槌刺し子 ロゴ
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