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「1杯もまともに淹れられないの?」喫茶店で店員を責めた母親→子供の頃の私が見た本音

  • 2026.7.29

呼びつけられた店員さん

デパートの上の階の喫茶店で、母が片手を高く上げました。

小学生だった私は、ケーキにフォークを入れたばかりです。

ホールにいた若い女性の店員さんが、小走りでやってきます。

「これ、ぬるいんだけど」

母が指さしたカップからは、まだ白い湯気が立っていました。

「申し訳ございません。すぐお取り替えいたします」

店員さんが手を伸ばしたところで、祖母が声を重ねました。

「1杯もまともに淹れられないの?」

店員さんの動きが止まりました。

「お客さんに出すものでしょう。それが分からないの」

母も身を乗り出して、同じ話を繰り返します。

取り替えるだけで済む話が、いつまでも終わりません。

隣の席の人が振り返り、離れた席の人までこちらを見ています。

店員さんの顔が、紙のように白くなっていきます。

私はフォークを持ったまま、うつむくしかありませんでした。

空になった3杯のカップ

温め直したコーヒーが届くと、母はこう言いました。

「熱すぎる。これじゃ香りが飛ぶじゃない」

それでいて、二人はカップを空にしたのです。テーブルに残ったのは、3杯とも空になったカップだけでした。

「お会計は、レジでお願いいたします」

伝票を手に、母が立ち上がります。

頭を下げたまま引かなかった人

母が伝票を置いて、何か言っています。

店員さんの肩が、びくりと動きました。

「ぬるいものを出したんだから、お金はいりませんって言うのが筋じゃないの!?」

祖母の声は、私にも届きました。

奥から出てきたのは、この店の責任者でした。

「お待たせして申し訳ございません」

深く頭を下げ、伝票をそっと二人のほうへ向けます。

「ぬるかった件は、こちらの落ち度です。重ねてお詫びいたします」

「でしょう」

「ですが、お代はいただきます。お二人とも、最後まで召し上がっていらっしゃいますので」

母の背中が、ぴたりと止まりました。

「……そんな言い方、あるの」

「申し訳ございません」

頭を下げたまま、伝票を引きませんでした。

レジに並ぶお客さんが、じっと二人を見ています。祖母が母の袖を引きました。

結局、二人は黙って支払ったのです。

店を出てきた母と祖母は、私に何も言わず、足早にエスカレーターへ向かいます。私は小走りで追いかけました。

あの店員さんは、最後まで謝っていました。何も間違えていなかったのです。

間違っていたのは、私の手を引いて歩いている二人のほうでした。子どもの私にそれが分かってしまった夜のことを、今でも覚えています。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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