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「傘くらい、床に置いていいだろ」ドラッグストアの入口に濡れた傘を置いた客。だが、傘がなくなっていた理由とは

  • 2026.8.1

大雨の入口で響いた音

朝から降り続く雨で、ドラッグストアの入口には大きな水たまりができていました。

買い物を終えて、傘立てのほうへ歩いていくところでした。

自動ドアが開いて、紺色の傘をさした男性が入ってきます。傘を畳んで、雨粒を切っていました。

傘立ては、その人のすぐ左手にあります。てっきり、そこへ入れるものだと思っていました。

ところが男性は、傘を持ったまま二歩進んで、手を放したのです。

がしゃん、と硬い音が響きました。

思わず足が止まりました。傘は通路の真ん中に転がり、柄の先から水が広がっていきます。

「傘くらい、床に置いていいだろ」

誰にともなく、そう言ったのが聞こえます。

怒鳴るでもない、ひとりごとのような調子でした。

男性はかごを取り、店の奥へ入っていきました。振り返りもしません。

入ってきたお客さんが、転がった傘を避けて歩いていきます。

拾って、立てて、床を拭いて

しばらくして、かごを重ねて運んでいた店員さんが通りかかりました。

犯人を探すでもなく、ため息をつくでもありません。

店員さんは1本の傘を拾い上げ、ばらけた生地をそろえて留め具を巻き、傘立ての端にまっすぐ立てました。

それから腰の布で床にしゃがみ、広がった水を二度、三度となぞっていきます。

拭き終わった床は、もとどおりです。かごを持ち直して、奥へ戻っていきました。

男性が会計を終えて戻ってきたのは、十分ほど後でした。片手にレジ袋を提げています。

床を見て、立ち止まりました。あるはずのものが、ありません。

そこへ、さっきの店員さんが小走りで近づいてきます。

「お客様」

店員さんは傘立てから紺色の傘を抜いて、両手で差し出しました。

「こちら、お預かりしておきました。床が濡れますと滑って危ないので」

責める響きは、ひとつもありません。声も、いつもの接客のままです。

男性は口を開きかけて、そのまま閉じました。言い返す言葉を探しているようでしたが、何も出てきません。

「……ああ」

それだけ言って、両手で傘を受け取りました。

店員さんは頭を下げて、レジへ戻っていきます。最後まで、声を荒げることはありませんでした。

男性は傘を握ったまま、しばらく傘立てを見ていました。それから雨の中へ出ていきます。

三週間ほど経った、やはり雨の強い日のことです。

同じ店の入口で傘を畳んでいると、後ろから紺色の傘の人が入ってきます。あの男性でした。

男性は傘立ての前で立ち止まり、水を切り、留め具を巻いて、いちばん端に差し込みました。

そして何事もなかったように、店の奥へ歩いていきました。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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